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魔王さまは勇者


 王都エルダーシアの正門の前は外国からの商隊で長蛇の列ができていた。

 その足元をすり抜けるように四匹の猫が走り抜ける。


 先頭の黒猫は俊敏しゅんびんな動きで警備兵の目をかく乱した。


「うお! 美人な猫だな。貴族の飼い猫か?」


 それに続くように真っ白な猫と、長毛の黒猫と、銀灰色の猫が後を追うように飛びこんでいく。

 

「メス猫を追っているのか? 春だな~」


 警備兵はなごんだ。




「でかしたルーズベルド! 簡単に忍び込めたではないか!」


 住宅街の裏で魔王さまは銀のマント姿で胸をはった。

 魔王さまの変身術でみんな猫になっていた。真っ白な猫はルーズベルド、長毛の黒猫はカイ、銀灰色の猫はサーシャだ。……勇者ルーズベルドは本当に猫になっていたが。


「ニャー」


 白猫はずぶ濡れの姿で返事をした。さっき水やりのホースの水をかぶってしまいもとにもどれないのだ。


「ふむ、ではさくっと鉱山にでも行くか!」


 びしっと指をつきたててどや顔をする魔王さまの腹がなった。


 ぎゅううう


 魔王さまの顔がまっかになる。


 勇者ルーズベルドはその魔王さまの可愛らしい様子にぐっときて呪いが発動した。心の叫びがほとばしる。


「ニャ!! ニャニャオオーン!!」


(猫語で助かった!!!)


 白猫ルーズベルドは恥ずかしさをごまかすために足元の煉瓦れんがの床で必死に爪とぎをしている。その姿は猫そのものだ。


「猫の発情期のようですね。去勢きょせいさせときましょうか」


 サーシャは冷え冷えとした視線を白猫に送った。彼は彼でいかにルーズベルドを排除するか日々考えているのだ。


「飯いくか」


 カイがサーシャを無視して魔王さまをすいと抱き上げ、すたすたと歩いていく。


「あ、こらカイ! 待ちなさい!」


 そのあとをサーシャが追いかけて走る。

 ルーズベルドも爪とぎから我に返った。水しぶきを震わせて四足で駆ける。


 


 高級な飲食店の店前のメニュー表を見ながら魔王ルージュは目をきらめかせた。


「ふむ、ここがレストランか。 なんと珍妙な」


「まて」


 ぜえぜえと追いかけてきた勇者ルーズベルドが声を張り上げた。


「お前たち、金が、ないだろうが!」


 ルーズベルドは膝に手をついて息も絶え絶えだ。


「金ならある」


 カイが荷物から金貨をごっそりつかんで出した。


「なんでそんなあるんだよ」


 ルーズベルドの顔が半目になる。


「おとといの村の宿泊費用もここから払ったぞ。ルーズベルドは猫だったから気がつかなかったかもしれんが」


「ああ、魔王城にやってくる不届きものを掃除していたら自然と集まりましたよ。人間の貨幣でもなんでも取っておくと役にたつこともあるもんですね」


 ルージュとサーシャの息の合った言葉が同時にかかり、ルーズベルドは論破された。


「……引き留めて悪かったなっ!」


 ルーズベルドは真っ赤になって怒鳴った。




 四人が店先でわいわいしている間、なにやら店内が騒がしい。


「ん?」


 魔王さまが窓から中をうかがうとどうやらもめているもよう。


「! あれはこの前の白フードの男と同じ格好ではないか」


 魔王さまは窓から見える白いフードの男にピンときた。最果ての村にて子供をさらっていたとかいう不埒ふらち者の仲間にちがいない。

 魔王さまはその正義感で店に飛びこんだ!!


(な……魔王が正義感にあついだと……!)


 本物の勇者は目が点になった。まさかの敵の本拠地王都での本物の勇者をさしおいての人助けだ! 


「魔王さま!」


 サーシャとカイも魔王さまを追って店に乱入する。


「ああ! くそ!!」


 勇者ルーズベルドは遅れて店に飛びこんだ。





「この店に異端いたん信仰の嫌疑けんぎがかけられている。異教の神を信仰するものは牢獄行きだ」


 白いローブの男は店主に詰め寄っていた。


 店主は黒い髪を後ろで結び、大きな眼鏡をかけ、口ひげを蓄えたカフェのオーナーのような風貌をしていた。


「いやはや、どうしてそのような」


「中をあらためさせてもらおう」


 不穏な空気にレストラン内の客は食事の手を止めてはらはらと見守っていた。


「そこまでだ! この人さらいが!」


 よくとおるアルトの美声に、店内中の視線が向く。

 

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