親孝行
タクと人質の一馬はこつ然と姿を消した。
川口オートレース場一帯の捜索が行われたが、
発見できなかった。
翌朝
川口警察署捜索1課
ユオがみんなにカップコーヒーを配る。
ボッサンはあくびをしながら言った。
「あ~寝み~。お、わり~な。しっかしな~、あそこで本庁が出て来なければな~」
ホヘトはコーヒーを受け取りながら言った。
「ユオ、サンキュ!。たしかに。あの10分はデカい」
モリモリもコーヒーを受け取って・・・こぼした。
「ありがと。‥あちちちっ。」
ボッサンはコーヒーを一口飲んで言った。
「ラッキーデカ長が、もうちょっと押してくれると思ったんスけどね」
「俺も言ったのさ。そりゃないだろって。最後までやらしてやって、確保したらそっちに引き渡せばいいだろって」
「ま~そうすね」
「したっけ、『荻野目刑事を捜査から外せ』だと。報告はしないし、目の前で犯人を逃がすしで、捜査の統一が取れないと」
ホヘトがラッキーデカ長に言った。
「え?もしかして?ボッサンを外さない代わりに?本庁にやらせろと?」
「ま~、はっきりは言わんかったが、そんな感じだったな」
ユオは腕を組んで言った。
「ボッサンが犠牲になれば丸く収まったのか~」
「おまえな~!」
モリモリは言った。
「しかし、タクは一馬連れて、どこに行っちゃったんスかね」
タクは一馬を連れて、外が暗いうちにラブホテルを出て、川口駅に向かった。
ホームのベンチで始発電車を待っているタクと一馬。
2億円の入ったバッグは目立つ為、コインロッカーに入れて来た。
「おじさん、どこいくの?」
「最後に温泉にでも浸かりに行くか」
「最後って?」
「自首しようと思ってな」
「ほんとうに?」
タクの気持ちは以前とは変わっていた。
一馬を誘拐した時は、警察に対する怒りで満ち溢れていたが、
ヤスとタカが逮捕され、一馬と2人で逃避行を繰り返していると、
自分でも無意識のうちに一馬と和真をだぶらせていて、気持ちが和んでいった。
そして、警察に対する怒りも薄れていった。
もはや2億円など、どうでもよくなっていた。
京浜急行線で、川口から大宮に出る。
大宮から鬼怒川まで行く急行に乗り、2人は鬼怒川駅に降り立った。
季節は12月、雪が静かに降り始めていた。
時間が早いので、タクシーに乗ってお任せで、観光地を回ってもらった。
雪の降る鬼怒川は、
タクの心に安らぎを与えてくれた。
タクシーの運転手に宿を紹介してもらい、そこで一泊する事にした。
部屋に通されて座椅子に座るタク。
一馬は正面の窓までいって外を眺めた。
「わ~!すご~い!真っ白だ!」
「温泉は初めてか?」
「うん!」
興奮して答える一馬。
「よし!一緒に風呂いくか!」
立ち上がるタク。
「うん!」
笑顔で振り返る一馬。
タクと一馬は浴衣に着替えて、露天風呂に向かう。
その後ろ姿は、親子にしか見えなかった。
目の前の雪景色を見ながら、温泉に浸かる2人。
「お父さんと旅行いった事あるか?」
「ない。父さんは忙しいから遊んでもらった記憶ない」
一馬の表情が暗くなる。
タクは一馬の顔を覗き込んで、
一馬の頭を両手でお湯に沈めた!
一馬は両手をバタバタさせて暴れてる。
そして顔を上げる。
「プハ~ッ。何すんの!」
「ハハハハッ」
一馬は最初ふくれっ面してたが、つられて笑い出した。
2人は上がって、体を洗い出す。
すると一馬が、
「せなか洗って上げるよ」
と言って背中を洗い出した。
タクは黙って背中を丸めていた。そのうち、背中が細かく揺れ出した。
どうやら泣いているようだ。
「なんで泣いてるの?」
一馬が背中を洗う手を止めて聞いた。
「なんだか‥こうやって‥‥背中を流してもらってると‥和真が生きてるような気がして
和真に‥流してもらってる気がして‥」
一馬は黙って震える背中を流し続けた‥




