防衛戦
五人がドロシーの箒で魔王城に向かう道中では王家の旗印を掲げた長蛇の隊列がまっすぐに魔王城に向かって行進しているのが眼下に見えた。
(あの旗印は兄上の……)
王子ルーズベルドは嫌な予感がした。シャーマンドロシーの魔法の箒によって五人は魔王城の最上階に降り立った。
「大丈夫か? みなの者」
魔王ルージュが声を掛けると城中のものが一気に色めき立った。魔王城中の士気が上がった。(当社比200パーセント)
「ああ! 魔王さま! これをご覧ください!」
臣下のミノタウロスの声と共に千里眼のオオガラスが壁に映像を映し出す。そこには魔王城の中層を黙々と行進する王家の旗印を掲げた兵士たちが映っていた。
「今、魔王城の罠で時間をかせいではいますが時間の問題です! 奴らは強敵。いかがいたしましょう!」
「ふむ」
魔王さまは顎もとに手をやって首を傾げた。魔王さまはじつのところ考えるのはあんまり好きではない。たいていの話し合いは肉体言語だし、説得とは半殺しのことだ。
「我がいくか」
「お待ちください!」
止めたのは意外にも西の善きシャーマンドロシーだった。
「わたし、タワーディフェンス(防衛戦)は得意ですの」
きらりと眼鏡の奥で碧の瞳がいたずらっこのように煌めいた。彼女はだてにあの庵を防衛していたわけではないのだ。
ざっざっざっ
王国軍の隊列は一糸乱さずに同じ歩調で歩みを進めている。あと数階層を抜ければもう王座の間だ。彼らがここにきて攻めの姿勢を見せたのは旅立ったはずの第二王子が国内にいるのだとかいうふざけた噂が出回り、魔王討伐の圧が王家に大きくのしかかったからである。きちんと討伐に行っていますよというパフォーマンスもかねて大々的に王家の旗を振りかざして進行しているのだ。
「前方! 十時の方角! 不審な霧を発見!」
ダンジョン奥から白いもやが溢れ、からみつくようにして第一小隊を包み込んだ。
…………
「ふむ、沼地でのあの霧はドロシーの技だったのか! すごいな!」
王座に座る魔王さまは目をキラキラさせながら絶賛した。ドロシーはふふんと胸を張っている。サーシャは悔しそうにハンカチを噛みしめ、勇者は兄の旗印の意図を察知してはらはらしていた。カイは無表情で映像を見ている。
「これからが本番ですわ」
ドロシーは唇をなめた。彼女の指パッチンで、王家の軍隊はつぎつぎと床に転がっていく。
「何したのだ?」
魔王さまがきょるんとそのルビーレッドの瞳を丸くした。
「皆様には自分はペンギンだと催眠をかけましたの」
兵士たちはでかい図体で床をすいすいと気持ちよさそうに滑っている。
「ワックスを流しておいたので床掃除もできて一石二鳥ですわ」
それでよく滑っているのだろう、魔王さまは手を打って感嘆した。
「おぬしには【お掃除クイーン】の勲章をやろう」
「きゃー! いいんですか?」
勇者は信じられない思いで映像の光景を見ていた。我が国が誇る最強の軍隊が赤子をひねるかのように無力化されている……。
そうこうしているうちに第二小隊が霧に難儀しながらも第一小隊に追いついてきた。
「さあ、私の可愛い子たち(ペンギン)やっておしまいなさい!」
ドロシーの思念転送によって床をすいすい泳いでいた兵士は魔王城の床の汚れを拭き黒々とテカった白の隊服でゾンビのように起き上がった。そのまま両手をキョンシーのように持ち上げて第二部隊に襲い掛かっていく。
「えぐいな……」
勇者ルーズベルドは引いた!!
屈強な兵士たちがくんずほぐれず揉み合ってる最中、第三小隊も追いついてきた!
「ごみはゴミ箱にぽいですの!」
ドロシーは疲弊して動きの緩慢になった第一、第二小隊をまとめて床下の落とし穴に落として処分した。あの落とし穴の出口は魔王城の外のゴミ捨て場に直通だ。追いついてきた元気な第三小隊は白い霧に包まれて難儀している。
「さあ、わたしの可愛い傀儡ちゃん、壁を掃除するのですわ!」
ドロシーの洗脳で第三小隊は壁にへばりついた。彼らはヤモリにでもなったかのように動いている。
「きもちわるいな……」
勇者ルーズベルドは引いた!!
「おお! 天井の照明掃除もできたら頼む」
魔王さまはあっけらかんとしていた。そもそも魔王城の臣下はみんな個性的な性格のものばかりなので慣れっこだった。ドロシーのこの奇策にも一切頓着していなかった! この懐の深さよ!
かさかさと第三小隊は天井の照明を拭いた。もはや重力はどうなってんだという状態である。その時第三小隊の後ろから本隊隊長が現れた。
『何をしている、阿呆』
その映像の向こうの低い声に勇者ルーズベルドの血の気が引いた!!




