入学日1日目(教室内で 言いがかり)
落ち着いた男子生徒の声で響子先生の宣言がさえぎられた。
「私の名は竜崎剛介です。委員長の決定方法には明らかに問題がありました」
この発言者はいかにも鍛錬していると思われ体格が周囲の生徒たちと比べても一回り以上大きく、髪はきれいに整えられている。
「あの竜崎グループの御曹司がこの学校に来ていたのか」
「ここらでは派手に展開してしている竜崎グループのか?」
教室のあちこちでヒソヒソ話が湧いていた
「あなたは今さら何を言っているのですか?! 委員長の決定のときに、あなたたち全員が拍手をしました。自分たちの決定には責任を持って頂きます」
響子先生は怒りを隠さずに竜崎剛介に言い放った。
「先生、どうか落ち着いてください。深呼吸でもなされてはいかがですか」
剛介は泰然として話を続けた。
「あの拍手のせいで、私は立候補することができなくなりました。つまり、クラス中の拍手によって私の立候補の表明が残念ながらかき消されてしまっていたのです」
剛介は目をつむって頭を大げさに左右に振った。が、すぐに目をカッと見開いた。
「さらに付け加えるならば、私の方がこのクラスの学級委員にふさわしいかと」
「竜崎君、あなたはカトリさんが副委員長になったから、急に立候補しようと言い出しているのでしょう!」
「先生の方こそ、おたわむれを。委員長には委員長にふさわしい者がなることが、このクラスのためになります。その候補者になる機会を私は失ってしまったのです」
剛介は立ち上がるとあたりを見下ろした。教壇まで進むと振り返って教室中の生徒たちに向かって言い放った。
「クラスの諸君、もう一度、私に立候補のチャンスを与えてはくれないか? 私が委員長になることは、君たちにも決して悪いことではないと思うが、どうかな? さあ、私の立候補に賛成してくれる人は手を上げてくれないか?」
響子先生はかたずを飲んでクラス中の生徒たちの行動を見守った。
しばらくしても、誰ひとりとして手をあげる者はいなかったので、響子先生は胸をなでおろした。
結果を見ても剛介は悠然としていて、再びクラス中に語りかけた。
「質問の方法が良くなかったようだったかな? それでは、もう一度だけ質問させて頂こう。私が立候補することに反対の人は手をあげてもらおう」
“手を挙げれば 身バレする…”
今度は、カトリを除いては誰ひとりとして、手をあげる者はいなかった。
「先生、ご覧のとおりです。私はクラスの諸君から立候補するチャンスを与えられました。赤城君と私とで委員長選挙をやりましょう」
「クラスでこんな脅迫まがいのことをして、あなたは恥ずかしくないの! 私は絶対に認めません!」
響子先生は剛介の目から視線を外さない。
「みんなが決めるなら、私もそれに従うわ。それが多数決ですものね」
カトリの口調は冷静だった。剛介は満足そうにうなずき、響子先生は驚きながらカトリを見つめた。
「アカギクン… 悪いけど… ワタシ… 副委員長を辞退する。良かったら、あなたも委員長を辞退しちゃいなさいよ。リュウザキクンがせっかく立候補してくれるんですもの」
カトリが話し終わるか終らないうちに剛介に明らかににうろたえ始めていた。
「リュウザキクンは、委員長に立候補したかったんだよね? せっかくだから、委員長をお願いしてもかまわないよね?」
「私は、赤城君とカトリさんが学級委員をすべきだと思います」
志織がヤレヤレといった表情をして、あきれた口調で発言した。
「一度すでに決まっていることだし、これ以上このことに時間をかけることは無駄だと思います。みなさんもそう思いませんか?」
教室のあちらこちらから志織に同調する声があがった。剛介も助かったという顔をしていた。
「皆さん、赤城隼人さんとカトリーナ クラインさんに学級委員をお任せすることで良いですね」
響子先生が生徒たちに呼びかけると、緩慢な拍手が教室中から起こった。
「二人には、新入生オリエンテーション合宿の班決めやレクリエーションをお願いします。皆さんも協力してあげてください」
それからいくつかの事務的な連絡の後、響子先生は少しやつれた雰囲気を漂わせて教室を出ていった。
「さっき、どうして東条さんは赤城君を推薦したり、竜崎君を助けたりしたんだろう? ちょっと気になるわね…」
エマはけだるい空気に包まれた教室の片隅でそんなことを考えていた。




