第二十九章 杉下司場井
「まだこうやって見つめ続けてるんですか?」
「俺だって好きで見つめあっている訳じゃない!」
SAT第一部隊隊長、杉下司場井はフェンス越しから冥王小学校の生徒の惨死体を見ていた。
杉下は小学生の頃、両親に連れられて銀行にいった際、その銀行で、銀行強盗に出くわした。
強盗は、幼い杉下を人質にとり、銀行に立てこもった。
何十分も、何時間も拳銃を自身に向けられた杉下の精神が崩壊しかけた頃に、救いの神達はやって来たのだ。
何かの(おそらくドアからだっただろう)隙間から煙球の様な物が入ってきて、辺りを包んで強盗の注意を引いたからである。
その瞬間、そこからバタバタと何十人かの武装した集団がその強盗を取り押さえ始めたのである。
その集団が、幼い杉下には、子供番組に出てくる正義のヒーローの様に見えたのである。
俺もあのような人達みたいになりたい!
杉下はそういった思いで懸命に努力し、何時しかこの部隊の隊長に任命されるほどにもなったのである。
「なんでいつまでたっても突入させてくれないんだ!」
こっちは武装しているし、相手も武装をしているとはいえ、まだ十歳前後のガキどもだ。
溜まりに溜まった怒りをブチ当てる様に杉下は、通信機で上官部の連中に問いかけた。
「なぜ私達を突入させてくれないんですか?」
上官達は少し間を置くと、
「…ヤツらは自分達の事をSCYと名乗っているそうだ」
「SCY…」
それでか…
杉下はその組織の事をよく知っていた。
警察でも、けっこうの位の者にしか伝えられていない、組織である。
「残念だが、私達警察には冥王小学校の生徒や教師達を助け出す事はできない」
それを聞いて、全身の力が抜ける感じがした。
自分一人でも突入したい気分だったが、誰一人救えないまま八つ裂きにされるのがオチだ。
だが…
その代わり、もしも何人かが生き残っていれば、その人達に、自分が知る限りのこの事件を起こした連中の事を話してやろうと思った。




