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魔道具師全体の課題一つ目・①

「うーん。核ってどこで入手出来るのですか」


 魔道具師・ルーノの話にサイが困惑する。

 サイの中で、魔道具に使用される核というのは、前世で言うところの水晶だと思っている。水晶は記憶がうろ覚えだが鉱山に出来る自然の物だった気がする。こちらもそうではないのだろうか。


「核は日の光が届かない森に生えてるらしいが、ウルフェ国内では見たことが無いな。他国から買い付けるだけだが、それも制限があるからなぁ」


 ルーノの話に核って生える物なのか、と目を瞬く。それって植物みたいな感じということか。サイの前世の記憶にある水晶とはやっぱり別物なのだろうか。見た目は水晶そのものなんだけどな、とサイは思いつつ我が国原産の核は見たことが無く他国からの輸入と聞いて、なるほど、容易にいかないものだな、と息を吐く。最初から難関らしい。


「ん?」


 溜め息を吐いて難関だなぁ、と思っていたサイは、ふと気づいて声を上げる。


「なんだい、坊主」


 打ち解けたからなのか、ルーノに坊主呼びされるサイは、そこはスルーしてもう一度尋ねる。


「ルーノさん、今、核って日の光が届かない森に生えるって言いましたよね?」


「うん? ああ、そうだ。核を買い付けてくれる商人が他国で見たことがあるらしいが、日の光が届かない暗いところに核がキラキラと輝いているんだと。近くで見ると生えてるって聞いたな」


 つまり核は自ら発光する物体らしい。ヒカリゴケとか光るキノコ的な感じか? 前世でそんなテレビを見た気がするが、詳しくないので同一視して良いのかも分からないが。兎に角暗闇で光る、ということは分かった。そして、ウルフェ国では見たことが無いというが。抑々、我が国は日の光が届かないほど鬱蒼とした森なんて、一箇所しか無い。


 その一箇所とは、もちろん。


 森を開拓したくても領民から反対され、強行突破しようものなら領民からコテンパンに報復されてしまう土地。だから領民たちに重税を課して自分たちのことしか考えなかった領主にブチ切れた先祖が領主を討ち果たして王家に申告したら、他の貴族が絶対治めたくない、とそっぽを向いて王家も後釜を据えようにも選出すら出来なかったため、領主を討ち果たしたんだからその後もなんとかしろ、とばかりに王家から押し付けられたホーク子爵領の領地である。


 つまり。

 当主はギィ・リーヴァで、サイの父。


「あのー、ルーノさん、俺の領地って知ってます?」


 どう切り出せばいいか分からないので、取り敢えずサイはモゴモゴと切り出す。


「知っているも何も、どんな貴族家当主や嫡男も、爵位が貰えると分かっているのに次男も三男も絶対手を出したくない、割に合わない領地って言われているホーク子爵領だな」


 ルーノは言葉を飾ることもなく身も蓋もない発言をしたが、まぁそういうことである。


「そうなんですよね。で、なんで割に合わないかって言えば」


「そりゃあの森だろ。開拓したくても領民から大反対される」


 サイが言い掛けると合いの手のように即答するルーノ。うん、そうそう。そこまで言っても気づいてもらえないのか。


「そう。森です。あの森、日の光が届かないくらい鬱蒼と生い茂った森だと聞き及んでます。森に入ったことは無いから父の話ですけどね」


「あー、あの森は凄いからなぁ。遠くから見ただけでも分かるくらい生い茂ってるな」


 サイが具体的なことを言っているのに、ルーノはのんびりウンウンと頷いていて、全くピンと来ていないようだ。


「いや、ルーノ、なんでそこまで言ってて気づいてないんだよ」


 ずっと黙って聞いていたダンが呆れ顔で突っ込む。突っ込まれても不思議そうにダンを見るだけのルーノに、ダンどころかサイまで、えっ、本当に分かってないの? と心中で突っ込んだ。


「ルーノさん、あの、日の光が届かないくらい鬱蒼と生い茂った森。見てないから分からないけど、核が生えてる可能性があるって思わない?」


 サイが直球でぶっ込んでみると、ルーノはポカンと口を大きく開けた。こんなマンガかアニメみたいな、如何にも驚いた、という表情を浮かべる人を多分前世でも見たことが無いだろうな、と思う。

 それにしても本当にそんな発想が無かったようで、五分ほどそんな状態で固まっているので、ダンが隣でこづいた。


「ルーノ、驚き過ぎ。戻って来い」


 ダンにこづかれ呆れ口調で声を掛けられてようやく我に返るルーノ。


「あ、いや、すまん。あの森に核が生えてる可能性なんて全く考えたことも無かった。あの森は開拓出来ないって聞いてたし、サイ君も名前で気づいているだろうが、俺は貴族出身なんだが、俺の父が言うには何にも無い森だろうって。だから開拓も出来ないんじゃ税収は見込めないとも聞いてたし。何も無い森だと思い込んでいた。でもそうか。確かに核が生えるのに適した条件だ。誰も確認していないなら確認してみるのはアリだな」


 ルーノは、うん、と自分を納得させるように頷いて改めてサイに打診した。


「どうだろう、子爵様に森の中に入る許可を得られないだろうか」


 サイは元よりそのつもりであったし、どうせなら今この場で決まる方がいいだろう、と控えていた使用人に頼んでギィを呼んでもらう。


「領地の見回りに出てないから直ぐに話し合えると思います」


 ギィを待つ間にサイが言えば、ルーノは元貴族というだけあって、冷めてしまったお茶に手を付ける仕草が、指先まで「見られている」ことを分かっているかのように優雅だ。


「お茶、冷めてしまって」


 淹れ直してもらいます、とサイが最後まで口にする前に、ルーノが片手でヒラヒラと断って来る。


「冷めるまで手を付けなかった此方の落ち度。美味しく飲める適温で出してくれたのに、口を付けずにいて此方こそ悪いことをしたよ。だから気にしないでくれていい。それに、冷めても飲めるから勿体ない」


 気さくな言い方ではあるが、仕草で気づいた。ルーノは元貴族でも上位の出身だろう、と。貴族としてマナーを勉強している身だ。作法に苦労しているからこそ、指先まで見られていることを分かっている仕草というのは、相当叩き込まれないと出来ないはず。それも無意識でそのレベルというのは、現在七歳のサイよりも小さい頃から教えられてきたと思われる。

 でも冷めた紅茶を冷めても飲めるから、と言い切れるところは、多分平民生活も長いから出てきた言葉なのだろうなと予測がつく。


 魔道具師は魔術師のようにエリート意識が無いし、収入も魔術師と比べてしまえばかなり低いから、貴族時代の感覚で生活しようとすると、金銭面での苦労が大きい。実家から支援してもらえるかどうかは当主次第。早いうちに貴族時代の生活から平民生活へ意識を改革しないと後々苦労する。

 ルーノはどうなのか分からないが、平民生活をある程度続けてきたから、節約思考で冷めても飲める、という考え方が身についたようにサイには思えた。


 ドアのノック音が聞こえてギィが入室してくる。


「サイ、呼んでいると聞いてきたが」


 何かトラブルでもあったのか? と言外に尋ねる父の顔は心配しているようで、なんの説明も無しに使用人に呼ばせたのは良くなかったな、と反省する。

 使用人は控えていて話は聞いていただろうが、こちらが何も言わない限り、見たことや聞いたことを無かったことにするのが使用人というものだ、とサイは貴族教育で学んだ。学んでいたのだから、使用人に父を呼ぶにあたってある程度、内容を話しておく方が良かったな、と思い至る。

 そうすれば父がこんなに心配することは無かったのに。


「いえ、父さま。問題があったわけでは有りません。少々お願いがありまして」


 ギィを安心させるように笑いながら、自分の隣に座るよう促す。サイがニコリと笑うのでギィも早とちりであったことに気づいて、ダンとルーノに挨拶をしていなかったことを思い出したように、改めてきちんと挨拶を交わす。そして、サイの隣に腰を下ろしてお願いとやらを聞く姿勢に入った。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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