第三章 物語を失った少女、ノエ
大きな本の中から、一人の少女が現れた。
年齢は、ニジたちより少し幼く見える。
髪は夜空のような深い藍色。
瞳には、星の光が宿っていた。
しかし、その表情には、どこか寂しさがあった。
「あなたが、わたしを呼んだの?」
ルミナが尋ねると、少女は小さくうなずいた。
「わたしの名前は、ノエ」
「ノエちゃんは、この村に住んでいるの?」
「ううん。わたしは、物語の中にいたの。でも、物語が忘れられてしまって、どこへ帰ればいいのか分からなくなったの」
アマネは、ノエのそばへ歩み寄った。
「どんな物語だったの?」
ノエは、少し考えた。
「分からないの。わたしには、始まりも、終わりもないから」
ニジは優しく尋ねた。
「それでも、何か覚えていることはある?」
ノエは、胸に手を当てた。
「誰かが、わたしを待っていた気がする」
「誰か?」
「うん。とても大切な人。でも、その人の顔も、声も、思い出せないの」
ルミナは、ノエの手を握った。
「思い出せなくても、探していいんだよ。わたしたちも一緒に探すから」
そのとき、ノエの足元に小さな光が現れた。
光は、一本の細い糸になって、図書館の外へ伸びていった。
司書は驚いたように言った。
「これは……物語のつながりを示す糸です」
アカシアが、その糸を見つめる。
「この糸をたどれば、ノエの物語の続きを見つけられるかもしれません」
ノエは、ニジたちを見上げた。
「本当に、一緒に来てくれるの?」
ニジは笑顔で答えた。
「もちろん。物語の続きを見つけるまで、ぼくたちは一緒だよ」
ノエは、初めて笑った。
その笑顔は、長い夜の向こうから届いた朝日のように、静かで美しかった。




