入学日1日目(教室内で 学級委員の決定)
「…皆さん、自己紹介ありがとうござました。さて、みんなそれぞれのプロフィールも分かったでしょうから、学級委員長と副委員長の2人を決めたいと思います。それでは立候補する人はいますか?」
全員の自己紹介が終わってから響子先生は教室中を見回すようにしながら、大きな声で生徒たちに問いかけた。
これに対して生徒たちは教室内の“気”の流れを読み合っていた。ほとんどの生徒は出身中学では当然のように学級委員をつとめたことがあった。ただ、入学1日目という自分以外の生徒の実力を測りかねる時点で、目立つ動きとることには躊躇せざるを得なかった。
つまり、立候補した場合、学級委員のつとめをうまく果たして当然で、失敗した場合には身の程知らずの烙印をクラス中から押されてしまうからであった。
「あれ、誰も立候補いないんですね。今までこんなことは余りなかったんですけど…」
響子先生は少し困ったように首をかしげながら一人一人の顔を見たが、生徒は誰も目を合わそうとしなかった。
「皆さん、どうでしょうかね?」
「すみません、先生、発言しても良いでしょうか?」
軽くウェーブした髪型の艶っぽい口元のした女子が手を上げて甘えるような声で質問した。
「どうぞ、えーと東条さん?」
「はい、東条志織です、先生。私はちょっと自分が立候補する自信はないのですが、委員長にふさわしいと思う人を推薦することならできるのですが」
「え? それではどなたを推薦してくださるのですか?」
「それは、赤城隼人さんです」
隼人と外国人のカトリを除いた生徒全員が“これは名案だ”と、テレパスたちのように話し合うこともなく意思統一を一瞬で成し遂げた。誰でもいいから一人を委員長にしてしまえば自分は批評する側になれるからだ。
「それで、推薦の理由を教えていただけますか? 東条さん?」
「ぼくも赤城君がふさわしいと思います」
「私も赤城さんがいいと思います」
「赤城さんが適任です」
先生の質問に東条詩織が答えないうちに教室のあちこちから隼人を推薦する者たちの声が全開にしたシャワーのようにあふれて来た。
「赤城君がふさわしいと思う人は拍手してください」
誰ともなく呼びかけをすると教室中が拍手でいっぱいになった。
「皆さん、これでは多数決の形を借りて、自分の身代わりの『いけにえの山羊』を差し出しているようなものです」
響子先生は教壇に両手をついて怒りで震えながらも毅然とした態度で告げた。
「ただ、このような状況ではいつまでも学級委員の選出は出来ないでしょう。今回は私から赤城君に委員長になって頂くようお願いをします… 赤城君、大変申し訳ありませんが、学級委員長になってください」
響子先生は隼人に向かって深々とお辞儀をした。
訳が分からないうちに自分の名が急にあちこちで出て来て、気がつくと今に至っていた隼人は忘我の状態で返事をしていた。
「ハイ。ワカリマシタ」
「本当にありがとうございます。赤城君」
響子先生は丁寧に再度お辞儀を隼人にしてから、他の生徒たちの方を向いて静かに告げた。
「皆さんは、自分たちの行為が原因となっていかなる結果を招いたかをよく考えてください。そして、自分たちの決定の責任をこれから必ず取ってください。私は見ています」
「ビッテ、フロイライン キョウコ、副委員長には私がなります!」
教室の奥から朗々とした声が響いてきた。
“エッ、なに? 信じられないし?”
人知れず鋭い視線がカトリを射抜く
「ワタシ、カトリーナはアカギハヤトと一緒に学級委員になります」
“きっとこれは彼女に近づくチャンスなんだ…”
カトリからは目を離さずに任務のために自分の気持ちを押し殺す…
教室内にはは男子生徒たちの低い声のどよめきが起こった。隼人に学級委員長を押し付けておきながら、男子生徒たちの心ではドス黒い恨みと嘆きの声が渦巻いていた。
「カトリさん、本当に副委員長に立候補するのですね?」
少し不安そうな声で響子先生はカトリに確認した。
「ハイ、私は副委員長になりたいのです。何か問題がありますか?」
留学生のカトリがいきなり学級委員になることには、正直なところ少なからずの不安が響子先生にはあった。
「先生は私たちに先ほど自分の決定には責任を持つように、お話しされました。カトリさんは自分で立候補したのだから、その気持ちを大切にすべきだと思います」
東条志織が響子先生の気持ちを見透かしたかのように発言した。響子先生の顔には苦虫をかみつぶした表情がちょっとだけ表に出てしまった。
「では、副委員長にはカトリさんの立候補がありましたが、他に立候補される方や適任の人を推薦される方はいますか?」
クラスを見回して響子先生は生徒たちに確認をした。
「いないようですので、カトリさんが副委員長になることに賛成の人は手を上げてください」
クラスの過半数を占める女子が全員手を上げたので、男子が手を上げなくてもカトリの副委員長は決定した。
「それでは、赤城隼人さんとカトリーナ クラインさんに
「先生、この決定方法には手続き上の問題点があります」




