合流
「ああ、……すまないな」
勇者の腕の中でカイは申し訳なさそうな顔で横を向いた。勇者ルーズベルドがルージュかと思って颯爽と救ったのはカイだったのだ!!
「ようこそ【勇気あるひと】身を挺して守るその心意気に敬意を表しますわ」
赤髪のおさげ姿の少女がエプロンドレス姿でカーテシーをしながら声を掛けてきた。
「どうぞ、こちらへ」
「うーむ、はぐれてしまったのう」
魔王ルージュはてくてくと霧の中を歩いていた。
というのもつかんできた触手を秒でぶった切って、カイのもとへ跳んで戻ったというのに、戻った場所にすでにカイはいなかったのだ。
あのあとカイが食人植物に向かって突っ込んで行き、代わりに囚われてしまったのだとは知る由もない。そして思わぬ手違いと幻惑術の相乗効果で勇者がカイを救ってしまったことも知る由もなかった。
なんせこの魔王さまは細かいことは気にしないのだ!
「ま、そのうち出会うであろう!」
魔王さまは深い霧の中をとくに方角とかも気にせず歩いていた。つまり迷子だ!
「む?」
天から銀色に光るものが落ちてくる。魔王さまは思わず両手でキャッチした。
ドロシーの放り投げた銀の靴だった。
「なんと! 落とし物か!」
かなりの値打ち物の細工の細かい銀の靴であり、普通の人間なら魔が差して懐に入れてもおかしくない一品であったが、なんせ魔王さまは物事に頓着しない性分なので、国宝級の細工品であってもとくに興味もなにも示さなかった。
「あのう」
こんな霧の深い沼地にいるはずもない老婆があからさまにみすぼらしい身なりをして話しかけてくる。絶対にそんなわけない状況にも魔王さまは特に気にも留めなかった。
「その靴はわしのですじゃ」
明らかにサイズの合わない靴の所有権を主張してくるこの沼地にそぐわない人物にもなんのためらいもなく魔王さまは銀の靴を差し出した。
「よかったな! 見つかって」
にかっと笑う魔王さまはその心根を表すきれいな笑顔だ。
靴を受け取った老婆はその銀の靴を履くと、みるまに赤髪のおさげの少女に変身する。どろにまみれた服も綺麗なエプロンドレスに早変わりした。
「ようこそ【心うつくしきひと】あなたのことを歓迎します」
おさげの少女はカーテシーから顔をあげると魔王さまの姿を目に入れてほうとため息をついた。
「なんて麗し……ごほんごほん、こちらへどうぞ」
そう、銀の靴(良心)は迷子の魔王さまを救いだすために(ドロシーの贔屓で)投げ込まれたのである。
ドロシーの案内で庵につくと、すでに他の三人は庵の中でテーブルについていた。
早めにシャーマンドロシーの庵に案内されていたサーシャは出された薬草茶を啜っていた。
勇者ルーズベルドとカイはきまずそうに視線を泳がせながら沈黙していた。
最後に訪れた魔王ルージュはドロシーにぎゅうと腕を握られて登場した。
「え? 指輪の祝福?」
沼地のシャーマンドロシーは思いがけない依頼にその碧の目を丸くした。この悪名高い西のシャーマンの庵を訪ねてくるものは大抵呪詛をかけるほうの依頼だ。各国の王家からもたびたび呪詛使いとして登城させられている。彼女は依頼料さえ積めばどこでも仕事をする流れ(フリー)のシャーマンだ。
「そうだ。こちらの勇者が全身呪われておってな、解呪のリングを必要としているのだ」
「ええ、解呪の祝詞できますわ」
ドロシーは熱いまなざしでルージュを見つめていた。どうやら魔王さまのことを気に入っているらしい。
「そうか! 助かる!」
魔王さまはにかっと笑った。ドロシーがくらっと身体を後方に倒れるようなしぐさをする。その椅子から倒れそうな様子に、ルージュは背を支えた。
「大丈夫か?(アルトボイス)」
「え、ええ」
ドロシーは赤くなった顔でどぎまぎしながら答えた。
「では、我とともに来てほしい」
両手を握って紡がれる魔王ルージュの熱烈な誘いに、ドロシーはうなずいた。
「もちろんですわ!」
こうして新しい旅の仲間シャーマンドロシーを迎え、一行はドワーフの里に向かった。あとは出来上がった聖銀の指輪に解呪の祝詞を捧げれば完成だ。
『魔王さま! シンニュウシャです!』
もうすぐでドワーフの里といったところで魔王城からの通信が入った。どうやら城の者では手を焼いているらしい。
「そうか、すぐ行く」
魔王さまはただ今絶賛ドロシーの箒に相乗り中だった。前で箒を操縦しているドロシーに気づかわしげに魔王さまは声を掛ける。
「すまないが、我の城に向かってもいいだろうか?」
ドロシーはぶんと大きくうなずいた。
(おうちにお呼ばれなんて! きゃーー!!)




