第二章 忘れられた物語の村
道の先には、小さな村があった。
家々の屋根は古び、窓には薄く埃が積もっている。
広場には噴水があったが、水は流れていない。
村の中央には、大きな図書館が建っていた。
扉には、古い文字でこう記されている。
「忘れられた物語を保管する場所」
ニジたちは、そっと中へ入った。
図書館には、無数の本が並んでいた。
しかし、どの本にも題名がなかった。
ページを開いてみると、文字は途中で消えている。
物語の始まりだけが書かれ、結末がない本。
登場人物の名前だけが残り、出来事が消えてしまった本。
誰かの願いが記されているのに、その願いを受け取る相手がいない本。
それらが、静かに棚に並んでいた。
「どうして、こんなにたくさんの物語が忘れられてしまったの?」
ルミナが尋ねた。
そのとき、図書館の奥から、小さな足音が聞こえた。
現れたのは、年老いた司書だった。
白い髪を後ろで束ね、手には一冊の古い本を抱えている。
「ここにあるのは、誰にも聞いてもらえなかった物語たちです」
司書は、穏やかな声で語った。
「大きな英雄の物語は、長く語り継がれることがあります。しかし、小さな勇気や、誰にも気づかれなかった優しさは、いつの間にか忘れられてしまうこともあるのです」
秋の守護戦士が、一冊の本を手に取った。
そこには、病気の母親のために毎日花を摘んでいた少年の物語が記されていた。
しかし、母親が元気になる前に、ページが途切れている。
冬の守護戦士が、別の本を開いた。
そこには、誰にも褒められなかった小さな雪だるまの物語があった。
誰も見ていない場所で、寒い夜に迷子の動物を守り続けた雪だるま。
その最後には、こう書かれていた。
『ぼくは、誰かの役に立てたのだろうか』
その先のページは、白紙だった。
冬の守護戦士は、本を胸に抱いた。
「誰かに気づいてもらえなかったとしても、優しさが消えてしまうわけじゃない」
司書は静かにうなずいた。
「その通りです。けれど、物語は誰かに受け取ってもらうことで、初めて次のページへ進めることもあります」
ニジは、図書館の奥を見つめた。
そこには、まだ開かれていない大きな本があった。
表紙には、何も書かれていない。
ただ、中央に小さな空白がある。
その空白から、かすかな声が聞こえた。
「誰か……続きを書いて……」
ルミナは、そっと本に手を触れた。
その瞬間、図書館全体に淡い光が広がった。
忘れられた物語のページが、一枚ずつめくれ始めた。




