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ドワーフの里


 どたどたと緑がかった肌の職人気質の小男が集まってくる。種族が違うためかだれもかれも同じような見た目に見えるが、彼らは皆一様に使い込まれた職人装備を身に着け、手になじんでいる鍛冶道具を持ち合わせている。つまりハンマーだ。そしてその目はきらきらと喜びに光り輝いていた。むさくるしい職場に紅一点、麗しの深淵の姫君である魔王ルージュ・レリウーリアが現れたのだ。魔王さまの美しさは種族をも超える。


「魔王さま!」

「魔王さまだと!!」

「魔王さまだ!」

「うおおお! 今日出勤日でよかった!」


 中立派を貫くドワーフ一族といえども、穏健派の此度こたびの魔王ルージュの治世においては魔王派とは友好的な関係を築いていた。それもこれも魔王さまがこの温厚な性格だからだ。しかもアイドル並みに可愛い上に、懐も深く来るもの拒まずである。一部の熱心なファンは魔王城におしかけ住み込みで魔剣のメンテナンスを行っている。腕の骨を折るほど無茶した鍛冶職人もここの出身である。


 洞窟内に土ぼこりが舞い、魔王さまがくしゃみをしそうなタイミングでサーシャが白いハンカチを魔王さまの口元にあてた。


「くしゅん!」


 その心を震わせる愛らしいくしゃみに勇者ルーズベルドは悶えた。


「ああ、もう! 可愛いかよ! 好きだ!!」


 呪いが発動し、心の声を叫びながら顔を覆って地面にしゃがみこんでいる。



「なんだこの金髪野郎」

「絞めるか」

「うおおお! 魔王さま!」

「生くしゃみ!」


 ドワーフたちの声で洞窟内が混沌とした。だむだむと洞窟内の床を踏みしめる音が響く。



「ようこそおこしくださいました。魔王ルージュ・レリウーリア様」


 威厳のある声が洞窟に響き、魔王ルージュは尋ね人の声にその深紅の瞳を輝かせた。


「おお! シュトロイム! 久しいな」


 いかにも頑固な職人といった爺やはその黒の眼帯で左目を覆っていた。


「深窓の姫君がこのような粗野なところに来るものではございませんぞ」


「実はエンゲージリングを作ってほしくてな」


 魔王さまの言葉に洞窟内が騒然とする。


「なんだと!」

「エンゲージ……だと!」

「うそ……だろ」

「ぐああ! もう今日は鉄を打つ気力がない!」

「相手は誰だ! 窯につっこんでやる!」


 勇者はしゃがみこんだ状態のままぷるぷるした。

 こわい、こわすぎる。相手が自分だとばれれば寄ってたかって板金のようにハンマーで叩きのめされそうだ。


「伝説上の解呪のリングだ。シュトロイム、おぬしにしか打てまい」


 魔王さまの言葉にシュトロイムは胸がじんとなった。


「ええ、我が至高の一振りをあなた様に捧げましょう我が君」


 すっと差し出した神宝級のハンマーを魔王ルージュが剣のようにシュトロイムの肩に掲げる。騎士の叙勲式かのようだ。


「よい品には魂が宿る。解呪のリングが完成した暁には勲章を贈らせてもらおう」

「ありがたき名誉」


 勇者はぽかんと口をあけてことのなりゆきを見送った。


 ちらり目線をやるとワーウルフのカイの胸元には色とりどりの勲章が飾られており、宰相ノワールの胸元にも多くの勲章が並んでいる。勇者ルーズベルドは胸元の勲章の意味を理解した。あれは階級を示すだけではなく数々の功績をなした証でもあるのだ。


 一転して空気がかわり、しんとした空間のなかでシュトロイムへの数多あまたのドワーフたちの羨望のまなざしが集まった。


「では、我らはもう行く。材料となる聖銀を採掘に行かねばならぬからな。材料をとってきたらあとはよろしくたのむ」


 魔王ルージュはにかっと笑った。その太陽のような笑顔に洞窟内があたたかく照らされたかのような錯覚を受ける。


 御身自ら材料からとりにいくとは……! ドワーフたちは感動した。


(え! 材料から取りに行くのか)


 勇者ルーズベルドは目が点になった。





「聖銀の鉱山は王都にほど近いところにあるからな。あの辺りの人間は選民意識が高い。やはり身を隠していくべきだろうな」


 魔王さまはカイの腕に姫抱きにされながらうんうんと見解を述べた。

 王子ルーズベルドは耳が痛かった。まさにその選民意識とやらの中枢から来たのだ。


「ああ、狼の群れの中に子羊を放つなんて私にはとてもできません」


 よよよと宰相サーシャは白いハンカチで涙をぬぐった。


(いや、どちらかといったら羊の群れの中に牧羊犬だろう)


 勇者ルーズベルドは頭をひねった。魔王さまのこの求心力は人間にもおおいに有効だ。なにも問題など起こりそうにもないが。


「ああ、聖銀だなんて、なんておぞましい……!」


 宰相サーシャの言葉に勇者の青い目がまるくなる。


(そっちかよ!)


「仕方があるまい、なんせ解呪の効果をつけるのだ。並大抵の銀ではまじないの効果がでるまいて」


 魔王さまはあっけらかんと言った。



(聖銀といえば魔王を貫く聖剣の材料にもなるくらいだ。破魔の力が強いに違いない。ああ、くそ、そんな指輪をはめて魔王ルージュが無事でいられるわけがないだろうが!)


 勇者ルーズベルドは頭をかかえた。





 ドワーフの秘密の隠れ山岳地帯を抜け、王都に向かって進む一行はまだまだ長い道のりに野営をすることにした。


「ふむ、ここにするか」


 ほどよく身を隠せる岩の洞窟を見つけ魔王ルージュは入り口を幻惑術で覆った。

 カイが荷物の中身からテキパキと寝床を作り、焚火で洞窟内をあたためる。

 サーシャは慣れた手つきで夕餉ゆうげをこしらえた。

 ルーズベルドはぽかんと見守っている。

 姿を消していたルージュは外で獣を仕留めて帰ってきた。


「ああ魔王さま! メインディッシュにとてもいいですね!」

 干し野菜でスープをつくっていたサーシャが獣肉を見て声を弾ませた。


「それにしてもこの役立たずはいかがいたしましょう」

 すん、と冷たい目で勇者ルーズベルドを見下ろすサーシャは現在白の割烹着かっぽうぎを上から着こんでいる。


「ああ、ルーズベルド一緒に果物でもとりにいくか」


 魔王ルージュはにかっと笑って勇者ルーズベルドの腕をひいた。


「あ、ああ」


 勇者ルーズベルドはどぎまぎした。

 そういえば二人っきりになったのは初めてだったのだ!


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