やっぱり国が絡むらしい・①
「えっ、と、父さま、ミルヒェンスさん、もう一度、言ってもらってもいいでしょうか?」
ルーノが録音機を製作して試作品が成功を収めたことで、売れる、と判断したルーノがサイの前から嵐のように立ち去った日から十二日目の朝。朝食を終えた後で執務室に呼び出されたサイは、ギィとラオツァルが異口同音で放った言葉を聞き間違いか、と尋ね返していた。
「だからな」
ギィが重々しい口調で切り出し
「あの録声具は、国が買い上げましてね」
ラオツァルが楽しそうに笑顔を浮かべて
「「発案がサイ(君)ということで、国王陛下が表彰をする、と通達されたのだ(のです)」」
うん、聞き間違いじゃなかったらしい。そして、なんだかオオゴトな気がするのは気のせいか。いや、気のせい、気のせい、と魂飛ばしている場合じゃなかった。このまま流されるのは良くない。
「聞き間違いじゃなかったみたいです。先ず確認ですが、あの声を録音した魔道具は、録声具って名前なんですね?」
録音機の魔道具の名前、録声具って言うのか。ネーミングセンス……。いや、でもサイ自身が名付けてと言われても似たようなセンスになっただろうから、そこはトヤカク言うまい。そしてあの録声具は国が買い上げたのか。
いや、オオゴトだなぁ、やっぱり。なぜだ。
「そう。録声具と言うそうですよ。なんでも古代魔道具全集にあった魔道具を改良したとか。あの本、実在するんですねぇ」
ラオツァルが楽しそうな声音で録声具という名前に決定した、と認める。というか、ラオツァルは魔術師でも魔道具師でも無いのに、あの本、なんて言う。知っているのか。
「ミルヒェンスさん、ご存知なんですか?」
「古書マニア垂涎の代物ですよ。私自身は古書マニアでは有りませんが、高位貴族は往々にして道楽者も出易いものです。まぁそれで家を傾けるのは言語道断ですが、道楽者の知識はかなり目を瞠るものがありますからね。着道楽・食い道楽・古物道楽・宝石道楽・本道楽……。様々に居ますけれど、そういった所謂マニア同士が集まると自分のテリトリー以外の話も耳にします。私は、そういった場に赴いて情報を仕入れるのが大好きでして。そういった場でよく出る名前なんですよ、あの本」
何気なく軽く聞いたら、なんだかラオツァルの闇の部分に抵触したような気持ちになったサイ。いや、高位貴族の闇部分か? 金があると道楽に走るのは、世界が変わっても同じらしいことを知る。
元々高位貴族って地位があるわけだし。ヘマをしてないなら富はあるわけだし。ほんでもって、王国は国王陛下が頂点だけど、身分制度なんだから貴族と平民だと当然貴族が上。つまり権力もあるわけだし。ということで、最終的に何が欲しくなるかっていうと名声が欲しくなるっていうのは、世界が変わっても変わらないらしい。道楽者って結局のところ、その道を極めようとするから、その道に詳しい者は誰か? って話題で自分の名前が出て来たら、それはある意味名声だもんね。えー、人間の欲深い性質なんだろうか。
そんなことをサイは思いつつ、神妙な顔を作って
「表彰って王城まで行くんですよね? 面倒臭いし緊張する、じゃなくて、子どもなので遠慮したい、というのは可能ですか?」
ギィとラオツァルの顔を交互に見ながら、本音ダダ漏れで断りたい、と伝えた。
「あはははは。サイ君、面白いな! 国王陛下から表彰されるよって言ってるのに、それを名誉と捉えず、面倒臭いとか。君、ただ大人びただけの子だと思っていたけど、大物になるよ!」
ギィが返答するより先にラオツァルが大笑いする。そんなラオツァルを見ながらギィも苦笑して、サイの返事に「それでいいのか」と問いかけた。
「だって、私は子爵家の三男坊だし。それこそライナージンスっていう魔術師みたいに、王城へ行ったら元平民って見下す人が多そうだし。そういう人ほど、自分は仕事が出来るとか、身分が良いことを鼻にかけて偉ぶるとか、そんな気がするし。そんな人たちに会う可能性があるなんて、すごく面倒くさいなって思うじゃないですか」
もう、本音が先にダダ漏れてしまっている以上、取り繕っても仕方ない、とサイは思っていることをぶち撒ける。一応、前世、小学校のときに何かのコンクールで入賞したか何かで、全体集会で表彰された記憶が朧気にある。そのときに、大勢の人の視線を集めたことが気持ちいい! と思ってなくて、見られていることに恐縮した気持ちを覚えた。それは、記憶なのか魂に刻まれているのか、そんな感じのようで。
自分の中で訴えている。
面倒くさいし、緊張するし、人の視線を集めるのは居た堪れないぞ、自分!
と。
自分の内なる声を無視する気は無い。
ということで。
「まぁ気持ちは分かるな。父さまもサイのように思ってしまう。うん、我が子で間違いないな」
そんなことで親子の血を確認しなくても、父親そっくりの顔である。安心していい。
「じゃあ、取り敢えず、今回の件はお褒めの言葉が書かれた手紙をもらう、くらいでお願いします。ってお伝えしておきましょうか」
ラオツァルがあっさりと解決策を提案してきたので、大人しく頷いておいた。手紙をもらうことすら面倒くさい、じゃなくて、烏滸がましいけどって言ったら、またも一頻り笑ってから、ラオツァルは「そういうわけにもいかないんだよ」とサイを諭した。
「というのもね。物凄くお互いに認めたくないけれども、私と魔導師長が身内だという話をしたよね。国王陛下に何故私がホーク子爵家で働いていることを教えてくれなかったのか、愚痴を溢したらしいのだけど。陛下は伝えたぞ、とかなりお怒りでね。それで、ただでさえ、傲慢なところがある魔導師長のことを日頃から疎んでいたから、退任を仄めかしたらしいんだよねぇ、陛下がさ」
サイに褒め言葉を書いた手紙をくれることと、魔導師長の進退についての因果が分からず、ラオツァルの話に対して、サイは「はぁ」と気の抜けた相槌を打つしかない。全く話の先が見えて来ないのだ。
「それに泡を食った魔導師長はさ、平民出身だけど優秀な魔術師のダン君と貴族出身で優秀な魔道具師のルーノ君とサイ君が、やけに親しいことを把握してね。ダン君とルーノ君に擦り寄ってるんだよね」
なんとなくキナ臭い方向に話が向いているのは、気の所為か。
「それで、ダン君とルーノ君が録声具を作ろうと、魔道具師長経由で国王陛下に核を購入したい、と頼んでいることまで知ってね。まぁ国王陛下だって、ホーク子爵領に生えてた核の一件に二人が関わっていることはご存知だから、融通するのは吝かでは無いけれど、どんな魔道具を作るのか、と尋ねたらしくてね。そこで二人はサイ君の発案で、録声具を作って、成功したらその魔道具に古語を吹き込んで、魔術師を目指す者たちの助けにしたい、と話したわけだ」
あー、先がようやく見えた……。
「つまり、その情報を魔導師長は仕入れて、無理やり自分を関われるように捩じ込んだ?」
「正解。要するに、魔術師のダンがサイ君のことを見つけたからこそ、ホーク子爵領の核も発見され、今回の新しい魔道具の発案も出て来た。これは魔術師のダンの成果だけでなく、彼に弟子を取ることを許した魔導師長の自分の功績でもある、とかナントカ。本当にもう、無理やり。こじつけだよね。まぁ国王陛下も、あんなんでも実力があるのは分かってるからさ。だから魔導師長を務められるわけだしね。自分の進退に関すること、という私欲とはいえ、平民出身のダン君の扱いを見直したことは一定の評価として、立場保留にしたんだよね」
そして、ダンとルーノが考えた録声具は、試作品とはいえかなり高性能で、本当に正しい古語を覚えたい者たちの勉強道具の一つとなっている、らしい。なんでも教室みたいな感じで覚えたい者たちが集まって、聞きながら勉強しているとか。
「そんなわけでね、ダン君とルーノ君が、サイ君の発案である、と言い切った以上、そのサイ君を見つけたのは魔術師のダンだと主張している魔導師長は、サイ君を表彰することで、サイ君の信用を得て、国王陛下の覚えをさらに良くしよう、という魂胆なんだよね」
つまり、サイの表彰云々の話は、魔導師長の思惑が絡んでいるらしい。
「まぁ陛下も魔導師長のそういった魂胆は見抜きつつも、サイ君の発案した録声具は表彰に値するとは思っているみたいで、話に乗ったみたい。あとなんだっけな。ああそうそう、魔力が少ない者が魔術師を目指したいのなら、核に魔力を貯めて使う、ということも提案したんだって? その提案も、魔導師も魔術師も誰一人として発想が無かったことだからって、その辺りも表彰に値するって陛下はお考えみたいだよ。それにしても、確かに魔力を貯めて使用するっていう発想は無かったよね。やっぱりサイ君、面白いね!」
ラオツァルは、ニコニコとまるで新しいおもちゃを見つけた子どものように笑って、表彰に関する裏話を終えた。
だいぶ、魔導師長の私欲に塗れた裏話ではあったが、国王陛下もお考えで有られた、ということなので、まぁ魔導師長の思惑だけでは無かったことも確かだろう。とはいえ、魔導師長の私欲に塗れた思惑だろうと、純粋に褒めて遣わす、と思われた国王陛下のお心遣いだろうと、表彰など、サイにとってはノーサンキューな話。
そんな裏話があるとはいえ、国王陛下自身のお考えも有るのなら、表彰はストップ出来ても、褒め言葉の書かれた手紙をもらうことは拒否することは出来なさそうだな、とサイも納得せざるを得ない。
ラオツァルに裏話の件を任せていたギィも、手紙は断れないぞ、と苦笑いしたので、仕方なく、サイは手紙をもらうことについては、了承した。
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