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やっぱり国が絡むらしい・②

 そんなわけで、お褒めの言葉を手紙でもらうことになったサイの元に、その手紙が届いたのは、三日後のことだった。えっ、早くない?


「早くないですか?」


 本日はお休みのラオツァルなので、その手紙をサイに渡したのはギィである。ついでに、母のローゼリアと兄のクヒルとケヒも父の執務室に居るのは、実はサイが凄いことをやってのけたらしい、と聞いて、その結果として国王陛下のお手紙が届いたことを知って、この場に立ち会っている。


「早いな。ミルヒェンス殿も予想外かもしれん。彼はお手紙が届くのは、多分一週間後くらいだろう、と予測していたからな。それでも国王陛下の直筆の手紙が届くなんて、凄いと思うし、忙しい国王陛下が一週間ほどで出して来るなんて、余程の事態ですよ。と言っていたが。……その予想より遥かに早い。私も驚いているんだ」


 父・ギィが眉間に皺を寄せて深刻そうな表情を浮かべているのは、どうやらこんなに早く届くとは思っていなかったから、らしい。


「もしかして、お褒めの言葉じゃなくて、お叱りの言葉とか?」


 とは、ちょっとお調子者な次男のケヒである。


「お前、我が家だからいいけど、他所でそんな不敬なことを言うなよ? 揚げ足取られて潰されるぞ」


 長男のクヒルがすかさず咎める。クヒルもケヒが本気で言っているとは思っていないが、釘を刺しておかないと、外でやらかして罪に問われることになってしまうのは勘弁して欲しい、というところである。


「はいはい、分かった分かった。取り敢えずサイ、封を開けてみたら?」


 兄にお叱りを受けて、聞き流したケヒは誤魔化すようにサイに声を掛ける。

 戯れ合う(じゃれあう)二人を見ながら、うん、と頷いてペーパーナイフで封を開けた。


「ホーク子爵領領主ギィの三男サイ」


 サイは読み始める。そこには、魔術師が数少ない現状を憂えた国や、現在魔術師として活躍している者たちの気持ちを汲み取ったような魔道具を発案したことを率直に褒めて遣わす、と書かれてある。魔術師や弟子が取れる魔導師だけでなく、国としても憂えていた現状だったこと。古語がきちんと継承されていない可能性を考えたことも無かった由。それ故に魔術が発動出来ない者が多かったかもしれない過去。魔力量が少ないから魔術師になれないと決めつけるのではなく、魔力を貯める魔道具を、という発案したことも褒めて遣わす、とも書かれてあった。


「どうやら国王陛下自身、魔術師が少ない現状をなんとかしたい、とお考えになられていたようですね。それも前国王陛下もお考えだったようで、喫緊では無いけれど無視も出来ない問題だったようです」


 手紙を読み進めていくと、そのような陛下の心情が書き連ねてあった。多分、本当はこういう心情を書くことなんてしないのだと思うけれど、サイの発案は本当に有り難いものなのだ、と示すように書いているような気がする。


「まぁそうだろうなぁ。元平民、元平民、と我が家のことを見下す割に、あの貴族出身の魔術師は、何度もサイを勧誘しに訪れていたし。見栄やライバル視している相手への敵愾心(てきがいしん)もあっただろうが、魔術師の人数が少ないことは、焦燥でもあったようだしな」


 ギィがライナージンスの名前を出すことなく、少し前まで一年も続いた魔術師勧誘の件を口にする。それはダンも同じことをしていたし、ダンをライバル視していたからだろう、と思っていたけれども。なるほど焦燥感もあったのか。

 その後の日々が怒涛のようだったので、すっかり忘れていたなぁ。まぁ会いたい相手では無いし、忘れていても良いのだろう。


「つまり、それだけ魔術師が少ないことを懸念していた、と。それも国王陛下も憂えていた。だから、あの程度の発案でこんなご大層なお手紙が届いてしまうんですね」


 サイは、謙遜なのか皮肉なのか判明しづらい言葉を呟く。


「サイも中々に不敬だな」


 呟きを拾ったクヒルが溜め息を吐き出しつつ、首を左右に振ってヤレヤレと言った。


「とはいえ、国王陛下直筆の手紙を頂戴するような凄いことをやってのけた弟は、兄として鼻が高いぞ。折角だから、この手紙は家宝として代々受け継いでいこう」


 ヤレヤレと言いつつも誇らしげに笑うクヒルは、手紙を家宝にする、と意気込んでいる。


「いや、さすがに家宝は言い過ぎですよ、兄さん」


 サイは長兄の代々受け継いでいく発言に顔を引き攣らせる。確かに国王陛下直筆の手紙は、凄いと言いたい気持ちは分かる。アレだ。日本人が天皇陛下からお手紙を頂戴した、というようなものだし。そりゃ凄いと誇りたくなるのは分かるけれど、それを代々受け継いでいくというのは、ちょっと行き過ぎのような気がしてならない。どちらかと言えば、自分が死んだときに一緒に墓に入れといて、という気分である。興奮状態のクヒルの言葉を聞き流すことにして、サイはまだ続いていた手紙へ再度目を通した。


「あー……。あーあーあー」


 読み終えて、あー、しか言わないサイに、ギィもローゼリアもクヒルとケヒもギョッとする。


「ど、どうしたのです? サイ。何かありましたか」


 ローゼリアが心配してサイの肩を撫でる。急にあーしか言わないのだから、壊れたか、と焦ったのかもしれない。


「あ、いえ、大丈夫です。母さま、気にしないでください。国王陛下からの手紙は、褒め言葉だけでは無かった、というだけのことです」


 サイは、はぁ、と大きく溜め息を吐いた。

 まさか、エーリッヒ経由でそのお父上が陛下に奏上しているとは思わなかったのだ。所謂掃除機を作ろうかなって発言を。序でに言えば、ゴミ処理焼却場についても奏上していたらしい。


「あら、どういうこと?」


 ローゼリアに尋ねられて、サイは飛ばしていた意識を戻す。


「ダンさんと、ブランティス先生とこの前話していたんですが。ゴミを自分たちの手で拾うのではなく、魔道具を作って魔道具に拾ってもらう。という話をしたのです。ベッド下の埃とか、食器棚の裏の隙間とかの埃とか。一々動かして掃除するのが大変でしょう? 貴族は使用人がやりますけど、平民は自分たちでやるから家具を動かすのは大変だろうな、と思いまして」


 サイが簡単に説明するが、ローゼリアはまぁ、と声を上げたまま絶句する。


「母さま?」


 そんな母の様子に首を傾げるサイ。


「サイ、あなた、なんて凄い発想をするのかしら! 私も結婚してから、使用人たちの掃除の様子を見ていて大変だろうことに気づいたのよ! 手でゴミを拾うのは大変そうよ! 使用人だって協力していて大変そうなのだから、平民はもっと大変だろうなって私も思っていたのよ。素晴らしいわ、サイ! その大変さを魔道具で何とか出来ると言うのね?」


 結婚前は気づいたことも無かった、と言うが、結婚したことによって家政を取り仕切るのが夫人の役目だから、という理由があるのだろう。

 なにより抑々の話だが、伯爵家の令嬢として生まれたローゼリアは、多くの使用人に囲われて過ごしてきたに違いないのに対し、ギィと結婚後は最低限の人数の使用人しか子爵家は居ないと思われる。王城の図書室勤務であっから、掃除はやっぱり王城の使用人だっただろうし。だから気づかなくても仕方ないというか、当然というか。


「冷水箱や洗浄箱があるので掃除も楽になる魔道具が出来そうだなぁ、と思っただけですよ」


 というか、本当になんで冷蔵庫と洗濯機があって掃除機が無いのか意味分からん。まぁ必要に思えないから作ろうとしなかっただけなんだろう。


「そうなのね。でも、そういう魔道具が作れるかもしれないって発想が凄いのよ! 七歳なのに奥方目線の魔道具を考えつくなんて、天才かしら!」


「天才は言い過ぎです、母さま」


 こちらも妙に興奮して来たので、サイはローゼリアにスパッと突っ込んでおく。天才でもなんでもない。強いて言うなら前世の記憶である。


「それで、陛下はその掃除を楽にする魔道具のことについて書かれていたのか?」


 常に冷静な妻が興奮状態であるのを見て、ギィが話を強引に戻す。


「あ、ええとそうです。それとゴミを回収して一括で捨てる場所の事についても」


 ギィに尋ねられサイは肯定しつつ、ゴミを回収した後の廃棄場所についても話す。悪臭がするのでどうにかならないか、とその周辺で問題になっているらしいこと。家庭教師であるエーリッヒの父がその問題についての担当者であること。何気なく、穴に捨てるのではなく、魔道具でゴミを燃やす箱でも作って、その箱の中でゴミを燃やせば穴は不要になりそうだ、と話してしまったこと。その話をエーリッヒが父親に伝え、そこから国王陛下の耳に入ったのではないか、ということなどをギィに話す。


 話を聞くうちにギィの目の色が変わった。


「ローゼリア! 我が子は天才だぞ!」


 サイの話が終わった途端にギィが叫ぶ。ローゼリアも「ええ、本当に!」とこちらも興奮状態だ。クヒルとケヒの兄二人も「弟が天才だ!」と騒ぎ立てているのだから、執務室は混沌と化した。


「ちょっとみんな、落ち着いてくださいっ」


 サイが大声を上げて四人を落ち着かせる。


「いや、これが落ち着いていられるか! その問題は王都だけじゃない! どこの領地でも片隅に穴を開けてそこに捨てている。だが周辺は臭いが凄くて問題になっているんだぞ! それを魔道具でどうにか出来るかもしれない、と言われたら、発案だけで大したものだと言えるっ」


 ギィがサイ以上の大声で、興奮している意味を伝える。

 あー、ゴミ悪臭問題って国全体の課題だったのか。サイは納得しかない。


「取り敢えず、我がホーク子爵領には、有り難いことに大量の核が生えてるので、失敗しても大丈夫だろう、と国王陛下からのお手紙に書いてありまして。その問題解決に向けた魔道具を作るように、と御命令がありました」


 この手紙に書いてありますよ、と示せば、その魔道具製作を最優先で行うように、とギィも言う。勉強は嫌いでは無いけれど、貴族家の領地名に領主名に領地の特産品などを暗記問題よろしく、詰め込む勉強よりは、魔道具製作の方が遥かにやり甲斐があるので、サイは喜んでギィに承諾の言葉を告げた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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