爆速大型魔道具製作・2
掃除機のイメージはあっさりと伝わって、ルーノとダンが協力して試作品を作った。以前聞いたように古代魔道具全集にあった物だから、作りやすかったらしい。本に掲載されていても、正直なところ必要性が分からずに作られていなかったが、家具の隙間やベッドの下など、平民が掃除する際には後回しにしがちな部分を掃除出来る、というサイの具体的なイメージで試作品が作りやすかった、と。それって作りやすいというより、なんでその魔道具が必要なのかって作る側が納得しないと作らないってことなんじゃ……。サイは思うが口にはしなかった。言っても詮無きこと、というやつである。
まぁ魔道具師という職業があるように、魔道具を作って完成した! という達成感だけじゃなく、商品として売れるのかという気持ちもあるのかもしれない。だから売れる、と判断出来た物は作って売ったが、売れるかどうか分からない物は作る気も無かった、のだろう、多分。
サイとしては、前世掃除機が無いことは大変だったな、と思っていたので(壊れて買い替えるまでの間は埃を放置していた)洗濯機と冷蔵庫があるのに、掃除機が無いこちらの世界が本当によく分からなかった。ただ、貴族出身の魔道具師や魔術師は、使用人が掃除するし、平民出身の者は隅々まで掃除をする、という考えがなかったから、という話であれば、そりゃあ掃除機を作ろうとは思わないよね、と納得出来た。
「隅々まで埃が取れるって言って、魔道具師長が王城で披露したら掃除担当のメイドが凄い喜んでた」
とは、ルーノの談。
ダンと二人でサイの元を訪れて掃除機を製作し、試作品を披露したことによる感想を教えてくれた。王城のメイドが歓喜した魔道具という売り込みで、平民に売りに出すらしい。間違っていないはずなのに、なんだか詐欺師のような胡散臭いキャッチコピーなのは、なぜなのか。いや、言うまい。きっとそんなつもりは無いのだろうから。
「まぁ売り上げのお金はサイ君にもいくらか支払われると思うから、お小遣いとして考えといて」
「ちょっとダンさん、なんで私にお金が支払われるんですか」
続くダンの言葉にサイは目を剥いた。
「サイ君の発案だからねー。サイ君が古代魔道具全集の魔道具案を、自分の案としていたのなら話は変わって来るけど。君はあの本が実在するとは思っていなかったし、実在したって簡単に見られる代物じゃないからね。違うでしょ。だったら君の発案。発案料ってやつだよ」
ダンの説明に、なるほど。アイディア料か、と納得した。あれだ。創意工夫した何かを作れなくても、こんな物があったらいいなぁ的な、デザイン料のようなアイディア料のような、ということか。古代魔道具全集を見ていたら、っていうのは多分、それを見ていたのに恰も自分のアイディアみたいな形だったら、問題有りだったということか。剽窃という形になっていたかも、なのだろうが、前世の記憶が元だしなぁ。狡いと言えば狡いような気もするが、まぁいいか。
「元々そういう魔道具が、古代には存在したわけですから、そんな大袈裟なものでは無いと思いますけど、有り難くお小遣いにします」
ここは断らずに、素直に有り難いと言っておく方がいいか、とダンとルーノに笑顔で礼を言う。二人共、ウンウンと頷いてから、じゃあ本題とばかりに、ゴミ処理問題を解決する魔道具の話へ移った。
「例えばなんですけど。今は王都の片隅だったり、領地の片隅だったりに穴を開けて、そこへポイっと投げ捨てているわけじゃないですか。その穴に箱を詰めるのはどうですか?」
サイが言いたいのは、穴を埋めるように箱型魔道具を作り、その箱の中にゴミを捨てるという形である。だがダンもルーノも想像が付かないようで、首を傾げる。
「穴に箱を詰める? なんでだ?」
ルーノの問いに、サイは紙で箱を作ってみることにした。
「この箱を穴の中に入れて、箱の上はゴミを捨てるときだけ開けるように魔術を組み込む、というのはどうでしょうか」
自動ドアの感覚で、箱の上部だけ自動で開閉する仕組みにして、ゴミを捨てたら自動で開き、ゴミを捨て終えたら自動で閉まるようにしておく。
「なるほど。それならゴミを捨てるときだけの開閉だから、常にゴミの臭いに悩まされることは無い」
ダンが、へぇ、と感心したように感想を述べる。
「それだけだと穴に蓋をすれば良いだけなので、箱にする必要は無いですけど。その箱の中でゴミを燃やすことが出来る魔術が組み込まれていたら、捨てたゴミは箱の中で灰になってますよね。ほら、暖炉を付けると薪が燃え尽きたら灰になるみたいに」
サイが穴に蓋をするだけではなく、箱の中にゴミを捨てたら燃やす、という方法を伝える。具体例は暖炉で、ダンとルーノは「ああ、なるほど。ああいう形でゴミを燃やすのか」感心した。暖炉のよう、と示してみたら想像し易かったらしい。
「あとは、土の中で燃やせるのか分からないし、燃やすとなると箱がよっぽども頑丈じゃないと、箱自体が燃えそうだなって思うから、もう一つの案として。ゴミを箱の中に入れたら、刃物で細かく砕くのはどうですか。包丁で食べ物を小さく切るような、というか。ああそうだ。採掘現場で働く人が、持っている道具で石を砕いていますよね。ああいう感じでゴミを細かく砕く。それなら火に強い箱より楽な気がします」
サイは刃物系でゴミを粉砕するつもりで言ったが、採掘現場と言ったからか、ダンとルーノは金槌で打ち砕くようなイメージを持ったらしい。包丁で食べ物を切るのと、採掘現場で石を砕くことが一致しないようで、首を捻った。
「包丁で食べ物を切るのと、採掘現場で石を砕くのが似ているということが分からない」
ルーノが採掘現場での使用道具は、包丁ではないだろう、と続ける。そこでサイは、金槌というかツルハシ的な物を使っているイメージで、ダンとルーノが聞いていることに気づいた。確かにツルハシを使う方が採掘現場っぽいな、とサイも納得する。
そこで、包丁を使って食べ物を細かく細かくするイメージで、ゴミを小さく小さく切っていく、というイメージを伝えた。今度は通じたらしく、二人はフンフンと頷いた。
「試作品は両方作ってみるが、魔術を組み込んだ魔道具を作るのなら、燃やす方が楽だな。刃物で細かくするというのは、風を使う魔術を刃物に組み込んで、細かくする形になるだろうが、風音具や録声具みたいにあまり大きくない魔道具なら兎も角、ゴミを処理する魔道具は大きな物になるからなぁ。風を扱う魔術師って、火を扱える魔術師より少ないから、大型魔道具製作には向かないんだよな」
魔術を扱うのにも向き不向きがある、とサイは聞いていたので、それは仕方ないのか、と頷く。冷蔵庫じゃなくて冷水箱や、洗濯機じゃなくて洗浄箱の魔道具は水を扱える魔術師が関わっている。そして、それに比例するかのように、水を扱える魔術師は一番多い。尚、一番少ないのは土を扱える魔術師とのこと。
「でも、ゴミを捨てる穴を開けたのは、土の魔術師じゃないんですか?」
「そうだが、穴は大きくても魔術そのものは簡単だからな。魔力量は消費しただろうけど」
サイの疑問にダンが答える。穴を開けるだけなのだから、ということらしい。言われてみればその通りだし、何十年も前から少しずつ大きくなったゴミ捨て用の穴だから、魔術師が少なくても問題無かった、と言われてしまえば納得しかない。土を使った魔道具が無いわけでは無いが、どちらかと言うと、昔からある魔道具を修理するような形が多いので、土を扱える魔術師が少なくても問題無かったとか。
「でも、坊主の発案だと箱を穴に埋める形だから、ある程度の土の魔術を扱える魔術師が必要になるかな」
ルーノがダンに話せば、ダンも心得たように頷いた。その辺りは、魔術師たちに話を通しておく、ということらしい。
何しろ、国王陛下が至急で魔道具製作を命じたわけだし、それには魔導師長にも釘を刺すかの如く、必要あらば魔術師たちは率先して魔道具製作に携わるように命じたとも聞いている。それで、ダンから協力するように言われて断ったら、国王陛下から睨まれる可能性が高くなる、と考えたら、嫌々でも協力することになるだろう。
魔道具師たちの方は、サイの録声具の件で、有能な未来の魔道具師、という印象を持ったようで、今回の大型ゴミ処理魔道具製作に、かなり乗り気らしい。ルーノから協力は惜しまない、と魔道具師長の言葉をもらっている、と言われた上に、早く大人になって魔道具師になって欲しい、とまで言っていたそう。
まだ七歳なのだが、どうやらかなり期待されてしまっているなぁ、とサイは苦笑した。
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