修羅場
さすが魔王さま! と臣下が一様にわいわいしだした。結局血の一滴も流れることなく魔王城は防衛されたのだ!!
「おお、そうだところでルーズベルド! おぬしルーと呼ばれていたな」
先ほど彼の兄ハリエルが呼びかけた時のことだろう。第二王子ルーズベルドがためらいがちにああ、と返事をすると魔王ルージュは笑顔を輝かせて言った。
「いいな! 我もルーと呼ぶことにしよう!」
ぎゅんと心臓を一突きされたかのような衝撃が勇者ルーズベルドを襲う。これは、ずるい。不意打ちにもほどがある!!
ルーズベルドはその場にうずくまった。
「ああ~~~~~~!!!!!!すっきだあああああああああ!!!!!!!!!!」
力いっぱい叫ぶルーズベルドに傍で見ていたドロシーは引いた!!
ルーズベルドも彼女にだけは引かれる筋合いはなかっただろう。
「では、ドワーフの里にいくか。回り道してすまないな」
あっけらかんと言い放った魔王さまはついさっき聖剣で胸を一突きされたとはみじんも感じさせない。
「その件ですが、どうやらドワーフの長がこちらに向かってきているようです」
カイが肩にオオガラスをのせた状態で淡々と言った。どうやらカイの高速移動とオオガラスの千里眼の連携で城の周囲を偵察してきたようだ。
「おお! 渡りに船とはこのことじゃな!」
そうにかっと笑った魔王さまはサーシャに抱えられて魔王王座に座らされているところだった。サーシャはかいがいしく胸の傷の手当てをしている。
「ふむ、ドロシーよ、これから届く指輪に解呪の祝詞をたのむ」
そう言っている魔王さまの、治療中ではだけた銀のマントから胸元のさらしがのぞき、ドロシーは声をあげた。魔王さまの胸元のさらしは旅に出る前にカイによって巻かれたものだ。魔王さまのささやかな胸元を不埒なものの視線から守るためのものだ。
「え、ええええ~~~~~!????? じょ……じょしなんですかああああああ!???????」
口元を両手で覆い、緑の目を見開いている。
「わ、わたしをもてあそんだんですか!?」
ドロシーの言葉に魔王ルージュは目をぱちくりさせた。ぽわぽわと今までのことを思い出す。
『では、我とともに来てほしい』
『すまないが、我の城に向かってもいいだろうか?』
確かにプロポーズにきこえなくもない。
「おお! そうか。 すまないな我は女なのだ!」
魔王さまはあっけらかんと言った。彼女は修羅場など日常茶飯事だったのだ!
一方ルーズベルドは肝が冷えた。
「祝詞……できますけど魔女の術はそれなりの対価がひつようなんですよ?」
ドロシーはうるんだ碧の瞳で魔王さまを見つめた。
「男になってわたしと結婚してください!」
突然の修羅場に勇者ルーズベルドは盛大にむせた。ここにきてのまさかの三角関係だ。そしてルーズベルドはドロシーに勝てそうになかった……悲しいことに。祝詞を放棄されて呪いを放置されるどころか蛙に変えられそうだ!!
一体この魔王ルージュはどう答えるんだ。勇者ルーズベルドははらはらした。断れば解呪の指輪は手に入らないだろうし、受け入れるならば解呪の指輪がそもそも必要なくなってしまう。
「よいぞ!」
あっさりOKした!!!!!!
「ああ、でも一足遅かったな結婚は先約があってこのルーズベルドが先に申し込んできてるのだ」
魔王さまの悪気のない言葉に魔王城の気温が二度下がった。
ドロシーは、はあ?という目を勇者ルーズベルドに向けた。
「それで貴方さっき叫んでたんです?」
叫んでたのは呪いのせいだ!……とはいいきれなかった勇者ルーズベルドはぐうと唸った。もう身体に条件反射のように染みついてしまった。呪いが解けてもうっかり叫びだしそうだ。
「え! じゃあ 解呪のリングってまさか……」
「おお! エンゲージリングだぞ」
おわった……。勇者ルーズベルドは震えた。
「……はあー。もういいですう。わたし横取りするような趣味はないんで。……一時的に男になるだけで譲歩してあげます!」
ドロシーはぷんと頬を膨らませた。
「悪いな、ありがとうドロシー」
ふくれるドロシーの赤い髪を優しくなでる魔王さまはどこからどう見ても王子様だった!!
本物の王子ルーズベルドは唖然とした。さすがは魔王城の混沌でもまれた魔王さま。修羅場を一瞬で解決してのける!!
コンコンと大広間の大扉にノックの音が響き、うやうやしく台座を捧げて現れたのはドワーフの長シュトロイムだ。




