第六章 白紙を覆う闇
しかし、ノクスの心に生まれた迷いは、すぐに消えたわけではなかった。
空白の亀裂の奥から、巨大な影が現れた。
それは、ノクス自身の恐れが形になったものだった。
「希望を信じるな」
影は、ノクスの声で語った。
「また忘れられる。誰も読んでくれない。誰も待ってくれない。ならば、すべてを閉じてしまえ」
ノクスの仮面が再び黒く染まる。
「違う……私は、もう……」
影は白紙の本を包み込み、ページを次々と黒く塗りつぶしていった。
ミライアの住人たちの胸元から、光が消えていく。
「みんな、力を合わせよう!」
ニジの声が響いた。
二十九人の守護者たちは、それぞれの光を解き放った。
春の桜花隊が、希望の花びらを舞い上げる。
夏の蒼海隊が、命を潤す青い波を起こす。
秋の紅葉隊が、受け継がれる記憶を黄金の光に変える。
冬の銀雪隊が、凍りついた心を優しく包み込む。
二十四人の力が四季の輪となり、ミライアの空を照らした。
ニジは二十五番目の虹の光を放つ。
ルミナは透明な光で、黒く染められたページを包み込んだ。
アマネは創世の力で、消えかけた命の可能性を呼び戻す。
トワは永遠の記憶を広げ、誰かが誰かを想った時間を守る。
ユイは光の糸を広げ、二十九人の心をひとつにつないだ。
ノエは忘れられた物語の声を集め、バラグは断ち切られたページをつなぎ直す。
クロノスは、かつて自分が奪った色を思い出しながら、ミライアの空へ力を注いだ。
それでも、影は消えなかった。
「まだ足りない!」
ユイが叫ぶ。
「この闇は、誰かの力だけではほどけない。ノクス自身が、自分の物語を信じなければ!」
ニジはノクスへ手を伸ばした。
「ノクス! 君の物語を、君自身が選ぶんだ!」
ノクスは、黒い影と向き合った。
「私は……怖かった。もう一度、誰にも読まれないことが」
その声は震えていた。
「でも、本当は……誰かに読んでほしかった。私の物語を、最後まで見届けてほしかった」
ノクスの仮面が砕けた。
その下には、幼い少年の顔があった。
涙が頬を伝い、胸元に小さな光が灯る。
その光は、まだ弱々しかった。
けれど、確かにそこに存在していた。




