魔王さまはイケメン
見惚れるほどの美しい顔立ちは絵画の中から抜け出してきたかのように整っている。その艶めく髪は夜の闇の色をしており、神秘的な赤の瞳は魔性の艶を秘めていた。
おもわず店内中の視線はくぎ付けになる。
なんて魅力的な男なのだろうか!
さっと王子様の両脇に、銀髪の麗しい貴公子と、黒髪の精悍な美丈夫が立ち並ぶとまるで劇場の一幕を見ているかのような錯覚さえ覚える。
「人さらい? なにか誤解されているようですが、私は国家機関です」
白いフードの男は身分証を示した。印籠のようなその身分証には王家の紋がきっちりと入っている。王家公認の印だ。
「あ、兄上の印……」
すっかりオーラ負けして後方にいたルーズベルドはその声を震わせた。
「国家機関がレストランとやらに食事もせずに何の用だ? 我らは食事に来たのだ。さっさと帰るがいい」
むん、と魔王ルージュはその腕を組んで仁王立ちだ。その不遜な態度すらも女性客の熱いまなざしに包まれた。
「いいえ、この店は異端に片足つっこんでいるのです。粛清は正義。私たちが正義なのです。ーー」
「うるさい」
長くなりそうなセリフの途中で魔王さまの鉄拳制裁がとんだ。白フードの男の意識はとんだ。
どさ、と倒れた白フードの男を店主は白黒した目で見ていた。
はっとして目の前の王子に目を向けると、魅惑的な男はその赤の瞳を煌めかせて言った。
「店主、本日のおすすめを四人前頼む」
にかっと笑うその笑顔に店主の心臓は撃ち抜かれた。
店中の客の心臓もかたっぱしから撃ち抜いていた。
もはや歴戦の敏腕スナイパーだ。無差別発砲テロだといってもいい。
店主は新メニューは赤と黒のコントラストの美しい、いかすみパスタいくら乗せにしようとひらめいた。魔王さまのカリスマが彼のインスピレーションに働きかけた結果だ。
「でな、やはり鉱山に行くとなるとーー」
魔王さまが得意げに話す中、勇者ルーズベルドは周りからの視線を痛いほど感じていた。
目の前の魔王ルージュはとにかく注目を集めすぎる。
この国の第二王子が来ているのだというのにまったく気づかれないほどに皆の視線がすべて魔王ルージュに注がれているのだ。ルーズベルドはモブAと化していた。
目の前の魔王ルージュは本日のパスタである季節の野菜ペペロンチーノを口に運んでいた。パスタをちゅるりと口に入れるその唇の妖艶さに勇者ルーズベルドは立ち上がった。
「ト、トイレ」
ダッシュでトイレに駆け込みルーズベルドは叫んだ。
「ああ、ルージュ!! 君のその唇が愛おしい!!」
厨房でフライパンを振るう店主にはばっちり聞こえていた。
(そうだ! 新作パスタの名前はルージュ・ノワール(赤と黒)にしよう……!)
新作メニューの名前が決まった。
「ーーであるからして」
「そうですね、その案で行きましょう!」
魔王さまの案に宰相サーシャはイエスマンだった。カイも無言で肯定の意を示した。
「うむ、ではこれでいくか!」
なかなかトイレから出てこない勇者ルーズベルドのいない間に話はまとまった!
「な……なんでそうなった!」
鉱山にて勇者ルーズベルドは声を張り上げた。
魔王さま、サーシャ、カイの三人グループと勇者ルーズベルド単体のグループの二隊編成だ。人数的に不平等にもほどがある。
「これぞ人海戦術」
仁王立ちしてうなずきながら得意げに語る魔王さまの横を側近二人が固めている。
「人海戦術なら四人バラバラであたるものだろうが!!」
勇者ルーズベルドは目を白黒させた。
「二手に分かれるところまではいい。四人でぞろぞろ行っても仕方がないからな! だがしかしなんで三対一に分けた!」
「もし捕まったときに我らと一緒ではルーズベルドが身動きがとれまい? こういうときにこそ権力とやらを有効に使ってうまく切り抜けたまえ」
(つまり魔王ルージュがいうには、ならずものとして俺が捕まった暁には王子としての権限を振りかざして自らの罪を不問にさせろとのことか)
王子ルーズベルドの目が死んだ。魔王討伐に向かった王子が国を出てすらおらず城下の鉱山の奥深くで発見されるとかビラで号外が出るほどの醜聞じゃあないか。
「俺は……猫で行く」
ルーズベルドは声を振り絞って小さな声で答えた。
「ルーズベルドは猫が好きじゃのう」
魔王さまの悪気のない言葉が勇者ルーズベルドを直撃する。
(ああ、鉱山で王子発見よりは猫発見のほうがはるかに平和だからな!!!!)
「我らも猫で行くべきかの?」
魔王さまの視線がカイの方を向く。どうやらカイの獣耳にかけた幻惑術はそろそろ解けるようだ。
「いえ、私は採掘師の帽子を被れば問題はありません。ルージュ様の負担を最小限に抑えましょう」
珍しく長文を話すカイにルーズベルドは目を丸くした。
そういえば、人間の土地に来てからぽんぽん魔術を使っている。魔王だから大丈夫なのかとばかり思っていた。
「そうですね、私たちは採掘師に扮して紛れましょう。その方が聖銀も運びやすいですし。唯一聖銀に安全に触れられる勇者が猫になりさがるくらいですから、我々で運ぶしかありませんね」
サーシャもおおげさに胸に手をあてて心底おいたわしいとばかりに目をつむっている。
「なっ……」
勇者ルーズベルドは口をはくはくさせた。吊るしあげられている……!
「まて……俺が運ぶ」




