第五章 ノクスの孤独
二十九人が再び集まったとき、ミライアの空はさらに暗くなっていた。
ノクスは、白紙の本を奪い、空白の亀裂の前に立っていた。
「この本は、未来を生み出す源。これを閉じれば、未完の物語は二度と生まれない」
ニジは前へ出た。
「どうして、そこまで未来を嫌うんだ?」
ノクスは、しばらく黙っていた。
やがて、仮面の奥から、かすかな声が聞こえた。
「私は……かつて、物語を持っていた」
その声は、先ほどまでの冷たさを失っていた。
「小さな星に生まれ、誰かに読んでもらうことを夢見ていた。けれど、私の物語は誰にも読まれなかった。書きかけのページは閉じられ、私の存在は忘れられていった」
ノエが一歩前に出た。
「あなたも、忘れられた物語だったの?」
ノクスは、ゆっくりとうなずいた。
「私は、誰かに見つけてもらいたかった。続きを書いてほしかった。けれど、待っても待っても、誰も来なかった」
彼の周囲に、無数の白いページが浮かび上がった。
そこには、書きかけの文章が残されていた。
誰かに伝えたかった言葉。
誰かと交わしたかった約束。
まだ見ぬ世界への憧れ。
そのすべてが、途中で途切れていた。
「私は、待つことに疲れた。希望を持つことにも疲れた。だから、すべての物語を閉じることにした。始まらなければ、忘れられることもない。期待しなければ、傷つくこともない」
ルミナが、そっと近づいた。
「でも、あなたは本当は、物語を終わらせたかったわけじゃないんでしょう?」
ノクスは答えなかった。
「本当は、誰かに読んでほしかった。続きを一緒に考えてほしかった。あなたの物語を、大切にしてほしかったんじゃないの?」
その言葉に、ノクスの仮面に小さなひびが入った。
「……黙れ」
「あなたの物語は、まだ終わっていないよ」
ノエは、優しく微笑んだ。
「私も、忘れられた物語だった。自分が何者なのかさえ分からなかった。でも、みんなが一緒に続きを探してくれた。だから、今ここにいる」
ノクスの手が震えた。
「私の物語など……誰も必要としていない」
そのとき、バラグが静かに語り始めた。
「かつて私も、物語を壊した。悲しみをなくすために、すべてを断ち切った。しかし、誰かの物語を奪うことは、その人の未来を奪うことだった」
クロノスも続けた。
「過去を変えることはできない。だが、これからの行動は選べる。私たちは、何度でもやり直すことができる」
ノクスは、白紙の本を抱きしめた。
「……私にも、続きを書くことができるのか?」
ニジは、まっすぐに答えた。
「もちろんだよ。どんな物語にも、続きを始める力は残されている」




