第三章 消えゆく未来の文字
ミライアの空に現れた亀裂は、少しずつ広がっていた。
その向こう側には、星も光も見えない。
ただ、何も描かれていない巨大な空白が広がっていた。
トワが目を閉じる。
「これは、記憶を消す力ではない。未来そのものを、まだ存在しなかったことにしようとしている」
アマネは創世の紋章を輝かせた。
「生命の始まりを拒む力……。でも、自然に生まれようとするものを、誰かが無理に消している」
そのとき、ミライアの住人たちが一斉に空を見上げた。
彼らの胸元から、かすかな光が浮かび上がり、空白へ吸い込まれていく。
雨の音を好きだと言った住人も、胸を押さえて倒れ込んだ。
「私……今、何かを感じていたはずなのに……」
ルミナが駆け寄る。
「大丈夫! その気持ちは、消させない!」
しかし、住人の胸元の光は、どんどん弱くなっていった。
そのとき、白紙の本がニジの手の中で震え始めた。
ページが風もないのにめくられ、何も書かれていなかった紙の上に、文字が浮かび上がる。
『未来を恐れる者が、未来を閉じようとしている。』
そして、次のページには、ひとつの名前が現れた。
「ノクス」
「ノクス……。これが、敵の名前なのか?」
ユイが問いかけた。
その直後、空白の亀裂から、黒い衣をまとった人物が現れた。
顔は仮面に覆われ、その手には、文字のない長い杖が握られていた。
「私はノクス。未完の物語を閉じる者」
その声は、静かで冷たかった。
「まだ生まれていない物語など、必要ない。未来は不確かで、希望は人を傷つける。ならば、何も始まらなければ、誰も悲しまずに済む」
ニジは一歩前に出た。
「悲しみを恐れる気持ちは分かる。でも、だからといって、未来を奪っていい理由にはならない!」
ノクスは答えた。
「君たちは、出会いを語り、友情を語り、奇跡を語る。しかし、その先には別れもある。失敗もある。失われるものもある。なぜ、そんな不確かなものを守ろうとする?」
クロノスが、静かに前へ進み出た。
「私もかつて、同じように考えていた。色を奪えば、悲しみも消えると思っていた。だが、それは間違いだった」
バラグも続いた。
「物語を断ち切れば、苦しみも終わると思っていた。だが、物語を奪われた者は、苦しみの中に取り残されるだけだった」
ノクスは二人を見つめた。
「過ちを犯した者たちが、未来を語るのか」
ニジは答えた。
「そうだよ。間違えたからこそ、ぼくたちは知っている。未来は、誰かが決めてしまうものじゃない。自分たちで選び、つくっていくものなんだ!」
ノクスの杖が輝いた。
「ならば、君たちの物語も、ここで閉じよう」
黒い光が、ミライアの空を覆った。




