説得は納得か損得か
廃ホテルの外に出ると、入るときより少しあたりが暗くなっていた。
「やっと外へ出てこれたぜ。外で待っているはずの他のみんなはどこにいるんだ?」
暗い建物の中を懐中電灯だけを頼りに走って来た隼人だったが、息を切らすこともなく直ちに周囲を見回し始めた。
「暗くて危ない建物の中であんなに走り回らせておいて、赤城は私のことに何の心配もしてくれないの?! それどころか外に出てきたらすぐに他のみんなのことを捜し始めるなんて! もう失礼しちゃうわね!」
肩で息をしながら本気で怒っているエマに対して隼人は謝ることもなく言い放った。
「そんなことよりもっと大事なことがあるんだ! そんなワガママを言ってないで、早くみんなを捜してくれ!」
「そんなワガママですって~っ!」
「戻って来るなり大声でケンカを始めて、いったいどうしたんだ?!」
騒ぎに驚いて、外で順番を待っていた剛介がカトリと一緒に駆け寄って来た。
「真っ暗な中、無理やり手を引っ張って走って私に怖い思いをさせておいて、赤城ったら謝るどころかト~ッテモ酷いことを言うのよ! さっきはあんなことをしてきたくせに!」
「二人していったいどんなことをしてきたの?」
勘ぐるような顔つきでカトリがエマのことをのぞき込んだので、エマは避けるようにカトリからの視線を外した。
「いや、建物の中でチョットしたトラブルがあってな…」
「チョットしたトラブル?!」
さらりとカトリに答える隼人に対してエマは詰め寄ろうとする。
そんなエマにおかまいなく隼人は時計を見ながら、なかなか志織と陽二がやってこないことに気がついた。
「そう言えば、東条と福本が来ないな… あの二人はどうしたんだ?」
「ハヤトたちがいない間に、シオリがフクモトクンとちょっと気分転換してくる、って言って出かけて行ったのよ」
まだ疑い深そうな表情をしているカトリが返答した。
「陽二がビビッていたから、志織は福本の気分を入れ変えさせに行ったんだ」
剛介の補足に対して隼人は更に質問をした。
「二人はどこへ行ったんだ?」
「たしか海の見える方に行くってシオリは言ってたわ…」
「そうか…」
隼人はしばらく考え込んでから、手招きでカトリを呼ぼうとした。
「カトリ、ちょっと話があるんだ… こっちへ来てくれないか?」
「オイ、待てよ! 今カトリは俺と組んでいるんだろ!」
隼人の肩に後ろから剛介が手をかけた。
「大切な話なんだ。すまないがちょっとカトリを貸してくれ」
「わざわざ二人きりでとは人前ではできない話なのか? それなら余計に無理だな!」
後ろから隼人の肩をつかんだ剛介の右手の握力が、いっそう強くなった。
「話が済んだらすぐにカトリは返してやる。だから少し大人しく待ってろ」
隼人はとても低い声で剛介に迫ると、左手で剛介の腕の急所のツボを信じられないような力でつかんだ。剛介の顔は余りの痛みにゆがんでいた。
“こんなに恐い顔した赤城を見たことない… まるでいつもと完全に違う別人…”
隼人の身体中から発散されている邪魔者を許さない気迫がエマには見えるように思えた。
「ハヤト、何しているの! 手を放しなさい!」
カトリは隼人の腕にしがみついて、隼人の手を剛介から離させようとした。
「うるさいぞ、カトリ! お前の方こそ俺から手を離せ!」
隼人は右手を大きく振ってカトリの手を振り払おうとしたが、その時に隼人の顔がガラ空きになるのをカトリは見逃さなかった。
パシンッ!
カトリの左手が隼人のホホを打った音が響いた。
「ハヤト、やり過ぎよ。こんなことするなんて、本当にあなたはハヤトなの?」
カトリの一喝で隼人は憑つきものが落ちた様だった。隼人が剛介の腕を放した途端、剛介は左手で右腕を何度もさすっていた。
「大事な話があるんだ。頼むからカトリと話をさせてくれ」
隼人が剛介とエマの方を見て頭を下げて訴えかけると、二人は目くばせをしあってから黙ってうなずいた。
「ありがとう二人とも。さあ、カトリもコッチへ来てくれないか」




