部隊隊長出現!(R15)
幻惑の霧を一閃で薙ぎ払って、王太子ハリエルはその金の髪を照明に照らし、青の瞳を冷たく眇めながら確かな足取りで歩いてきた。
「ああーん! 国宝級の神剣!! くやしいですわ!」
どうやらドロシーの霧は効かないらしい。
王太子ハリエルはその冷たい青い瞳でぐるりと辺りを見回すと天井に張り付いた監視カメラに投げナイフを投げた。
プツンと映像が途切れる。
「あ、兄様……」
第二王子ルーズベルドは震えた! 間違いない、彼の兄はすぐにでもここの最上階に乗り込んでくるだろう。
「ふむ」
魔王ルージュはその可愛らしい顔を傾げた。
「不法侵入者に抗議(物理)でもしてくるか」
すっと王座から立ち上がるとすらりと麗しい銀の魔剣を引き抜いてすたすたと、廊下につながる魔王の間の大扉に歩いていく。
「お、おい!」
勇者ルーズベルドは動揺した。彼は今、魔王軍でもありながら勇者軍でもあった。完全に板挟みだった。兄である王太子ハリエルはひどくなじってくるに違いない。そして使命を果たせと冷たく言い放つのだろう。勇者の装備しているこの呪われた冠も首元のネックレスも足元のミスリルのブーツも、どれも魔王と相打てば魔王の頭部と胸部と両足を爆破し致命傷を与える呪いが付与されている。国の為に死ねと突きつけられているようなものだ。
「気にするな、ルーズベルド。我は強い」
振り向きざまににかっと笑う魔王さまは邪気のない笑顔だった。この笑顔がいままでどれほどまでに城のものの心を支えてきたのだろうか。
魔王さまが扉に手を掛けるまえに扉は開いた。ぬっと突き出た腕の先には聖剣の切っ先があり、魔王さまは扉に手をかける仕草のまま心臓を背中側まで貫通させられていた。
「ルージュ!!!!!!」
ずぼ、と聖剣が引き抜かれて魔王ルージュは床に倒れおちる。その様子がスローモーションで見えて勇者ルーズベルドは我も忘れて駆け寄った。
「ルー。お前には失望したよ」
冷たい声が頭上から降り、魔王ルージュを抱きしめてしゃがみこんだ第二王子ルーズベルトを王太子ハリエルの冷たい青の瞳が射貫く。
王子ルーズベルドは声が出なかった。
「勝手に失望するな。この不法侵入者が」
ぬっと起き上がって魔王さまは仁王立ちでメンチを切った。身長差で上目遣いになる目線のまま魔王さまの魅了の紋が発動した!
「……!? ぐっ……?!?」
王太子ハリエルは胸をおさえ、床に剣を突き立てて片足をつき崩れ落ちた。彼を襲う突然の心不全だ。脈拍の乱れと心拍数の増加、呼吸も苦しいし、なにやらぼうっとする。何がおこったかわからないという表情で口をはくはくさせている。
「ルージュ! 大丈夫なのか!?」
勇者ルーズベルドは何事もなかったかのようにぴんぴんしている魔王ルージュを見上げて驚愕の声をあげた。なんという生命力! この魔王さまを倒せる人がこの世にいるとも思えないほどだ。
「ああ、一時的に心臓の位置を移動させた。心配するな」
にかっと笑って人間には到底できないことをやってのける魔王さまはきれいな笑顔だ。まぶしい、まぶしすぎる。
「お前は人のうちに無断で忍び込むにあきたらず、この我の配偶者を貶めるとは言語道断!! 床に手をついて詫びよ」
魔王ルージュの配偶者という言葉に勇者ルーズベルドの心臓は跳ねた。彼女はかわらずルーズベルドと結婚するつもりでいるのだ。ルーズベルドは喜びをかみしめた。
魔王ルージュの言葉に王太子ハリエルは身体を強張らせながらゆっくりとぎこちない動きで床に手を突いた。……土下座だ。
第二王子ルーズベルドの目が点になった。極悪非道の血も涙もないサイコパスと国民中で認識されているあの兄様が……。魅了の紋おそろしすぎる……。
「……非礼を詫びる」
「ああ本当に非礼にもほどがあるぞ! とっとと帰れ!」
しっしと魔王さまが手で追い払うとすごすごと王太子ハリエルは帰っていった。
第二王子ルーズベルドの顎がはずれそうだった。




