第九章 ノクスからハジメへ
ミライアに平和が戻ったあと、ハジメは白紙の本を開いていた。
ページには、少しずつ文字が増えている。
最初に書かれたのは、短い一文だった。
『ぼくは、ここにいる。』
ハジメは、その文字を何度も読み返した。
「不思議だね。たったこれだけの言葉なのに、胸の奥があたたかくなる」
ルミナが微笑む。
「それは、あなたが自分の存在を認めたからだよ」
ノエも隣に座った。
「私も、最初は自分のことが分からなかった。でも、誰かが一緒にいてくれたから、自分の物語を見つけられた」
バラグは、ハジメの本を見つめていた。
「物語は、誰かに読まれることで広がる。しかし、書き始める勇気は、自分の中から生まれるのだな」
クロノスは、静かにうなずいた。
「そして、書き直すこともできる。過去の過ちを消すことはできなくても、これからの一ページを変えることはできる」
ハジメは、少し照れたように笑った。
「ぼくの物語も、いつか誰かに読んでもらえるかな?」
ニジは答えた。
「もう読んでいるよ。ここにいるみんながね」
その言葉に、ハジメの瞳から小さな涙がこぼれた。
涙は白紙の本に落ち、淡い金色の花となって咲いた。
その花は、まだ名前を持たない未来の象徴だった。
ハジメは、ノクスという名を完全に捨てることはしなかった。
それは、彼が歩んできた過去の一部だったからだ。
「ノクスだったぼくも、ハジメとして生きるぼくも、どちらもぼくなんだね」
ニジはうなずいた。
「過去を否定しなくてもいい。そこから何を学び、これからどう歩くかが大切なんだ」
こうして、ノクスはハジメとして、新しい仲間たちと共に歩み始めた。




