ブラック鉱山
「いや、これは不可抗力でっ……!!」
「そうじゃ、ルーズベルドは生理現象が起きただけじゃ」
何かあったんじゃないかというくらいにうろたえる勇者と、襲われている体勢のままフォローする魔王さまの言葉が火に油をそそぐ。
サーシャはすっとレイピアを構えた。カイも止める様子はまったくない。
「サーシャ、やれ」
カイの非情な一言で勇者は半殺しにされた。
…………
「うーむ、まだ痛むか?」
魔王さまの手当てにより一命をとりとめた勇者ルーズベルドは崩落した鉱山の中を痛む身体を引きずって歩いていた。
すっかり四人とも土砂にまみれ、本業の採掘師のような風体になっている。
発破のあと、本職の採掘師が何人も入ってきたが、一向にばれる様子もない。
おそらく日雇いの労働者を多く雇っていて名前も顔も一致していないのだろう。
「ああ、すまなかった」
ルーズベルドは言葉少なめに言った。半殺しにされた痛みよりも魔王ルージュの過去話の方がはるかに彼を傷つけていた。
(いや、俺が傷つくなんておこがましいな。傷ついたのはルージュの方だろう)
なにがどうして両親の仇の男の呪いを解くために旅に出るなんてことを言い出せるのか。勇者ルーズベルドは苦悩したが、魔王さまはこの通りの性格なので特に深い意味などない。彼女にとっては親の仇とかうんぬんはもう過去のことであり、その子孫まで恨むとかいう発想はなかったのである。ただの暇つぶしの昔話だった。
「ああ、ルージュ様、純潔でなによりです! もし汚されていたら私はもう……! この地一帯の人間を惨殺し二度と王家の血がこの世に生まれないようにしてしまうでしょう……!」
サーシャは先ほどから魔王さまを抱きしめて抱えながら涙ながらに歩いていた。
「まあ、おちつきたまえ」
魔王さまもすっかり土埃で顔が隠れ、一見すると負傷兵が抱えられているように見える。
「おい、大丈夫かお前ら、すごい傷じゃねえか。ここの仕事は俺たちを使い捨てのシャベルくらいに思ってやがる。本当嫌になるぜ」
すれちがった採掘師に気安く話しかけられて王子ルーズベルドはおもわず肩が上がった。
どうやら抱えられている魔王さまが労働災害を受けたように見られているらしい。同じく全身ぼろぼろに負傷している勇者もだ。たしかに広い目で見れば……労働災害でまちがいはない。
「ったくよー。ひっくい賃金で命がけの仕事たあこんなの聞いてないぜ。詐欺だ詐欺」
ガタイのいい採掘師は口を尖らせながら聖銀の詰まった荷袋を運んでいた。
「それは……! どこで」
「ああ? なんだ迷子かあ? あっちだと沢山とれるぜ」
くいと親指で後方を指す採掘師にルーズベルドの瞳は輝いた。
「助かる」
向かおうとする直前、ピピーという笛の音が遠くから聞こえて一同の足が止まる。
「なんだ?」
いぶかしがるルーズベルドの言葉に、採掘師の男は肩をすくめた。
「ああ? 新人か? 仕方ねえな、ついてこい。招集の笛だ」
ルーズベルド一行がぐねぐねとした細道を歩き、開けた大広場に出ると、王家の旗印をあげた兵士たちがぐるりと取り囲むなかに労働者たちが集められている。兵士たちに押しやるように突き飛ばされてルーズベルド一行もその輪の中に入れられた。
「午前までの聖銀はこれっぽちの量しか掘れませんでしたか。ノルマに達していませんねえ」
白い仮面をかぶった男が王家の旗印の威を借りて尊大にふんぞりがえっている。彼は王家の使いで採掘された聖銀を受け取りに来たようだ。
ここの現場の長らしき人物がへこへこと腰を折った。
「すみません。発破作業に時間がかかってしまい、これから採掘スピードはあがりますのでどうかご容赦ください」
「言い訳はいりませんよ。現場監督のかわりなんていくらでもいるんですからね」
「おい」
突如、口をはさんだ魔王ルージュに勇者ルーズベルドは目を剥いた。
(おま……! 勇者すぎんだろ!!!!)
「人材は宝だ。その価値もわからぬ人間には上に立つ資格もないな」
魔王さまの自信にあふれる物言いにその場の全員の視線が向く。
「ほう? 労働者風情が。君は今日からクビです。午後は働く必要もない。もう帰りなさい」
「ああ、ではお前も首だけにしてやろう」
魔王ルージュがすらりとその腰元の魔剣を抜く。勇者ルーズベルドは止める暇もなかった。ルーズベルドは魔剣を見てその青の瞳を見開き、おもわず二度見した!!
(は……??? なんだあの神聖すぎる魔剣は!!!!!)
魔王ルージュの労働者然とした見た目を覆すかのような、神々しい銀の聖剣(に見える)に一同は目を奪われた。
これは……どう見ても勇者!!!!




