第二章 色を持たない星、ミライア
白紙の本が示した星は、交差銀河の外れに浮かぶ、小さな惑星だった。
その星の名は、ミライア。
地表には草原が広がり、山々が連なり、透き通った川が流れていた。
けれど、不思議なことに、そこには色がなかった。
草は白く、空は淡い灰色で、川は透明なまま光を映していない。
花は咲いているのに、花びらの色が分からない。
鳥は空を飛んでいるのに、羽の模様が見えない。
そして、星の住人たちは、みな同じような姿をしていた。
誰もが穏やかで、争いもなかった。
しかし、誰も笑わず、誰も泣かず、誰も誰かを特別に思うことがなかった。
「ここは……とても静かだけれど、少し寂しいね」
春の桜花隊のひとりがつぶやいた。
「花が咲いているのに、春の色がない。夏の海も、秋の夕焼けも、冬の雪明かりも感じられない」
蒼海隊の仲間が、遠くの川を見つめた。
そのとき、ひとりの小さな住人が近づいてきた。
「旅の方々。あなたたちは、どこから来たのですか?」
ニジが答える。
「ぼくたちは、交差銀河から来たんだ。この星のことを知りたくてね」
住人は首をかしげた。
「交差銀河……。それは、物語が集まる場所ですか?」
「そうだよ」
「では、私たちにも物語があるのでしょうか?」
その問いに、ニジはすぐには答えられなかった。
住人は続けた。
「私たちは、毎日同じように暮らしています。生まれたときから、何も変わりません。誰かと出会っても、別れても、心に残るものがないのです」
ルミナは、そっと住人の手を取った。
「あなたは、何か好きなものがある?」
「好き……?」
「きれいだと思うものでも、うれしいと思うことでもいいの」
住人はしばらく考えた。
やがて、小さな声で答えた。
「……雨の音が、少し好きです」
「どうして?」
「分かりません。ただ、雨が降ると、世界が私に話しかけてくれるような気がするのです」
その瞬間、住人の胸元に、小さな水色の光が灯った。
ルミナの瞳が輝いた。
「見て! あなたの心に、色が生まれたよ!」
しかし、その光はすぐに消えてしまった。
住人は驚き、胸元を押さえた。
「今のは……何だったのでしょう?」
アマネは静かに答えた。
「あなたの中にあった、まだ名前のない気持ちよ」
そのとき、遠くの空に、黒い亀裂が走った。
ミライアの空に、白紙のような闇が広がり始めていた。




