爆速大型魔道具製作・1
ホーク子爵領に、核の回収に来た魔導師を含めた魔術師たち。その中にはダンもだが、当然ライナージンスも居る。ライナージンスは、自分が一年もの時間を割いてやったはずの元平民の領地に、まさか核という莫大な資金源になるお宝が眠っていたとは思わず、現実を見せられた途端に、その場でひっくり返った。つまりホーク子爵領の森の中で泡を吹いてぶっ倒れたのである。
尚、他にも同じようにひっくり返った魔術師が三人に魔導師が一人居て、つまり、ホーク子爵領の森に生えている核という存在が、それだけ衝撃を物語る良い例であった。
「知らないだろうから教えとく。ひっくり返った魔術師と魔導師。みんな貴族出身なんだ。アイツら、ホーク子爵領の領地の半分が森で、収入源が少ないことを密かに笑ってた連中。ところがその森にお宝が眠ってたって知って、アレ」
ニヤニヤしつつ、ダンがサイに教える。ダンもずっと平民出身だからと煮え湯を飲まされてきただけに、いい気味だと思っているようで、聞かされたサイは苦笑いしておくだけに留めた。
「でもまぁ、ホーク子爵家へ向ける目も変わるだろうが、何より魔道具師たちが歓喜するよな。この核の質と量じゃ。なんか俺も最近知ったんだけどさ。貴族出身の魔術師たちって、魔道具師のことを魔術師になれなかった落ちこぼれって思ってただけじゃなくて。核は輸入しないと手に入らない。でも核が無いと魔道具は作れない。ってことから、魔術を使えない落ちこぼれ集団の癖に金食い虫だ、とも言っていたヤツも多かったらしい。泡吹いてひっくり返ってるヤツも多分、そんなことを言ってたんじゃないか? 金食い虫だし魔術も使えない落ちこぼれ共の為に、魔術を使ってやるのが気に食わないって思っていたから、魔道具製作に協力しないヤツらが多かったみたいだ。これからは金食い虫なんて言われなくて済むって、魔道具師の中には喜んでいる人たち、多かったよ」
ダンがニヤニヤした顔から真面目な顔つきになったと思ったら、そんな話を始めた。
あー、世界が変わってもエリート意識丸出しで、出来ないやつを貶めるタイプの人って居るんだなぁ。などとサイは思う。世界が変わろうがそういった人間の本質的な部分は変わらないのか。そんなのが人間の本質というのも嫌だけどなぁ。などとも思うが、何も言わないで神妙な面持ちでいたら。
「おっと、悪い。サイ君は大人びてるがまだ七歳。こんな見苦しい大人の話を聞かされても嫌だよな。これから君が出会う人の中に、そういうヤツが居ないことを祈っておくよ」
サイが黙っていることに何かを感じたのか、ダンはポンと肩を叩いた。サイは「いるいる、そういうエリート意識のヤツ」と同意するのも面倒だったから、何も言わなかっただけだが、ダンは大人の醜い部分を教えてしまった、と慌てたように、サイにはそんな人間が現れないといいな、と取り繕うように笑った。
「魔道具師さんたちはそんな人たちじゃないだろうから、気にしませんよ」
ダンの気不味さを感じ取ったサイは、やっぱりオトナの対応で話を終わらせた。
「こっちが気を遣われてしまったな。その気遣いに乗っかるとして、それじゃ、君と仕事の話をしようか」
ぶっ倒れた魔術師たちも意識を取り戻し、核をある程度回収した魔導師・魔術師。サイのことが気になるようでチラチラと見つつ、ダンと話しているところに割り込んで来ないのは、サイだけではなく、その父のギィと魔導師長を冷ややかな笑顔で見つめるラオツァルが居るからか。
二人は魔導師・魔術師たちをサイと共に核が生えてる森の奥まで案内して来たが、案内はするが無駄話は一切しない、と無言の圧を滲ませていた。
貴族主義で鼻っ柱の高いライナージンスでさえ、不機嫌極まり無いけれども黙っていたことから分かるように、二人の圧は異様だった。ライナージンスとしては嫌味たっぷりにサイへ絡む予定だったのだろうが、ギィとラオツァルの圧に負けて黙るしか無かったため、不満たっぷりだっただろう。
まぁそれも、核の圧倒的な質と量に度肝を抜かれてひっくり返るまでのことだっただろうが。
公爵家に生まれ、自分は常に頭を下げられる立場だった男である。傲慢だがそれが許されるだけの魔術師としての実力も有った。だからまぁサイから見ると、ライナージンスの自信の高さはエベレスト山を超えていただろうな、と察していた。
それが、仕事仲間である魔術師たち、それも一方的にライバル視したり見下したりしていた、平民出身の魔術師たちが居る前での泡を吹いてひっくり返る、という醜態は、ライナージンスのエベレスト山より高いプライドを粉々にしたようで。意識を取り戻したときから、一切サイには近づくことはしていない。どころか、肩身が狭いのか人からの視線を避けるように俯いてもいる。
いい気味だ、とは思わないが、まぁお灸を据えられたことにはなるのかな。などとサイは思って、ライナージンスの存在をスルーしておくことに決めた。
ライナージンスがそんな感じなのだから、他の魔術師たちがサイに近づかないのも無理はない。そんな自分の同僚たちを見て、ダンはかつてこんなに他人の目を気にして、己の振る舞いを省みるがごとく、大人しくしていたことがあるだろうか、としみじみ思う。
魔導師・魔術師という存在は基本的に魔術以外に興味が無い。興味が無いので他者の目を気にすることなく、非常識な振る舞いをすることも多々あった。それから思うと、ダンとサイの間に割って入って来ない。どころか、遠くから様子を見るだけに止めている現状は、前代未聞かもしれない。
「仕事の話、ですか?」
取り敢えず他の魔術師たちが近づいてこないので、サイはのんびりとダンに返事する。尚、核を引っこ抜いてある程度回収した魔術師たちと共に、父親とラオツァルが続くのを横目で見つつ、の状況。もちろんダンと二人で森から出ようと歩いているが、キビキビというより足の向くまま気の向くまま、の散歩の足取りだ。
「そう。国王陛下がゴミ処理問題の魔道具製作を正式に依頼したんだろ? ルーノが魔道具師長から聞かされたって。今回は、ルーノって魔術師たちが居るからさ、ホーク子爵領に足を運べない。だから、俺に君と仕事の話をして来てって託された」
「あー、その話」
仕事の話ってまだ七歳の自分に何を言い出す、と思ったら、それか。とサイは頷いた。国王陛下直筆の手紙で要請されているし、ギィも勉強より優先して構わない、と言われているし。サイとしても関われるのなら関わりたいとは思っている。というか、ガッツリ製作に携わりたい。でもなぁ、とサイは胸の内を溢す。
「私、魔術のこととか分からないし、魔道具は核が必要だということは分かっていますけど、実際にどんな風に核を役立たせるのか分からないし。仕事の話って言われても」
魔道具の設計図を描けとか言われても、そんなの無理。としか言えない。どのくらいの大きさの箱が必要だとかも分からないし、その箱をどうやって用意するのかも分からない。とサイが溢せば、かなり呆れたような表情でダンが言い切った。
「だから、俺とルーノが居るんだろ。俺は魔術師という仕事。ルーノは魔道具師という仕事をしているんだから、当然、設計図だの、どんな魔術が必要かだの、俺たちが考えるから。サイ君は、俺たちにどんな魔道具なのか、イメージを伝えてくれ。そのイメージを元に試作品をいくつか作るから。いきなりデカイ物を作るわけじゃなくて、小さい物を作って、サイ君のイメージと重ね合わせていくんだよ。そうしてイメージ通りの物が出来たら、今度はどれくらいの大きさが必要なのか、魔力量をどれだけ消費する魔術なのか、魔術師は何人必要か、魔道具師は何人必要かって考えていくのが俺たちの仕事。君がなんでもかんでも考えて、試行錯誤する必要はどこにもない。というか、全部君がやったら、俺とルーノの立場が無いだろ」
サイは、ダンの言葉に驚いて言葉を失った。
前世の記憶があるからか、仕事というものは自分でどうにかする必要があるもの、と考えていた。他人に助けを求めても、その手を振り払われてきたのが、前世のサイである。サイの人望の問題か、それとも助けを願う手を振り払っても、自分のことに必死な人たちばかりだったのか。それは、サイの前世の記憶が薄れている部分で覚えていない。
ただ、そんな記憶があることは分かっているから。助けてください、と手を伸ばすことはするものじゃない、と思い込んでいたのは確かで。
だからあっさりと、自分たちが居るだろう、とダンに言われて、ようやく自分で何から何までやらなくてはいけない、と考えていた自分に気づいた。
確かにその通りである。
分からないことばかりなのだから、その道のプロに助けてもらえばいいし、お任せするのが良い。
その当たり前を指摘されて、サイはうん、と一つ頷いた。
「そうですね。それじゃあ、私が考えている魔道具の案を詳しく話すので、聞いてください」
「おう。分からない部分は何度も聞くが、魔道具や魔術に関しては任せとけ」
そんなわけで、先ずは掃除機から作り始めることに決めた。
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