第九部 原初銀河の約束 ~すべての光が生まれる前に~
序章 過去でも未来でもない扉
交差銀河の図書館に、静かな夜が訪れていた。
三十人の守護者たちが、それぞれの旅の疲れを癒やしているころ、図書館の窓の向こうでは、星々がゆっくりと瞬いていた。
白紙の本は、いつものように中央の机に置かれている。
ハジメは、その本のそばで、今日も新しい物語を書いていた。
「今日は、ミライアの雨の話を書こう。あの星の人たちが、初めて自分の好きなものを見つけた日のことを」
ハジメが羽根ペンを走らせると、文字のひとつひとつが小さな光になって、ページの上に浮かび上がった。
そのときだった。
図書館の奥から、低く澄んだ音が響いた。
――ゴーン。
鐘の音に似ていたが、どこか遠い宇宙の始まりを告げるような、不思議な響きだった。
ニジが顔を上げる。
「今の音は……?」
ルミナが窓辺へ駆け寄った。
「みんな、見て!」
交差銀河の彼方に、あの扉が浮かんでいた。
第八部の終わりに現れた、過去でも未来でもない、不思議な紋章を刻んだ扉。
しかし、以前とは様子が違っていた。
扉の周囲には、無数の光の輪が広がり、その奥から、色とも時間とも呼べない不思議な輝きが漏れていた。
アマネが胸元の創世の紋章を押さえる。
「この気配……創世銀河よりも、さらに古い。宇宙が生まれる前の記憶に似ているわ」
トワも、静かに目を閉じた。
「永遠星の記録にもない。時間が始まる前には、まだ時間という概念さえなかったはず……」
ニジは、仲間たちを見渡した。
「行ってみよう。あの扉は、ぼくたちを待っている気がする」
三十人は、光の扉の前に集まった。
ハジメが白紙の本を抱え、扉の紋章にそっと触れる。
すると、表面に文字が浮かび上がった。
『すべての物語には、始まりがある。では、始まりを生んだものは何か。』
扉が、ゆっくりと開いた。
その向こうには、星も、銀河も、時間も存在しない、果てしない光の海が広がっていた。
そして、その海の彼方から、誰かの声が聞こえた。
「ようやく来たのですね。三十の光を受け継ぐ者たちよ」
その声は、懐かしくもあり、初めて聞くものでもあった。
「あなたたちが歩んできた物語には、まだ語られていない最初の約束があります」
ニジは一歩、光の海へ踏み出した。
第九部の冒険が、始まろうとしていた。




