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二人きり



「さっきここで獣を仕留めた時に上の方に果物がなっているのを見つけたのだ」


 銀のマントを着こなしているルージュはその横顔でさえも女神像のように美しい。おもわず見とれてルーズベルドは時が止まったかのように錯覚した。


(……はっ)


 勇者ルーズベルドはうっかり見惚れてしまい、くだんの果物について注意を向けていなかったことを後悔した。


(これはたちの悪い人食い植物ではないか!!)


 一見赤いベリーを付けた木のようかに見えるがその実トレント(樹木系魔物)だ。

 幻覚作用のある花の香と催眠効果のある赤い実、ダブルの効果で確実に獲物にんげんをとらえる。


 そしてなんといつのまにやら魔王さまがその白い四肢を幹にぴったりと密着させてするすると木登りをしている。


(あああ!! 危険すぎる!!)


 勇者は焦った。おもわず声をあげる。


「うおおお!! ルージュ!! 愛してるぞ!!」


 呪いが発動し勇者は地面に頭を打ち付けた。


(違う!! いや、違わないが、今いうべきはそこじゃないだろうがっ!!)


「おお! なんとも情熱的だな」


 ころころと樹上で笑う魔王ルージュに勇者の心はあたたかくなった。


(これが倒すべき魔王だというのなら俺は人間を滅ぼす)


 勇者が一瞬闇堕ちしそうになったところで、魔王さまの悲鳴が響いて勇者の心は現実に引き戻された。


「ああ、父様……!!」


 枝の上で魔王ルージュは取り乱した。


(しまった!! 幻覚だ!!)


 おそらくトレントの花の香を一定量吸ってしまったのだろう。


 ふらり、枝の上でバランスを崩しルージュがまっさかさまに落ちてくる。


「ルージュ!!」


 ルーズベルドは走り、その身体を受け止めた。ふわりと天使のような軽さに青の目を見開く。


(空から天使が……)


 ぶんぶんと金髪をふった。あぶなかった、変態宰相と同じもんくを垂れ流すところだった。


 受け止められたルージュの方は瞳が陰ったままだ。うわごとのように呟き取り乱している。


「ああ、父様……やめて!! 母様……!!」


 そのうつろな瞳には何が映っているのか、悲壮な叫びにルーズベルドの胸は締め付けられた。


 ずちゃり、ルーズベルトの背後でトレントがその醜悪な根っこを這いずり出した。灰色の根には赤い脈が波打ち、獲物を前に歓喜に打ちひしがれているかのようにさやさやと木の葉を揺らす。辺りに花の甘ったるい香が広がった。


 ルーズベルドはそっとルージュを安全なやわらかい草の上に置くと、すらりと腰元の聖剣を抜く。


「すぐに終わらせてやる」


 漆黒の聖剣の切っ先は夕闇にきらりと光った。

 魔王さまのハイパーインフレで影がうすかったもののこれでも勇者だ。

 ルーズベルドの剣技はまるで芸術かのように優美な曲線を描き、花の香を霧散させトレントの核を確実に貫いた。


「ふん、たわいもない」


 カチリと鞘におさめた勇者は呪いの反動がきた。


(く……くそ)


「あああ! ルージュ!! お前は天から舞い降りた俺の天使!! お前を悪だなんていう奴は俺がかたっぱしから舌を抜いてやる!!」


 だれもいないかと思って思いっきり吐き出した。



ガサリ



 びくりとして振り向けば、ワーウルフのカイが無表情な顔でこちらを見ている。


「飯ができた」


 それだけ告げるとひょいと寝ているルージュを抱き上げてすたすたと歩いていく。



(しにたい……)


 勇者の目が死んだ。





「んー! おいしい! サーシャおぬしは本当に料理が上手だな」


 口いっぱいに獣の香草焼きをほおばって魔王さまはいい笑顔だ。


「ああ、私の料理が魔王さまの細胞のひとつひとつを形作っていく、これに勝るよろこびはありません」


 宰相サーシャはじんと心を震わせた。


 勇者はせき込んでむせた。


(こいつと同程度のところまで堕ちたセリフをつい先ほど口走ってしまったというのか!)


 地味にダメージがひどい。


「そうだ! これは食後のデザートに取ってきたベリーだ」


 魔王さまはマントのフードをごそごそした。


「ほれ、見事な赤い色だろう」


 自慢げに胸をはる魔王さまに勇者は言葉を失った。

 あのきらきらした瞳を曇らせるなんて俺にはできない、と視線を泳がせる。


(まあ、トレントの実のほうには催眠効果しかないから大丈夫だろう)


三十分後


「うーむ、みんな随分と疲れていたようだな。わるいことをした」


 魔王さまは眠りこける二人をみて食べかけの皿を片付けながら言った。


「ああ、まあ……そういうこともあるだろう」


 勇者は嘆息した。


(あいつら……トレントの実だと知っていながらルージュのあーんの魅力にあらがえなかったな)


 カイはくんくんしたのちに素直に口を開け、サーシャに至っては即口を開けてルージュの手ずからベリーを咀嚼そしゃくしてはしあわせそうにしていた。そして即寝た。


「皿は川に洗いにゆくか」


 魔王ルージュは眠りこける二人に毛布をかけながらルーズベルドに声を掛けた。


「あ、ああ、そうだな」

 ルーズベルドは頬の赤みをごまかすかのように顔をそむけた。


(夜の川辺に二人きりだと。なんてロマンチックな……)


 ルーズベルドは胸がじんとなった。


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