問答無用
仮面の男は口を開く。
「問答無用」
魔王さまの一閃は仮面の男の脚の筋を切った。切られたことを感じないほどの鮮やかな切り口だ。遅れてやってくる鋭い痛みに仮面の男は顔を顰めた。
「私は、王城からの依頼でーー」
仮面の男が口を開くが、他言無用の呪詛でもかけられているのだろう喉を両手でおさえはくはくしだした。
「ふむ、呪われているな」
魔王さまは立ったままチャキンと魔剣を鞘に納める。しゃがみこんで喘いでいる仮面の男を見下ろした。
「この国は呪いが流行っているのか? 珍妙な」
タタッと後ろからカイが姿を現し、魔王さまの横で片膝をついて伏せた。
その後ろからサーシャと白猫が同着二位で辿り着く。
「おお、もう終わったぞ」
魔王さまは振り向いてにかっと笑った。
捕縛した男は村に引き渡した。
さらわれた子供たちは森のなかの小屋にまとめて押し込まれていたという。
「ありがとうございます! 勇者さま!」
村人の尊敬のまなざしをうけて魔王ルージュはにかっと笑った。
「よかったな、無事で」
その気取らない笑顔が村中の民の心を揺さぶった。
「あの、ぜひ像を建てさせてください」
「ああ。いいか? ルーズベルド」
魔王さまは勇者に確認をとった。ルーズベルドの像が立つと思っているのだ。
勇者ルーズベルドは嘆息した。
「ニャー……」
返事をしたが勇者は帰りぎわの通り雨に濡れ、猫のままだった。
「このままの姿(猫)で大丈夫だろうか?」
水もしたたるいい男(に見える)、魔王さまは村人に確認する。せっかくの勇者が猫の状態だがいいのかと問うているようだ。
「ええ、その白い猫ちゃんもかわいいですね」
村人は猫を抱えたままでいいのかと問われているのだと認識した。
「どうぞどうぞ、そのままで」
こうして最果ての村では「勇者ねこを抱く」の像がたてられたのだ!
一行は中継地点の人間の村で一泊したのち、ドワーフの里を目指してさらに移動していた。
「ふむ、どうやらここらへんにあるはずなのだが」
岩肌のごつごつとした山岳地帯にて魔王ルージュは首を傾げた。
「なるほど、幻惑術か?」
魔王さまが手をかざすとぽうと指の先から空間を裂くように切り込みが入り、なんの変哲もないはずの岩山がそのじつ穴だらけの洞窟の集合体であることが明らかになった。
「なん……だと」
勇者ルーズベルドはその青の瞳を見開いた。
「よし、ゆくか」
そうにかっと笑う魔王さまは現在宰相サーシャに姫抱きにされていた。
泣いて追いすがるサーシャにうんざりしたカイが交代を了承したのだ。
「ああ、ルージュ様の身体はまるで羽が生えた天使のように軽いですね。いえ、天使にたとえるだなんて私としたことが。そう、魔王さまだからこそのこの美貌、そしてこのスタイルの良さ、心根のやさしさ。はあ、まったくもうこんなに愛らしい魔王さまの存在を理解できない人間どもには本当に腹が立ちます。いっそすべて滅ぼしてしまいたい。ああ、でもそんなことをしないのはひとえに魔王さまのためです」
うっとりした様子で長々と口走っている。
カイは荷物を背負って黙々と歩いている。
勇者ルーズベルドはうんざりした顔をサーシャに向けた。
「おーい、ドワーフの長よ! シュトロイムよ!」
魔王さまは洞窟の中を潜りながら声を反響させる。
その魔力の波紋に反応して奥からぞろぞろとドワーフが押し寄せてくる。




