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勇者万歳


「ま……まさか貴方様は」


 白い仮面をつけた男は口をはくはくさせた。


「ああ、そうだ(魔王だ)」


「そう(第二王子)でしたか!!」


 白い仮面の男は地に這いつくばった。彼はどうやら大変な勘違いをしていたようだった。


「そう(お忍び王子)とは知らず大変なご無礼を!!! 申し訳ございません!!! お許しください!!!!」


「ふん、お前も聖銀を運ぶ苦労を知ってから偉そうな口をききたまえ」


 あまりの事態に採掘師たちはあっけにとられた。


 じわじわと波紋のように歓喜の波が広がる。



「う……うおおおおおおおお!!!!! 第二王子万歳!!!」


 どこからどう見ても聖剣を携えた勇者が颯爽と救いに来たようにしか見えなかった。


 本物の勇者ルーズベルドはモブに紛れながら頭を抱えた。


(くそ……!!! 俺じゃあねえよ!!!!)



「お前たち(白いフードの男と王家の兵士)は午後から仕事に加われ、我も手伝うからな」


 きりりと言い切った魔王さまの命令により仮面の男たちは午後から聖銀を運びいい汗をかいた。

 もちろん魔王さま一行も聖銀を運んだ。魔王さまとサーシャとカイは軍手でなんとか聖銀の聖なる力に耐えた! ちょっと皮膚がただれたが、魔王さまのささやかな治癒魔法でのちに手当したのだ。



 そして聖銀は手に入った!!!



「記念に少し持って帰ってもいいだろうか?」


 遠慮がちに口にした魔王さまに現場監督は頭をさげた。


「どうぞどうぞ!! 好きなだけお持ち帰りください!!」


 現に人手が大幅に増えたので、ノルマ以上の収穫になっていたのだ。おもわぬ早上がりに現場作業員たちは喜びの声をあげていた。


「ありがとう」


 にかっとわらった魔王さまは泥に汚れた顔でありながら、白く光る歯と、その屈託のない笑顔がまぶしかった。


 勇者さま万歳!! 第二王子万歳!!


 採掘師たちに見送られて勇者一行は坑道をあとにした。






「結局ばれてしまったのう」

 泥だらけの身体を採掘師たちのシャワールームで身ぎれいにした魔王さまは口をとがらせた。


「それもこれもルーズベルドがいるからじゃ」


 魔王さまは揶揄からかうようにルーズベルドをなじった。第二王子万歳の声を言葉通り受け取っていたのだ。勇者ルーズベルドは完全にモブと一体化していたので完全なるえん罪だ。


「本当ですね。もう別行動にしませんか」


 宰相サーシャも苛立たしげに眉をよせて言った。彼はルーズベルドを追い出したいだけである。


「追放しましょう」


「は? ちょっと待て!」


 サーシャの言葉に勇者ルーズベルドは慌てた。そもそもルーズベルドの為に旅に出たはずなのに本末転倒である。


「冗談に決まっておるだろう!」


 ころころと魔王ルージュは笑った。サーシャは冗談ではなかったのだろう、渋い顔をしている。


 四人は聖銀を手に入れ、再びドワーフの隠れ里に向かっていた。




「おお! こんなに早く聖銀を、……しかもこの量とは!」

 神級鍛冶師シュトロイムは目を見張った。指輪を二つ作っても有り余るほどの希少な聖銀だ。


「ああ、余ったら好きにしてくれていい。では、よろしく頼む」


 魔王さまの寛大な言葉にシュトロイムは目を潤ませた。王家の中枢にある希少金属など金を積んでも手に入る代物ではない。


「出来上がるまでにまじない師を探してこねばなるまいな」


 魔王さまは腕を組んで首を傾けながら言った。


「ああ、祝福の術をかけるシャーマンですね。今は西の沼地にいると風のうわさでききましたよ」

シュトロイムは魔王さまに助け舟を出した。


「おお! まことか! ではすぐに発とう」


 魔王さまはにかっと破顔した。


(西の善き魔女か……)


 勇者ルーズベルドはその人物が出てきたおとぎ話を思い出そうとした。


(心、知恵、勇気を取り戻していく話だったか……?)






 湿地帯には白いもやがかかり、足元の泥は緑灰色をしていた。根の張った低木が気味の悪さを演出している。


「この霧は……まずいですね。迷いの霧です。離れ離れになりませんよう」


 サーシャが慎重な声で言った。


「ああ」


 カイも低く答える。カイの腕に抱えられて魔王さまは後ろを振り返った。


「ルーズベルド、大丈夫か?」


 勇者ルーズベルドは膝上まで沼にはまりながらも歩いていた。


「あ、ああ」


 奥へ進むほど霧が濃くなり前を歩く人の姿が影でしか分からなくなってくる。


「ルージュ様!」


 前を歩いているはずのカイの悲鳴が遥か後方から聞こえてルーズベルドは自分の耳を疑った。



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