魔道具師(見習い)になりました。
最終話です。
先ず小さな試作品を作ってみることになった。
小さい物なので土の魔術師は一人。ダンと同じく平民出身の魔術師。
でも貴族出身の魔術師たちに相当嫌味を言われたり蔑ろにされたり、という経験が有ったからか、魔道具師のルーノが貴族出身であることに敵意を持ち、現在のところ貴族の身分であるサイにも嫌悪を表しているような魔術師だった。
「本当にこんなクソガキがそんな魔道具を発案したのかよ。お坊ちゃん、嘘は良くねぇぞ! 親から仕込まれたんじゃネェのか」
せせら笑いで鼻を鳴らす土の魔術師。でも、ダン曰く土の魔術の扱いには長けているとのことだったので、サイはその辺りをスルーした。
「ちょっ、おい、何を無視してんだ!」
見事に一瞥をしただけで、スンと無表情になったサイに、彼の方が目の色を変える。すっかりやさぐれていた彼は、貴族というだけで敵意を持っているが、蔑ろにされる経験もあるにも関わらず、無視には耐えられないらしい。一体何がしたいのか。
「貴族というだけで敵意を持つのは構いませんし、私を子どもだと見縊るのも問題有りません。魔道具の発案者が実は親じゃないのか? という疑問も至極当然だろうとは思います。で、あれば、実際に魔道具を作りながら私を見てもらうしかないでしょう。一々、親は口出ししていません、などと反論する時間が無駄ですから」
サイは、こういう手合いって、理路整然に意見を言うと黙るんだよなぁ。なんて、前世でも一々突っかかってきたタイプを思い出し、その際に会得した対応で相手に示すと、やっぱり黙り込んだ。
その隙にサイがダンとルーノに、どちらの形で魔道具を作るのか、と話を進めていく。
「燃やす方だな。火の魔術師も後から合流するが、先ずは小さな穴を開けて、そこに箱型魔道具をどう埋め込むか、ってところまでが、今日の予定」
ルーノが魔道具師の観点から、と答えた。
「分かりました。ちなみに核は?」
「今日は別に魔道具を作るわけじゃないからな。箱を穴に埋める際の注意点や改善点を考えるだけ」
ルーノの返事にサイは首を捻る。土の魔術師をチラリと見て尋ねた。
「穴を開けて箱を埋めるだけですが、時間はどれくらいかかりますか」
サイの質問に不機嫌丸出しで答えないので、ダンが突っつく。
「そんなに時間は掛からねぇよ! 一時間もいらねぇな!」
ヤケクソのように吠えた答えに、サイはダンに視線を向ける。
「そういえば、今さらな質問ですけど、ダンさんは何の魔術が一番扱えるんですか?」
「本当に今さらだな……。一番は風。火も扱えないわけじゃない。土は無理。水は少しなら」
「もしかして、結構、優秀だったりします?」
ダンの答えにサイは目を丸くした。意外にも扱える魔術が多いらしい。
「もしかして、じゃなくて! 俺は優秀なの! 古語を教えてくれた人が上手かったっつーのもあるけど、俺だってそれなりに魔力量は多いし、属性の相性がバランスいいって言われたの! 魔術の覚えも早かったの! だから弟子をとってもいいって言われたの! そんで君を勧誘してたの! 忘れた?」
サイが、ダンを見直すような発言をした途端に、ダンは子どものように地団駄を踏みながら、そんなことを言う。どうやらプライドを傷つけていたらしい。サイは素直に、凄い魔術師だったんですね、と褒めておいた。どっちが子どもか分からないやり取り。
それをルーノがブッと吹き出して笑い、土の魔術師は呆然と見ていた。
「まぁ話を戻しますねー。それじゃ、別に火の魔術師さんが居なくても大丈夫じゃないんですか?」
ちょっとプライドを傷つけられたダンだが、さらりとサイに流されて諦めた。こんな態度を七歳の子に取られて不貞腐れていたら、大人の自分が形無し。
「まぁ試作品を作るくらいなら俺でも大丈夫だろうけど、実際には大型だし、数もそれなりに必要だし。そうなるとやっぱり火の魔術師の方がいい」
「あー、なるほど。それじゃ、土の魔術師さんが言うには、箱を土に埋めるくらいは大したことがないそうですし、核も山ほどどころか国が破産するくらいの量が有りますし、ダンさんが火の魔術を扱えるらしいですし。試作品作って実際に埋めてみて、起動させるまでやってみませんか?」
サイが笑顔で言うが、言っていることは鬼畜である。既存の魔道具の修理じゃない。全く未知の魔道具を試作品とはいえ、作って動かしてみましょうよ。と言っているのである。出来上がりの時間も未知なら動くかどうかだって未知な魔道具。それを朝メシ前でしょうってくらい気楽に口にしているが、何日も掛かるとは思ってないのか。
「実際に何日掛かると思ってるんだ……」
さすがにダンが呻く。
「何日でも別に。国王陛下の直筆で頑張って作れって命じられているのですから」
ダンの呻き声にサイが明るく返事をする。
「中々に鬼畜な発言だって分かって言ってるのか、坊主」
ルーノも天を仰いで酷い発言だ、と突き付けるが、それにも「もちろんです」と笑って答える。
「もしや、クソガキ。お前、ヤケクソか?」
土の魔術師すら、無謀な発言のサイを胡乱気に見るが、サイはにっこりと口元だけで笑みの形を作って。
「ヤケクソというより、どうせなら見返したいだけです」
見返したい、というサイの言葉に三人が目を瞬かせる。
「ずうっと人の話を聞かない人に苛立ってました。元平民元平民って五月蝿いし。両親と兄さんたちを嘲笑っているのも業腹だし。そこまでこっちを下に見るくせして、魔術師が足りないから弟子になれって、お前みたいなのを師匠に思うわけ無いだろって思うし。生活に密着した魔道具から、魔術師の補助とした魔道具まで幅広い魔道具にお前だって世話になってるだろって苛立つし。魔道具師は魔術師が魔術を使わないと魔道具が作れないから、自分より下とかあからさまだし。こっちの夢を否定しておいて、だから弟子になれって阿呆かお前って思うし。貴族主義とか何言ってんの。平民の生活を守るのが貴族だろ。平民を下に見るのが貴族なのかよって言いたかったけど、言っても聞く耳を持ってないだろうし。そういう奴は、こっちが上の立場に立たないと、聞く気にならない。だから、ずうっと気にしないようにしてましたけど、ようやくこっちの言い分を叩きつけられそうなので」
サイはツラツラツラツラと文句を垂れ流し、一旦言葉を区切ってから思いっきり吐き出した。
「この魔道具製作を成功させて、お前の弟子にならんでも金持ちになったし、陛下の覚え目出度いから、仕事にも困ることは無くなった! まで、言いたい」
ダンもルーノも土の魔術師も、サイの鬱憤が溜まりに溜まっていたことを知る。
「あー、ライナージンスかぁ。俺も相当君に執拗い真似したけど、アイツの勧誘のやり方で、弟子が取れるわけがないね」
ダンは遠い目をしつつ、サイの怒りを目の当たりにして、自分の過去の行いを申し訳なく思う。だが、それ以上にライナージンスの発言が、サイは嫌だったんだなぁ、なんて理解した。いや、何度か聞いていたけれど、大人の対応を取るサイだったから、これほどまでだとは思っていなかった。
「なるほど。確かに、ライナージンスは常に人を見下している。自分が嫌々でも認められる何かが無いと話を聞かないな」
土の魔術師は、サイがライナージンスとダンに、魔術師勧誘をされていたことは知っていたが、まさか勧誘時まで人を見下すような勧誘をしていたとは思っていなかった。七歳の子どもが怒りを溜め込むくらい、酷いものだったと知って、サイへの態度を軟化させる。
「クソガキ、悪かった。気持ちは分かる。よし、何日掛かっても構わん。付き合う。アイツを見返すぞ」
ガシガシとサイの頭を撫で繰り回す辺り、ダンやルーノと感性が似てるようだ。なるほど、彼をこの新しい魔道具製作に引っ張り込んだ理由が、サイは分かった。ルーノもサイの頭を撫で繰り回して、ニッと悪い笑みを浮かべる。どうやらやる気になったらしい。
そんなわけで、前世で言うところのゴミ処理焼却場の試作品製作が始まった。
結論から言えば、試作品に掛かった時間、いや、日数は丸三日。試運転は二日。改善点を話し合い、改良するのに丸二日。その後の試運転が、また二日。成功を実感したのは、十日後のことだった。その間、気絶したように眠りながら、サイの家の使用人が食事を運んで来たのを飲み込むように腹に納めて、である。
「箱そのものの耐熱性と耐火性も核に魔術を組み込めば、意外とイケるのは大発見だったな」
ルーノが新しいおもちゃもとい、魔道具の試作品が完成したことによりハイテンションで、鼻歌交じりの評価を下す。
「それも、クソガキが箱自体に土の魔術を組み込んだ核を使えないか、なんて突拍子もない思いつきを口にして出来たモンだけどなー」
ルーノの発言を受けて、土の魔術師がサイの頭を撫で繰り回す。この十日間で、その荒々しい歓迎方法にすっかり慣れたサイは、サッと頭を避けて被害を最小に止めた。
「箱そのものは、木箱ですけど、木だって燃えるのでそれなら土で補強出来ないかなって思っただけです。家の壁って煉瓦でしょ。でも煉瓦の箱は作り難いだろうから、木箱に土で補強して、箱が燃えないようにすれば、穴の中に箱を入れてそこにゴミを入れて蓋して燃やしても、箱は燃えないかなって思っただけ。煉瓦をヒントにして考えただけです。っていうか、なんでそんな発想が無いんですか」
サイが大人三人を等分に見れば、揃いも揃って視線を逸らし、誤魔化すように咳払いをしてから。
「いや、こんなガキが新しい魔道具を発案したって聞いた時は嘘だろって思ってたけど、子どもらしい柔軟な発想力が結びついたのかもな」
土の魔術師が再びサイの頭を撫で繰り回そうとしたので、今度は撫でられないうちに避けて、サイはわざとらしく大きな溜め息を吐き出した。
「そういうことにしといてあげます。取り敢えず、その試作品持って行って、陛下に報告してください。そんで、王都や各領地に設置出来るように魔道具製作、頑張ってください」
もう後はサイが出来ることはない。
そう思って三人に擲ったのだが、三人は顔を見合わせてサイの両脇を抱えて、その父親であるギィの元へ乗り込んだ。
ギィは仕事中で、三人はなんのアポイントも取ってないのだから、乗り込む、という表現に間違いは、ない。ギィとラオツァルが目を丸くして、引き摺られているサイと大人三人を交互に見て、ラオツァルが話を促す。試作品が完成したこと、サイが発案だけじゃなく、きちんと関わっている以上、王都というか国王陛下の元に連れて行くしかないことを伝えると、ギィがラオツァルを見た。
こういう時の判断は、やはり王城で政務官を務めていたラオツァルの方が良いと思ってである。
「試作品出来たんですか! どんな感じの物なのか私も気になりますし、サイ君の年齢からすると、彼だけじゃなく、当主であるギィ殿と補佐である私も行くことになりますね。ギィ殿、ローゼリア様に後を頼んで王城へ行く支度をして下さいね」
ラオツァルが満面の笑みで、みんなで行きますよ、と指示を出した。
どうやら今回は完全に、サイの王城行きは逃れられないようで、そんな面倒くさいことはしたくない、とゴネてみたが、ラオツァルの笑顔の圧に屈するしか無かった。
そんなわけで。売られていく子牛が如く無理やり馬車に乗せられ、王都への旅路はまぁ見たことない景色やら美味しい食べ物に釣られて機嫌を直し、でも王城が見えた途端に、馬車から降りたくない。と散々ゴネたサイは、意外と怪力だったラオツァルに引き摺り下ろされなんだかんだで謁見室にいた。
「いやぁ、サイ君のことを大人びた子だと思い込んでいたけど、ここまで梃子摺る辺り、やっぱり子どもでなんだか安心したよ」
とは、ラオツァルの言。
国王陛下に会うなんて怖いから嫌だ、とまで言ったサイのことを子どもっぽいな、と安心したらしい。だって面倒くさいから。本音を飲み込んだサイは、それでもラオツァルが王都への旅路の間に、謁見時間は短くしてください、とお願いしてくれたことも知っているので、もうここまで来たのだから、と俎板の鯉の気持ちで、謁見室へ足を踏み入れた。
人生初の、というか、まぁ普通に生きていたら会う機会など無かったはずの、というか。その国王陛下に遠くから拝謁し、ラオツァルが奏上して、ゴミ処理焼却場の試作品(小)を見せ、動かし、陛下と宰相が実用化出来ることを確認し、採用されるまで、あっという間だった。
いや、実際には結構な時間は掛かったけれど、あまりにも緊張していたので、経過した時間が短く感じられた、が、正解である。
サイは、国王陛下から褒美は何が良い、と尋ねられて、欲しい物など何も無いのに、何か言わなきゃいけない、とだけ思い込んだ結果。
「今すぐ魔道具師になりたいです!」
と叫んだ。
後から振り返れば、既に魔道具師への道筋はついていたというのに、周囲から反対されているわけでもないのに、何を言っているのか、というヤツだが、まぁ緊張していれば得てして、予想外な事や発言をしてしまうものである。
「成人年齢を迎えない限り、仕事にしてやることは出来ないが、そんなにも魔道具師になりたい、と情熱があることは認め、特例だが、直ちに魔道具師見習いとして仕事することを認めよう。成人した暁には、見習いではなく魔道具師として働くが良い」
国王陛下は、それを褒美とする、と宣言。これにより、サイは成人年齢より遥かに早く、魔道具師見習いとして、ルーノの弟子として働くことが許された。
ただし、成人までは貴族の身分ゆえに、必要最低限の勉強は行うように、と釘も刺されたが。
「じゃ、改めてよろしくな、坊主」
謁見室からいつの間にか出て、今日は王都に泊まるということで、宿に到着したところで、ルーノが改めてサイの弟子入りを認めた。ギィやラオツァル、ダンと土の魔術師もサイの宣言に苦笑し、ルーノとのやり取りを見守っている。ギィは思いがけず、末っ子が早々と自分の手元から出て行くことになってしまった寂しさもあるが、親として何も言うまい、と黙る。
「な、なんか、すみません。ルーノさん。焦って叫んでしまいました。でも、魔術師にはなりません。魔道具師になれそうで安心しました」
その笑顔は、子どもらしい溌剌とした無邪気なものだった。
(了)
お読みいただきまして、ありがとうございました。
本作はこれにて完結です。
ただ、個人的には十歳から十二・三歳くらいに成長したサイを脇役にして(主役じゃないんです。脇役です)物語を書けたら良いなぁ……とは思ってます。(いつ書くのかは不明ですが)
本作書いている最中に、それくらいに成長したサイが登場する物語を思い付いたもので。
ただ、コメディ作品【八歳で死ぬと予言されたそうで】も続編書きたいとは思っているんですよね。ですのでちょっと何とも言えませんが……。ご興味がありましたらその際はよしなに。
次回作はファンタジーでもコメディでも無い予定です。ヒューマンドラマ系か恋愛系(多分)




