第四章 失われた物語の庭
クスの攻撃によって、二十九人はそれぞれ別の場所へ飛ばされた。
ニジが目を開けると、そこは見覚えのある庭だった。
春の桜が咲き誇り、柔らかな風が花びらを運んでいる。
けれど、花びらは地面に落ちると、文字のように消えてしまった。
庭の中央には、一人の少女が立っていた。
「あなたは……誰?」
少女は答えなかった。
その代わり、ニジの胸元を指さした。
そこには、二十五番目の光が輝いている。
「あなたは、たくさんの人に出会ってきたのね」
「うん。仲間たちと一緒に、いろいろな世界を旅してきた」
「でも、もし誰とも出会わなかったら?」
ニジは少し考えた。
「今のぼくはいなかったと思う」
少女は悲しそうに微笑んだ。
「それなら、出会わなければよかったと思う日もある?」
その問いに、ニジは答えられなかった。
出会いがあれば、別れもある。
大切な仲間が傷つくこともある。
自分の選択が、誰かを苦しめてしまうこともある。
それでも、ニジはゆっくりと顔を上げた。
「あるかもしれない。でも、出会えたことを後悔したくない。悲しかったことも、うれしかったことも、全部が今のぼくをつくってくれたから」
少女は静かにうなずいた。
「そう。あなたは、まだ物語を続けるのね」
その言葉とともに、庭の桜に色が戻った。
一方、別の場所では、ルミナが透明な湖の前に立っていた。
湖面には、ルミナ自身の姿が映っていない。
そこに映っているのは、出会った仲間たちの姿ばかりだった。
「あなたは、誰かの色を映すことができる。でも、自分の色は何色なの?」
湖の奥から声がした。
ルミナは胸に手を当てた。
「私の色……」
彼女は、ずっと誰かの色をつなぎ、誰かの記憶を映してきた。
しかし、自分自身が何を望み、どんな未来を描きたいのか、深く考えたことはなかった。
「私は……みんなと一緒にいたい。みんなの色を大切にしたい。でも、それだけじゃない」
ルミナの胸に、淡い虹色が灯った。
「私も、自分の物語を描いてみたい!」
湖面に、初めてルミナ自身の姿が映った。
その姿は、透明でありながら、確かな色を宿していた。
ユイの前には、無数の光の糸が広がっていた。
どの糸も、誰かとの縁につながっている。
けれど、その中に一本だけ、行き先のない糸があった。
「これは、まだ誰とも結ばれていない未来の糸……」
ユイは、その糸を握った。
「つながりは、過去にあるだけじゃない。これから出会う人とも、未来で結ばれていくんだね」
彼女の手の中で、糸が輝いた。
二十九人は、それぞれの心の中にある問いと向き合っていた。
そして、誰もが少しずつ気づき始めていた。
ノクスが閉じようとしているのは、未来そのものではない。
未来を信じる心なのだ。




