錯覚
タクは一馬を連れてラブホテルに入った。
「ここで一泊すっか」
タクは部屋に入るとバッグを放り投げて、ベッドで大の字になった。
一馬はソファーに座ってタクを見ていた。
タクは顔を上げると一馬に言った。
「風呂入ってこいよ」
一馬は黙っていた。
「まぁ、好きにするさ」
タクはまた大の字になった。
一馬はタクに聞いた。
「おじさん、子供いないの?」
タクは起き上がってタバコに火をつけた。
「いたけど、死んじまった。生きてりゃお前位だな」
「何で死んじゃったの?」
「お巡りのせいで死んだのさ」
「お巡りのせい?」
「あの時、お巡りが無理に突っ込まなけりゃ和真は死なずに済んだんだ!」
「和真って、ぼくとおんなじ名前?」
「あぁ、偶然だけどな」
タクは、天井を見上げながら話し始めた。
「2年前、和真が10才の時だ。家の目の前のコンビニに、1人でチョコを買いに行ったんだ。
店員には顔馴染みだった。
和真がチョコを買ってる時に、1人の男が入って来た。
その男は、ジャックナイフを出すとカウンター越しに店員を脅した。
レジの5万円をわしづかみにして店を出る時、外を通りかかった自転車に乗ったお巡りに見つかった。
男は店に戻って、呆然と立っていた和真を人質にとった。
お巡りは、和真がいるにも関わらず犯人に飛びかかった。
犯人を取り押さえた時、隣で和真が血を流して倒れていた。
すぐに病院に運ばれたが、出血多量で和真は死んだ。その時のお巡りは、何の処分もなし。
犯人は、強盗殺人で起訴された。
俺は恨んだよ!犯人じゃなくて、警察を!なんとかギャフンと言わせてやろうと思って、今回の誘拐を計画したんだ」
タバコの灰が、ポロっと落ちた。
「今までお前とずっといて、なんだか和真と一緒にいるみたいな錯覚をする時があったよ」
タクはタバコを灰皿で消した。
一馬はしばらくうつむいて黙っていたが顔を上げて言った。
「お風呂入ってくる」
「おぅ」
30分後
一馬が風呂から出ると、
タクはベッドで大の字になって、大イビキをかいて寝ていた。
今ならそのドアから外に出れば簡単に逃げられる。
一馬は悩んだが、結局部屋から出なかった。
この人を1人にしたら、もっと罪を重ねるような気がして‥
一馬は、ベッドで大の字になって寝ているタクにそっと布団を掛けた。
そして一馬はソファーで横になった。
そしてあっという間に眠りに落ちた‥




