第三十七章 鈴木今日子
私は三堂一郎君の事が好きだった。
私が彼を好きになったのは、私達がこの学校の四年生になった時だ。
いやだなぁ
私は学校に行く足取りが重かった。
私は一週間ほど前からクラスの数人から嫌がらせを受けていた。
教科書やノートやファイルをゴミ箱に捨てられたり、休み時間に呼ばれていってみたら、その数人が私を取り囲んで「死ね」だの「キモイ」だのといった言葉を360°から浴びせられるのだ。
今思えば当時の私は暗い感じで陰の薄かったためだから、その様ないじめを受けていたのと思う。
ですが、当時の私はなぜ自分がこの様ないじめを受ける理由が分からなかった。
学校に着くと、私をいじめている数人の男女からの、冷たい目線が…私を包み込まなかった。
あれ?
私は変だなと思い、自分の机に着いて、恐る恐るその中を見た。
あれれ?
いつもはゴミ箱に入っているはずの私のファイルが、ちゃんと机の中に入っていたのだ。
「………」
私はしばらくその場に突っ立っていた。
「何で…?」
嫌がらせをされなくなったのは嬉しいが、それもいきなりだったので、私は不思議に思った。
すると、クラスの男子がスウッと私に近づいてきて、私の耳元で言った。
「お前、三堂に感謝しろよ」
「エッ?」
私と三堂君は、ただ単にノートを見せてあげたり見せてもらったり、一緒のグループで活動したりする程度の間柄だった。そんな彼が何を…
「俺、見てたんだよ。
三堂のヤツがお前をいじめていたヤツらに「今日子をいじめるのはやめろ」って言ってたのをさ」
私はすぐに三堂君の所へ向かった。三堂君は今日勉強する所の予習をしている最中だった。
「なんだ?今日子」
彼は私が来たのに気付くと、鉛筆を置いて、自分の体が私の正面を向くように椅子を動かした。
「…三堂君…なんで私をいじめている人達に、いじめをやめさせるように言ったの?」
いじめをしている人に、いじめをやめさせるのは簡単な事ではない。最悪、そのせいで自分にそのいじめの矛先が向くかもしれないのだ。
「なんでって…そりゃあ、俺達友達だろ?」
いじめをやめさせる事で、その矛先が自分に向くかもしれない事は、彼なら絶対に分かっていたはずだ。
それで、私は三堂君が好きになった。
自分の事を気にせずに、私を守ってくれた彼を…
私は三堂君に告白したくても、なかなか切り出せずにいた。
そんなこんなでアッと言う間に二年の月日が経ち、そしてこの殺戮が始まってしまった。
私達は、沢山の犠牲を出しながらもここまできたが、私もこれで、もうおしまいのようだ。
少女が放った矢は、三堂君には当たらず、大きく反れて私の胸にドスッという、鈍い音を立てて突き刺さった。
…胸が熱い…
刺さった所から出ている赤い熱い液体は…私の血?
「きょ…今日子!今日子!!」
三堂君はすばやく私の方に駆け寄ってくれた。
私の体は一気に力を失い、三堂君の体にもたれ掛かるかの様に倒れた。
「しっかりしろ、今日子!」
私の肩を彼は激しく揺する。
もう私は死ぬだろう。
どんどん目が霞んでゆく…
こんな時に言うものじゃないかもしれないが…今逃したら…
「三堂…ハァ…君…」
一言一言口に出すのに、胸がキチキチと痛むので、上手く言葉にならない。
「私は…ハァ…あなたの…ハァ…事が…」
「もういい、喋らないでくれ」
彼の一言で私は口を閉じた。
思いを伝える事は出来なかったけれども、私は最後に彼の優しさに再び触れる事ができた。
それだけで私はうれしかった。




