第三章 生まれなかった星の記憶
創世海の入り口にたどり着いた一行は、そこで不思議な惑星を発見した。
その星には、大陸も海も山もなかった。
ただ、広大な銀色の砂原が広がっていた。
星の中心には、一本の枯れた樹木が立っている。
枝には葉がなく、幹には無数の小さな光の跡が刻まれていた。
ルミナが近づくと、樹木の表面に淡い文字が浮かび上がった。
『生まれることのできなかった星々の記憶』
「生まれなかった星……?」
ニジがつぶやく。
その瞬間、周囲の景色が一変した。
一行の前に、無数の幻影が現れた。
海を持つはずだった星。
花を咲かせるはずだった星。
笑い声の響くはずだった星。
それらはすべて、誕生する直前に創世海の光を失い、存在することができなかった世界だった。
小さな星の幻影が、ニジに語りかけた。
「ぼくたちにも、空が欲しかった」
別の幻影が続ける。
「わたしたちにも、誰かと出会う未来が欲しかった」
ルミナの胸が痛んだ。
「生まれることができなかった命にも、願いがあったんだね……」
クロノスは目を伏せた。
「私もかつて、自分の過ちによって多くの未来を奪った。生まれるはずだった可能性まで、消してしまったのかもしれない」
ニジはクロノスの肩に手を置いた。
「過去は消せない。でも、これから何をするかは選べるよ」
そのとき、枯れた樹木の根元から、小さな光が現れた。
光は、ゆっくりと形を変え、ひとつの種になった。
それは、まだ何の色も持たない透明な種だった。
ルミナはその種を両手で包み込んだ。
「この種は、まだ生まれることを諦めていないんだ」
すると、遠くから先ほどの声が響いた。
『無駄なことだ』
『生まれなかったものは、永遠に生まれない』
ニジは、光を失いかけた種を見つめた。
「そんなことはない。未来は、まだ決まっていない!」
その言葉に応えるように、透明な種が一度だけ、かすかに瞬いた。




