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魔道具師全体の課題一つ目・クリア

「領主様、末のお坊ちゃんも良い子に育ったなや」


 話を聞いていたトバがカカカと笑いながらギィへと言葉をかける。


「ああ、良い息子に育ってくれたよ」


 目の前で褒められると背中がむず痒い思いをする気持ちは、前世も今世も変わらない、とサイは思いながら聞いてないフリをしておく。恥ずかしくてどんな表情をすればいいのか分からないから。そんなサイの気持ちを分かっているかのように、ドンと背中を叩いてきたのはダン。痛い、と背中を撫でながら振り向けばニヤニヤした顔をされたので、ムゥと唇を尖らせる。ルーノがそんなサイを見て笑いながら髪の毛がぐちゃぐちゃになるほど頭を撫で繰り回す。


「子ども扱いすんな」


 サイが不服だと申し立てれば、ダンとルーノが口を揃えて「「子どもだし」」と言う。更に悔しくて唇を尖らせるサイを見て、ギィが目を細めた。


「本当に子どもらしい表情をするなぁ。いつもだと貴族の子息として恥ずかしくないように、と畏って大人びた言葉遣いや仕草だったが、こうして見るとまだまだ子どもだ。母さまが貴族出身だからといって、そんなに畏まる必要も無いんだぞ。我が家も貴族らしくないのは知っての通りだしな。ローゼリアだってサイの子どもらしい姿を見るのは嫌がらないはずだ」


 穏やかに父親らしくギィが言い聞かせるが、サイは少し考えてから応える。


「別に無理をしているわけじゃなくて。それが必要なことだと思うから貴族らしい振る舞いを覚えているだけです。家族のためだけど、自分のためでもある。それだけです」


 ギィはそうか、と頷く。思えばサイは第三子であることからローゼリア自身が乳母の手を借りれば、子育てに戸惑わなくなった。ギィ自身も息子が三人で、三番目だからあまり気にかけることも無かった。結果、サイの話をきちんと聞く機会が少なくなっていたかもしれない、と自省する。手をかけられることがあまり無かったからなのか、サイは大人びた子になってしまったのかもしれない。


「もう少し、サイに時間を割く必要があったな」


「え、要らないです。成人までには貴族のマナーや勉強を一通り終えて、でも成人したら平民として魔道具師の道に進んで、ルーノさんの弟子にしてもらいますから」


 ギィが感慨深そうに言うので、サイがあっさりと否定する。サラリと自分の師匠まで決めたサイに、ギョッとしたのはルーノだった。


「な、なんだと? 弟子? 弟子は取らないぞ」


 ルーノが慌てふためくのでサイが冷静に言う。


「ルーノさんの弟子入りを断られたら、誰かに弟子入りしますが、今なら核が相場より若干安く手に入りますよ」


 ルーノは冷静さを取り戻す。

 確かにサイを弟子として取れば、これだけ質の良い核を相場より少し安くしてくれる可能性はある。実際のところ核の不足はルーノだけではなく魔道具師全体の課題。

 そして。

 魔術師の中には魔道具師を見下す者もいる。だが、魔道具師の作る魔道具のおかげで、魔術師が魔術を使用するときに楽になることもある。魔道具が魔術の補助に役立つことも多々ある。

 その魔道具に核は必須。

 ということで魔術師にとっても核の不足は課題であり、魔道具師ほどではなくても、悩みの一つ。


「相場より、安くなる、のか?」


「父さまの裁量次第ですけど」


 確約はしないが、安くなる可能性はあるよ、とサイが匂わせる。ルーノとダンがギィを見れば、元平民の貴族だと嘲笑されてこようと一貴族として、領主としてそれなりに場数をこなして来ているギィは、笑みを浮かべるだけでなんの反応も示さない。

 悩みに悩んだ末にルーノは「分かった」と弟子入りを認めた。

 弟子なんて興味が無かったルーノだが、核が相場より安く手に入る、ということを天秤にかければ、答えは自明の理。ただ上手く誘導されたような気持ちもあるので。


「実は商人の方が向いているんじゃないか。相手の弱点を正確に突きながら自分に有利に交渉するなんて」


 と嫌味ったらしく言った。


「そんなに非常識なことは言ってません。核は魔道具師全体の課題みたいだし、我が家の領地にこんなにたくさんの核が生えてる。その上、我が領地の核は、量も質も良い。だったらそれを武器に交渉することはなにもおかしくないし、真っ当だと思ってます」


 すかさずサイにそんな反論をされてしまえば、ルーノは結局黙り込むしかなく。大人しく白旗をあげることにした。


「分かった分かった。俺の負けだ。全く、随分と賢い坊主だな」


 ボヤキながらもルーノはサイを弟子として認め、それから今度はきちんと交渉をする必要がある、とギィを見た。


「ホーク子爵、核について交渉しましょうか。国を交えて」


 さすがにこの量と質の核をダンとルーノとギィだけの裁量でどうにか出来るわけではない。国へ申告して国王陛下の裁可を仰がなくてはならないだろう。とはいえ、ルーノとてサイを弟子に取ると決めた以上、それなりに見返りはあるべきで。


「陛下に奏上すると共にルーノ殿に優先的に融通するか何か考えますよ」


 ギィもその辺りが落とし所とでも言うように肩を竦める。ある程度のことをここで話し合ったので戻ることとし、書面にてきちんとした契約を交わすこともルーノとダンと決め交わす。さすがに口約束だけでは信用しないのは、お互いさまであった。領主としてギィから国王へ奏上の申し入れをすると共に、どんなことについての奏上なのか記した上で謁見の申し入れをするのだから、大騒ぎになることは、サイもギィも分かっていた。


 来た道をやっぱりトバの案内で帰る。


 翌日、ギィは先ず国から遣わされている領主の補佐をしてくれている政務官にことの次第を話すことにするため、執務室に呼んだ。その場には、長男であり後継であるクヒルとそのスペアである次男のケヒそして元々森の調査を言い出したサイに、子爵夫人のローゼリアも呼ばれて立ち会っていた。


「ミルヒェンス殿、至急陛下に奏上したいことがございまして、謁見の申し入れを立てたいのですが、どのように書面をしたためれば良いのか分からないため、ご助言をお願いします」


 ミルヒェンスとギィに家名を呼ばれた国から遣わされた政務官は、ラオツァル・トレイシル・ミルヒェンスという貴族出身の男。侯爵家の三男で政務官として働くに辺り、実家の後ろ盾を得ていることと、王城に勤める政務官である以上、爵位必須なので一代限りの準男爵位を持つ。彼は、仕事も出来れば性格も穏やかで人との衝突など無く、円滑に物事を進めるのも上手い。人の話をきちんと聞いて助言も経験から来る言葉なので重みが違う。文書の文字も綺麗で数字が合わないということも無い。間違いがあったら素直に謝り訂正も早い。


 そんな男だが、ホーク子爵領主の補佐として派遣されてしまった。ギィもローゼリアも息子たち三人も、こんなところの補佐官なんて貧乏くじ引かされてしまって申し訳ないなぁ、と思っている。これだけスペックが高いのならホーク子爵領主の補佐官の地位などではなく、出世コース真っしぐらのはずなのだ。大臣クラスの補佐官辺りに居てもおかしくないのだが、なぜか此処に居る。


 その理由は、勤務時間外の仕事を一切やらないからである。


 仕事ができる男だが、王城勤めのときは、出勤時刻の一分前まで部署の自席に着席しておらず、退勤時刻の一分後には部署の自席から退席する。前世日本人のサイからすると信じられない行動だがこちらでは問題視されない。通常なら。

 但し、それはあくまでも理想であって、予定外の訪問客やらスケジュールには無いイレギュラーな出来事も多々あって、超過勤務がそれなりにある。要するに残業である。サービス残業ではなく、きちんと手当は支給されるので超過勤務になってしまっても仕方ないと割り切る政務官が多い中で、ラオツァルは王城の政務官として採用されたときに言い放ったそうだ。


「超過勤務手当は要らないから超過勤務無しで」


 と。

 そういう者も偶には居るらしいので、またか、と政務官を採用した国側は思ったものの、仕事を始めると時間に追われて時間を気にしていられないので、気づいたら超過勤務。或いは繁忙期に自分一人で帰れないことが分かると自分も残るという心理が働いて超過勤務をしていることが多いから、ラオツァルもそうなるだろうと思って気にせずに採用した。


 結果として、本当に超過勤務を一切しないラオツァルに、不満続出の周囲が上へ猛抗議した。上としてはラオツァルに忠告は出来ない。採用時に超過勤務はしない、と言っているので。それでも採用したのは国側である以上、何も言えなくなり。そんなこんなでホーク子爵領主の補佐官として任命されてしまったのである。


 ギィはそんな経緯を知っても受け入れた。

 で。

 ラオツァルは意外にもホーク子爵領主の補佐官という仕事を楽しんでいるように見えているし、超過勤務はしないが、抑々そんなものが無いのでトラブルにもなりようが無かった。つまり、案外上手くやっていけていた。


 そんなラオツァルにギィは森の話をする。

 最初はニコニコと頷いているだけだったラオツァルは、核が大量にあると聞いて顔色を変えた。


「それは、ホーク子爵領の価値が一瞬にして跳ね上がります」


 ラオツァルは声を上擦らせて国王への謁見申し入れの手紙を書く指導をいきなり始めた。

 ギィがその指導によりこれで宜しいでしょう、と合格をもらうのはそれから三時間ほど後のこと。サイたち家族は執務室から退室するタイミングを失い、父が補佐官に厳しく指導されているのを目の当たりにして苦労という言葉の意味を体現しているギィのやつれっぷりに視線を逸らした。見ていられない、というヤツである。


 とはいえ、良く言えば熱血指導から漸く解放されたギィを後目に、明日にでも王城へ手紙を出せるように手配しておきますね、とラオツァルが上機嫌で言っているのを見て、きっと謁見の日程調整は早いうちに叶うだろうな、とサイは思う。


 何しろ、仕事が出来る補佐官が上機嫌なのだから。


 ということは、魔道具師全体の課題一つ目がクリアしたのと同義。直ぐにでも魔道具師と魔術師に話が伝わるだろう。


 さて、じゃあ次だ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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