第三十一章 柴藤武
「五時間目が始まったか…」
そう呟き、柴藤武はフェンス越しから辺りに鳴り響くチャイムの音を聞いていた。
武が妻からの電話を受け、会社から飛び出して学校に飛んでいったら、もう三時間目になっていた。
武の娘、柴藤あゆみはこの冥王小学校の六年生である。武とその妻が三十代の後半でようやく授かった大切な一人娘である。
武はとにかく娘の安否を知りたかったので、さっきようやく通りかかった娘の同級生に声を掛けてみたが、その同級生は娘の事は知らなかったようだ。
この状態だと…
そう思った瞬間、向こうの一階の渡り廊下の扉が開いて、一人の少女が飛び出した。柴藤あゆみである。
あゆみはなにかから逃げているようであった。
良かった…無事で…
だが、そう安心もつかの間である。
あゆみが扉から出てきた数秒後、その扉から大きなヤリを持った少年(K)が出てきた。服装や持っている物からして冥王小学校の生徒ではないだろう。
「あゆみ!」
武は思わずフェンスをガチャガチャゆすって娘に向かってそう叫んでいた。
あゆみはその声に気付いたのか、武の方を向いて走り出した。もちろんKもあゆみを殺そうと同じ方向走り出す。
「お前はこっちに来るな!」
武はそう叫んだが、Kはそんな事は気にも止めず、彼は逃げるあゆみとの差を縮めていく。
お願いだ…
武はそう強く念じた。
あゆみが武のいるフェンスまで逃げてきた時、
ドスッ、という、奇妙な音がして、あゆみの胸から銀色の血に染まったヤリの刃が生えていた。
彼の目の前は真っ暗になった。




