魔道具師全体の課題二つ目、無くなったので
「そういえば、ルーノさんが魔道具師全体の課題の二つ目に上げていた、魔道具を動かす核そのものの魔力が少ないということ。というのは」
ギィのやつれ具合と正反対な上機嫌のラオツァルが王城へ謁見の申し入れの手紙を出す手配を終えて。
ふと、サイは思い出す。魔道具師全体の課題として核そのものの魔力が少ないと言っていたことに。本日は家庭教師のエーリッヒに教えられながら勉強をしていたところ。休憩時間になって不意に思い出した。
そして呟いていた。
「どうしましたか、サイ君」
家庭教師という立場上、貴族家を訪れるため、それなりに深入りしないことを求められる。それでも職務中知り得てしまったその家の秘密は、守秘義務として取り扱う。また、深入りしないように立ち回るにしても、結果的に深入りするような形になってしまった場合も、守秘義務として取り扱う。
「ブランティス先生、すみません、少し気になることが。後で確認してみますので大丈夫です」
「そうですか。勉強で分からないことでしたらお尋ねください。違うことでしたら忘れます」
サイが勉強では無い、と言えば、エーリッヒは頷きそれ以上は何も言わなかった。
こういうところが、エーリッヒが信用されていくつもの家から家庭教師依頼が届くのである。エーリッヒは妻子がいるので、いくつもの家から依頼が入る方が当然良い。家庭教師としての仕事にも誇りを持っている。とはいえ、仕事だからと全てを割り切れるものでは無いことも確か。表面上は割り切っているだけで。
生徒の中には教える意欲を削がれる子もいる中で、クヒル・ケヒ・サイの子爵三人兄弟は学ぶ意欲が大きいので、エーリッヒも教え甲斐があった。
それに元平民と貴族たちから言われることをそれぞれが卑屈にならず、かと言って疎かにすることもなくきちんと学ぶ。だからこそエーリッヒとしては個人的に肩入れをしたい、と思う。
とはいえ、勉強以外のことに踏み込むのは家庭教師の仕事の範疇外。それでも相談されれば助言くらいは出来るとは思うがそれにも限度はある。よって、勉強以外のことであれば、相談されない限りは忘れることがエーリッヒの出来る最善だった。
「ブランティス先生、本日もありがとうございました。次もまた楽しみにしています」
「はい、私も学ぶ意欲のあるサイ君を教えるのは楽しいですよ。また次に」
頭を下げてエーリッヒを見送るサイと母のローゼリア。隣に立つ母に、ラオツァルに尋ねたいことがあるのだけれど時間が取れそうか執事経由で尋ねてもらうことを打ち明け、ついでに母に仕事を増やすのは申し訳ないが、その際にお茶とお菓子を用意しておいてもらいたいとお願いしておく。超過勤務はしない、と言い切るラオツァルである。当然休憩時間もきちんと確保する人なので、お茶とお菓子を提供しながら質問しようとサイは考えた。
「ああ、ミルヒェンス様は、超過勤務もしなければ休憩時間に入ったら仕事は一切しないものね。その邪魔をしてしまうなら、確かにお茶とお菓子くらいは必要ね。わかりました」
サイのお願いにローゼリアも納得したように頷き、侍女を通じ執事経由でラオツァルに時間をもらうことを頼み、お茶とお菓子の準備も命じた。
***
「それで、私に尋ねたいこととはなんでしょう」
ちょっと不機嫌はラオツァル。休憩時間を奪われたから。ただ、お茶が準備されていることで幾分か機嫌を治める。オトナゲナイと思われようとも、仕事は仕事。休憩は休憩。大事なこと。その休憩時間は好きなように過ごしたいのも当然の権利だから、子ども相手とはいえ休憩時間を奪われた、と感じてしまう。
サイはラオツァルがそこまで考えているとは知らないが、不機嫌そうな顔なのは申し訳ないな、とちょっとだけ肩を竦めつつ、それでも気になることを放置しておきたくなかったので。話を切り出した。
「ミルヒェンス様、お時間をありがとうございます。尋ねたいことは一つ。ルーノさんが仰ってました。魔道具師全体の課題の一つには、核そのものに宿る魔力が少ない、と。魔術師の魔力や自然の魔力を使用するにしても、核そのものに宿る魔力が少ないと、使える魔術に限りがある、と。そこで気になるのは、我がホーク子爵領で見つかった核です。ミルヒェンス様は、父さまから話を聞いただけで、その価値に気づかれたので、それならばホーク子爵領で見つかった核の魔力量にも推察が及ぶのではないか、と」
サイがズバリ切り込むと、ラオツァルは、ああそれか、と頷く。
「推察出来ますが、実際に品質を確認しなければ、確定出来ないから断言出来ません」
香り高い茶葉を胸一杯に吸い込んで、一口喉を潤した後でラオツァルが答えた。
答えてから、この末っ子君は、大人びた賢い子だとギィが頬を緩ませて話していたなぁ、と思い出した。なるほど確かに七歳にしては、話し方や考え方が大人びている。ただの親バカかと思っていたが、これは納得出来るな、と内心で頷いた。
「それでも構いません。可能性は」
やっぱりこの方、魔術師や魔道具師でも無いのに、話を聞いただけでそんなことまで推察出来るなんてすごい人なんだ、とサイは思いながら促す。
「それでしたら。他国から輸入されている核の倍くらいには魔力量があるでしょう」
あっさりと口にした。
ホーク子爵領で見つかった核を実際見ていないラオツァル。
だというのに、それでも話を聞いた上だと、それくらいだろうという予測がついた。
「それはつまり」
「魔道具師全体で悩む核そのものの魔力量が少ないという問題は、解決でしょうね。もちろん、予測であって実際の品質を確認してからになるでしょうが。核でも核じゃなくても、魔力量を測るのは教会側が持つ魔力量測定器が必要です。サイ君も知っての通り、あの魔道具はあまり大きくないので、今回見つかった核。その一つのサイズが本当に大きいのであれば、あの魔道具で丸ごと魔力量を測るのは、難しい。魔力量測定器で測れるくらいのサイズにしてから測定し、全体の大きさから推測して数値を大まかに出すでしょうけれど。それでもおそらく、輸入している核よりも内臓している魔力量は多いと思われます」
明言は出来ないけれど、と前置きしつつラオツァルは見解を述べた。
「ありがとうございます。その見解をお聞きしたかったのです。ミルヒェンス様、休憩時間をお邪魔してすみませんでした。お菓子は好きなだけどうぞ」
普段なら前世の記憶があるといえども、七歳のサイにとって、お菓子は外せないのだけれど、今はそんなことを言っている場合ではないので。
魔道具師全体の課題の二つ目がクリア出来るのであれば、最後の課題について考えられるから。
つまり三つ目。魔術師が核に魔術を施してくれないということ、というやつだ。
コレこそ難問だろうなぁ、とサイは思う。何しろ魔術師、特に貴族出身の魔術師はエリート意識が高い。なので、魔道具師に対しては落ちこぼれ連中、という認識が強い。サイのように自ら魔道具師の道を進みたいと思う者が少なく、魔術師になれなかった者が仕方なく選ぶ道、という考え方が浸透している。
そしてその考え方は、魔道具師たちにも根付いているので、落ちこぼれだと揶揄してくるような魔術師たちに頭を下げてまで魔術を施してもらいたくない、と考える魔道具師もいるのではないか、とサイは予想している。
さて、どうしたものか。
その辺りのことは後々師匠となる予定のルーノと、あまり頼りたくないものの、まだマシであるダンと話し合って考えていくしかないのかもしれない、とサイは仕方なく、本当に仕方なく、ダンへこの件について話したい、と手紙を出した。
程なくしてルーノと話し合って日程を決めて、追って連絡するという返信がきた。
まぁライナージンスと顔を合わせるより遥かにマシだ、と自分を納得させておく。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




