第五章 記憶の迷宮と二十七の試練
エターナスは、まだ心を決められなかった。
愛する娘との思い出を手放すことは、彼にとって、自分の一部を失うことと同じだった。
「私にはできない。あの子との時間を終わらせることなど……」
すると、永遠星の地下から、不気味な音が響いた。
エターナスの足元に、黒い影が広がる。
「王よ。迷う必要はない」
影の中から、声がした。
「永遠を守るためには、すべての時間を封じればよい」
セレスが叫んだ。
「いけません! それは永遠星の本当の力ではありません!」
しかし、影は王を包み込み、時計塔の中心へと引きずり込んだ。
その正体は、エターナスが悲しみを閉じ込めるために生み出した、もう一つの存在だった。
名を「ロスト」。
失うことへの恐怖が、長い年月をかけて意思を持ったものだった。
ロストは、永遠星の人々の記憶を取り込み、王の心を支配しようとしていた。
「王よ、悲しみを思い出すな。変化を受け入れるな。すべてを止めてしまえ」
王の身体から、銀色の光が消え始めた。
二十七人は、王を救うために時計塔の地下へ向かった。
そこには、巨大な記憶の迷宮が広がっていた。
迷宮には、仲間たちそれぞれの過去が映し出されていた。
春の守護戦士は、初めて仲間と出会った日の記憶を見る。
夏の守護戦士は、守れなかった海辺の小さな命を思い出す。
秋の守護戦士は、別れを告げた大切な人の笑顔を見る。
冬の守護戦士は、孤独だった過去と向き合う。
ニジは、これまでの冒険で出会ったすべての仲間たちを見た。
ルミナは、名前を持たなかった頃の自分を思い出した。
アマネは、生まれることのできなかった星々の記憶を感じた。
クロノスは、過去に奪ってしまった時間を見つめた。
ヴェイルは、色を消してしまった銀河の悲しみを見た。
ゼロムは、何も生まれない世界を望んでいた自分の姿を見た。
誰もが、自分の過去から逃げることはできなかった。
けれども、仲間たちは一つのことに気づいた。
過去は消せない。
それでも、過去の意味は、未来への歩み方によって変わるのだ。
第六章 ロスト、失われることを恐れる闇
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迷宮の最奥に、ロストが待ち構えていた。
その姿は、人の形をしているようで、身体のあちこちに壊れた時計や砕けた鏡が浮かんでいる。
「お前たちは、何も分かっていない」
ロストの声が響く。
「時間が流れれば、必ず失う。愛する者も、若さも、星も、記憶も。ならば、すべてを止めることこそ、最も優しい選択ではないか」
ニジは答えた。
「失うことが怖いのは分かる。でも、失うことだけを考えていたら、今ここにある幸せにも気づけないよ」
ロストは大きく腕を広げた。
すると、迷宮の壁が崩れ、無数の時計が飛び出してきた。
時計の針は逆回転し、仲間たちの身体を過去へと引き戻そうとする。
アカシアが時の結界を張った。
クロノスは、かつて自分が使っていた時間の力を、今度は仲間を守るために解放した。
「時間は、奪うためにあるのではない!」
クロノスの声が迷宮に響く。
「新しい一歩を踏み出すためにあるのだ!」
ヴェイルは幻色の力を使い、ロストの闇を包み込んだ。
ゼロムは創世の光を放ち、壊れた記憶のかけらを一つずつ元に戻していく。
それでも、ロストは消えなかった。
「私は王の悲しみそのものだ。王が悲しみを捨てない限り、私は何度でも蘇る!」
ニジは、エターナスの姿を探した。
王は、迷宮の奥でリリアの記憶を抱きしめていた。
「王様! あなたの悲しみを否定する人はいない!」
ニジは叫んだ。
「大切だったから、悲しいんだよ。その悲しみも、リリアちゃんと過ごした大切な時間の一部なんだ!」
エターナスの頬に、再び涙が伝った。




