聖銀の鉱山
ルーズベルドは白旗をあげた。好きな女の前で逃げ腰などとは男の沽券にかかわる。
だがしかし魔王さまは何も頓着していなかった。
どちらでもよかったのだ!
そうして四人は採掘師のつなぎ姿に採掘師の安全帽子と安全靴(金属の板入り長靴)をはいてすっかり採掘師の見た目になった。
「おお、ルーズベルド似合っているぞ!」
魔王さまは採掘師のつなぎ姿でも隠せない美貌に、カイによって頬に泥が塗られたがそれでも隠せない美しい貌でにかっと笑った。
王子ルーズベルドは念入りに金髪を安全帽に押しこみ、瞳のサファイアブルーを安全ゴーグルで隠した。もうどこからどうみても王子様ではないし、見習いの採掘師の少年そのものだ。
一方魔王さまはどこからどうみてもお忍びでやってきた王子様である。
(どうしてこうなった!)
王子ルーズベルドは絶句した。ゴーグルで魅了の紋を完封しているというのにこの漏れ出す気品あふれるオーラはいったいなんなのだろうか。
立ち居振る舞いに品があるかならのだろうか。それとも安全帽からちらりと見える黒髪に気品が溢れるからなのだろうか。それともつなぎの長い袖元からわずかに見える白いほっそりとした手が穢れを知らないかのようにしっとりとやわらかであるからなのか。
もんもんと考えてルーズベルドははっとした。それどころではない!
「とにかく、いそいで奥に進むぞ」
四人がいるのは採掘師の休憩ブースだ。顔なじみのない人物が長々と居座ってあやしくないわけがない。幸い今は誰もいないが、おそらく皆奥で作業にとりかかっているのだろう。カンカンとツルハシを叩きつける音が奥から響いている。
一本道が続き四人は一列になって前を進んだ。先頭を勇者ルーズベルドを歩き、その後ろを魔王さま、サーシャ、カイと並んで進んでいく。
洞窟内の岩壁はところどころ明かりがともされており、オレンジの灯がともっていた。影絵のように四人の影が土壁に映る。
「けっこう奥が深いのう」
カンカンとうるさい音がだんだん大きくなってきたことをいいことに魔王さまは緊張感ゼロで雑談をしながら歩いていた。
「まるで蟻の巣のようですね。こんな面倒なことをしなくてもここら一帯を爆破でもすれば一発で鉱物が取れそうなものですけれどね」
サーシャは理解ができないといった様子で肩をすくめた。
「おい、聞こえてるぞ。人間にも発破で採掘するという考えはあるからな」
ぐるりと後ろを振り向いてルーズベルドはサファイアブルーの瞳をゴーグルの中で眇めて言った。
突如爆音と共に洞窟内が揺れる。
バラバラと天井が崩れルーズベルドは最悪の事態に目を見張った。
「あぶない! ルージュ!」
魔王さまの上の天井が崩落し、ルーズベルドは思わず引きせて覆いかぶさった。
ルーズベルドの背中にかたい岩のかけらが当たる。
(あの音は採掘の音ではなかったんだ。 発破用の火薬を埋める穴をあけている音だったんだ!)
ルーズベルドはくっと唇を噛んだ。
(そりゃそうか。いまさら人力で銀を掘っているはずがないじゃないか)
ここは王都。国中の技術が集まっているのだ。
「んー、はぐれてしまったのう」
緊張感のない声が腕の下から聞こえて、ルーズベルドは魔王ルージュが無事であることにほっとした。
二人の周囲は崩落によって岩で囲まれており、ルーズベルドが圧死していないのは奇跡のたまものであった。
「だ、大丈夫か、ルージュ」




