第十五章 舟原供太
冥王小学校教師、舟原供太と大崎東は一郎達と別れた後、すぐに外に出て歩いていた。
「アイツら…大丈夫でしょうかね…?」
大崎が心配そうに言った。自分の教え子なのだから無理もないだろう。
「なあに、二時間目まで逃げ切れた運のいい子達だから、心配もいらないでしょう」
そんな事を言う舟原も、本当は教師として一郎達と一緒にいってやりたいと思っていたが、今の彼にはそれが出来なかった。
彼には妊娠して、今日子供を出産する妻がいるのだ。
男の子か女の子かはまだ知らされていないが、舟原は男の子でも女の子でもよかった、とにかく彼は子供が欲しい、ただそれだけだった。
だから、舟原は今ここで死ぬ訳にはいかないのだ。
自分の子供を腕に抱いて、妻と共に笑うまでは…
「さて、大崎先生、どこにいきましょうか?」
「じゃあ、一年生用の遊具がある所にいきましょうか」
二人がそこにいこうと歩き始めた時、ビュッという音がした。
「な…なんだ!?」
気付けば二人の目の前にはバットを持った少女(D)が立っていた。
「な…なんだね…」
大崎が声を震わせて言った。
「もちろん…」
Dがバットを構えた。
「アンタ達を殺しにきたのよ!!!」
「逃げて下さい!大崎先生!」
Dが駆け出すのよりも、舟原の指示の方が早く、大崎は全速力で違う方向に走り出した。
「よ…」
ばこっ…
舟原も大崎に続いて逃げようとした時、腹に相当の激痛が走った。
「ぐっ…」
Dのバットが腹にめり込んでいたのである。
ガキッ
「があぁぁぁ…」
今度は頭にバットが当たり、舟原は数メートル吹き飛んだ。
ぽと…
殴られた衝撃で、舟原の左目の眼球が取れた。
「ああ…ああ…」
「それ!!」
Dが声を上げて四つんばいになっている舟原に向かってバットを振り落とした。
バキイィィィ…
「ギヤアアアァァァ!」
「あっ!この音は背骨が折れた音ね!」
Dはさらにこの音で興奮したらしく、さらにバットを振り上げた。
「ぎやあぁぁぁぁ…ガハアァァァァァ…ぐふぅぅぅぅぅ…」
学校に舟原の叫び声が響き渡った…
どのくらいの時間が経っただろうか?
舟原はアスファルトの上で倒れていた。Dはもうどこかにいってしまったらしく、もういない。
「ハア…ハア…」
残り一つしかない目がぼやけて辺りがよく見えない。体のほとんどの骨はメキメキに折られ、タコになった気分だ。体中が痛い。
ピピピピピピピピピピピピ ピピピピピピピピピピピピピ
舟原のポケットに入っている携帯電話が静寂した中に鳴った。
なんだ…
舟原はポケットから携帯電話を取り出した。
「これは…」
相手は舟原の妻であった。
「はい…もしもし…」
舟原はかすれた声で応じた。
「あなた…やっと生まれたわよ!」
妻の声は喜びに満ち溢れていた。
「そうか…そうか…」
舟原の傷んだ体から喜びが噴出してきた。
「元気な男の子の赤ちゃんよ!目元口元はあなたにそっくりよ!」
「…ほう…それは…」
携帯電話の奥から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
舟原はそれを聞くと、ポトリと携帯電話を血の海の中に落とした。
「……あなた…ねえあなた!」
子供の顔は見れなかったものの、無事生まれてきた事だけで、彼は胸がいっぱいだった…
また一つ、尊い命が失われたのであった…




