第五章 セレスの秘密
三十人が元の世界に戻ると、セレスは円環の前に立っていた。
その表情には、深い悲しみが浮かんでいる。
「あなたたちは、よく戻ってきました」
ニジは尋ねた。
「セレスさん。あなたは、最初の約束を守ってきたと言いましたね。では、どうして名を持たぬ者が生まれたんですか?」
セレスは、長い沈黙のあとに答えた。
「名を持たぬ者は、最初の光から分かれた存在です」
「最初の光から?」
「はい。宇宙が生まれる前、すべての可能性はひとつの光の中にありました。その光は、無数の存在へと分かれました。しかし、ひとつだけ、どこにも分かれなかったものがあったのです」
セレスの胸元にある円環が、淡く輝いた。
「それは、誰とも出会わず、誰からも選ばれなかった可能性。名も姿も持たず、ただ存在することだけを続けてきたもの。それが、名を持たぬ者です」
ルミナは悲しそうに目を伏せた。
「誰からも選ばれなかった……。それは、とても寂しいことね」
「彼は、最初の約束に含まれていなかったわけではありません。ただ、自分がその約束の一部だと知ることができなかったのです」
アマネが気づいたように顔を上げた。
「では、セレスさんは彼を知っていたのですね?」
セレスはうなずいた。
「私は、彼に約束を伝えようとしました。しかし、彼は私の言葉を受け入れませんでした。そして、私は彼を救うことができなかった」
ニジは、セレスの瞳を見つめた。
「それでも、今から一緒に向き合うことはできます」
セレスは、初めて小さく微笑んだ。
「ありがとう。あなたたちなら、彼に伝えられるかもしれません」
そのとき、円環の中心に、ひとつの空白が現れた。
そこには、セレスの紋章と同じ形をした、小さな欠けがあった。
セレスは、その欠けを見つめてつぶやいた。
「最初の約束には、まだ完成していない一節があるのです」




