もう目印どころじゃ…
まだ自分の話を続けたそうなエマだったが、改まった隼人の口調に耳を傾けてくれた。
「オレ、実はカトリとのことについて悩みがあってさ…」
隼人はエマの目を真っ直ぐ見つめて、エマの手をとって話かけた。
「エマに女の子としての意見を聞かせてくれないか?」
突然のことにエマは戸惑ったが、頼ってくる隼人に他意を感じなかったので、そのままその話を聞いた。
《女は人からの相談、特に恋愛の相談には真剣に乗ってくれる。自分に関係のない恋なら特に親身になってくれるもんなんだよ》
「どんな話なの?」
エマの顔つきは今までとは違う真面目なものに変わった。
《ほら、いったとおりだろ》
“チ、チョット、待った!”
「オレ、カトリと一緒にいると引け目を感じることがあるんだ…」
《ハヤト》は内に思いを秘めるような表情になる。
「アイツさ、何ごとにも本気だし、人の嫌がることを進んでやって、頭もいいし…」
「彼女それを自慢しないでしょ? かなりスゴイ人よね。確かに自分のことと比べると、全然かなわないと思うわね」
隼人の言葉に合わせてエマはうなずく。
「もしかするとオレはカトリのことに好意を持っているんじゃないかと思う…」
“オ、オイ! か、勝手になんてことを!”
《ハヤト》は隼人のことを相手にせずに言葉を続ける。
「それで?」
「だけどオレなんかと彼女は釣り合わないんじゃないかとも思っているんだ…」
「でも、カトリが赤城のことをどう思っているかは別の話でしょ」
自信なさそうな様子をした《ハヤト》にエマはキッパリと言い放つ。
「オレの理想の男とカトリの気持ちとは別の話ってことか…」
「そうよ、カトリは完璧かもしれないけど、それは相手に完璧を求めている訳じゃないのよ」
「完璧を相手に求めていない?」
「そう、カトリには完璧なことは特別なことではなくて、自然なことだと思っているはずよ、きっと。赤城に完璧なことを求めないし、あなたと自分を比べようなんてそもそも考えもしてない。だから」
「だから?」
エマは柔らかく手を握ってくる隼人の視線を受け止めつつ話を続ける。
「だから、まず赤城はカトリと自分を比べちゃいけない。そして自分でカトリの気持ちを決めつけないで、彼女に自分の思いを伝えることをしないと始まらないわ」
「オレとカトリを比べちゃいけないんだ… オレの思いをカトリに伝えるのか…」
“そうだとしてもハードル高過ぎだよオレには… やっぱりカトリはすごい人過ぎる…”
「もし完璧な人としかつき合わないならカトリはこれまで赤城と一緒にいる訳じゃないの。後はどうすべきか自分で考えなさいよ、赤城」
「どうするべきか考えろって… もったいぶらないで、答えを教えてくれよ」
隼人は真剣な顔つきになって、いつしかエマの手を握る力が強くなっていた。
「正解を全部覚えるとは違うのよ。正解を自分で考えて生み出すことが大切なの」
エマは隼人の手を優しくほどいた。
「そうか、わかったよエマ。自分で考えてみるよ。悩みを聞いてくれてありがとう」
“ありがとうエマ、親身なってくれて。これからの参考にするよ…”
隼人はエマの目を見つめたが、エマは少し照れてしまった。
「ところで、目印を置く場所は見つかったの?」
「ちょうどいい物と場所があったんだ。そこに置いてくるから待っていてくれよ」
隼人は入口からほぼ一直線の奥の方の部屋の中央に壁際に置いてあるテーブルを持って来ようとした。その時、暗闇の中で目立たないようにビニールシートにくるまれて置かれた細い鉄パイプの束を蹴ってしまった。
「イテッ!」
「大丈夫、赤城?」
「大丈夫だ。テーブルを動かす時に硬いものを蹴っただけさ」
部屋の真ん中にテーブルを置いて、そこに目立つようにキーホルダーを置いた。
「もうちょっとだけ待ってくれないか? みんながケガしないようにするから」
暗闇の中にある足元の障害物を動かそうとして、隼人はビニールシートを引っ張った。
重量物が包まれていたのでシートだけがずれ動き、鉄パイプについている突起物が隼人の手に当たって引っかき傷をつけた。
「あぶねーな、何が入っているんだ?」
隼人が懐中電灯で照らしてみると、あのバベルのヤツらの突撃銃、AK-47の銃身がスーパーの特売の長ネギのように束ねられていた。どうやら突き出たフロントサイトに手をぶつけたようだった。隼人は元どおりになるようシートを目立てないように包み直してた。
そして急に切迫した口調になってエマに大声をかけた。
「おい、エマ、すぐにみんなのところへ戻るぞ!」
「急にあわて始めてどうしたのよ?」
訳の分からないまま怒鳴られて釈然としないエマの腕を引いて、隼人は来た道を急ぎ足で戻って行った。




