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魔道具開発・③

「風音具を改良するのですか」


 エーリッヒは、ダンとサイのやり取りを見て笑いながら尋ねる。


「ああ。今はまだ完成してないから内緒だがな。それに俺は魔術師。魔道具師じゃない。友人に作ってもらわなきゃならんから」


 ダンは軽く肯定しつつも、確定していないことは口にしない。


「そうですか。では、楽しみにしておきます。ところでサイ君。私は魔道具師になりたい、という君の夢を初めて聞きました。どんな魔道具が作りたいとか、考えているのでしょうか」


 エーリッヒの質問にサイは頷く。


「冷水箱や洗浄箱のように、掃除をしてくれる魔道具とかどうかなって」


「ほう。それはどんな?」


 サイが掃除機を作りたいと言えば、エーリッヒは興味を惹かれたように尋ねる。意外と魔道具が好きなのかもしれない、とサイは思う。


「ええとですね。風の魔術で綿埃やクズ紙などを吸い込んでもらい、その吸い込んだゴミをそうですね、これくらいの大きさの箱に溜め込んで、それがいっぱいになったら袋に入れて回収屋さんに引き取ってもらうような?」


 これくらい、と掃除機のサイズは手で大きさを示しながら説明する。こちらの国では自分の家のゴミを拾ったら、ゴミの回収屋を仕事にしている人が居るので、その人に溜まったゴミ袋を渡すことにしている。その回収屋にお金を払って、である。彼らは王都だと王都の外れにある大きな穴にそのゴミを投げ捨てている。投げ捨てたゴミがいっぱいになると、また別の穴を地面に開けてそこに投げ捨てる。


 というか、魔術がある世界なんだから、それこそ魔道具を作ってゴミを穴に投げ捨てない方法を作ればいいんじゃないのか?

 例えば、穴に投げ捨てると自動でゴミが燃える装置を作るとか。或いは巨大な装置を作って、その中にゴミを放り込んだら分解して環境に優しい状況にするとか。そんなことを考えるだけでなく口に出していたようで、エーリッヒがやけに食いついた。


「ほう。そういう魔道具は良いですね! そういったものを作りたいのですか! それは是非、サイ君を応援させてください!」


 エーリッヒが言うには、彼が仕事をしているように妻も短い時間だが働きに出ている。子育てをしながら家事をこなすのは中々に大変。平民はみんな役割分担しながら生きているのが当たり前なのは知ってる。だが、元々貴族の出身で使用人が掃除や洗い物や料理をしてくれていた生活だっただけに、慣れるまではとても苦労したのだとか。


「ですから、冷水箱や洗浄箱は本当に助かります。その上で掃除も魔道具が出来て楽になるのであれば、生活環境が変わります! ただ、サイ君が言っているように、王都や各両地の外れに、穴を開けてそこにゴミを投げ捨てるのは問題でもあるのです。臭いが酷くて国でも問題なんですよ。私の父がその問題に取り組むように言われた政務官のうちの一人なんです! サイ君のその発想による魔道具が作れたら、国全体の問題が解決します!」


 エーリッヒは平民視点を交えつつ、掃除機が発明されれば画期的だ、と言う。だがそれ以上に、ゴミ処理問題は国家の難問だ、と教えられた。


 まさかのオオゴトだった。

 でもそうか、ゴミ処理問題は、どこの世界のどこの国でもあるある問題なんだなぁ。


「でも、ブランティス先生。私はそういう魔道具が出来たらいいなぁって思っているだけですし、それも将来の話です。ブランティス先生のお話ですと、直近で大問題を解決したいってことですよね?」


 達観しつつあるサイだったが、前のめりで食いつくエーリッヒに、自分はまだ七歳でそんな魔道具を作れませんよ、とブットイ釘を刺す。エーリッヒが「ああそうでした……」と物凄い落胆を見せた。


 チラリとダンを見るサイ。


 サイの発想に「へー、面白い魔道具を作ろうと考えているんだなぁ」と完全に他人事のダンは、サイが自分を見ていることに気づいて、首を捻った。


「大丈夫です。安心して下さい。ブランティス先生。ここにいるダンさんは、物凄く優秀な魔術師です。私が口にしていた魔道具を作るに辺り、どんな魔術が必要か考えてくれます。そしてダンさんの友人のルーノさんは魔道具師です。きっと二人で素晴らしい魔道具を作ってくれますよ!」


 満面の笑みを浮かべて、サイはダンとルーノに押し付けた。エーリッヒは、希望を見出したかのような目でダンを見る。


「え、ちょ、ちょっと待て、サイ。キミ、俺とルーノにぶん投げたなぁっ!」


 ダンはまさか、自分とルーノが巻き込まれるとは思わず、タジタジになる。だが、もうエーリッヒにロックオンされているので簡単に「出来ない」とも言えない。それに、国全体での問題なのであれば、もし、それを解決する魔道具が出来るかもしれない、と知られたら製作を依頼されるかもしれない。


「分かった……。国全体の問題なら、そんな魔道具が出来るかもしれないって可能性があるのなら、製作依頼があるかもしれない。となると、俺とルーノだけじゃなくて、魔道具師全員で製作する可能性もある。サイ、君の発想が発端なんだから、説得するときは君がきちんと魔道具について説明しろ」


 押し付けられるだけで、サイに逃げられるわけにはいかない、とダンも負けじとサイを巻き込む。サイはまぁゴミ処理問題は放置しておくわけにはいかないもんね、と大人しく頷いた。エーリッヒは、父に伝えておく、と勢い込んだ。


「となると、ホーク子爵領の核が発見されたのは、本当に運が良かったな」


 ダンがしみじみと口にする。

 確かに核が無ければ、こんな魔道具があると良いなんて発想があっても、作れないのだから。偶然が重なった結果だとしても、きっとそういう巡り合わせだったのだろう。


「それはそれとして、私は早急に自分で作れれば作りたいなって思う魔道具があるんですよね」


 サイはエーリッヒとダンに向けてポツリと溢す。


「どんな魔道具だ?」


 ダンは、またとんでもない発想の魔道具でも作りたい、と言い出すのだろうか、と内心戦々恐々しながら尋ねる。


「魔術師を増やす魔道具です」


「は? なんだそれは」


 魔術師を増やす魔道具? 人は人からしか産まれないぞ、とダンが首を傾げれば、サイは、そんなことは分かっている、と真面目に頷く。


「そうでなくて、魔力が少ないから魔術師になれないのなら、自然とか、他者とかから少しずつ魔力を貰って貯めておく魔道具みたいなのを作ればいいんじゃないかなって思ったんです」


 ダンもエーリッヒも首を傾げる。自然や動物や人の魔力を少しずつ分けて貰い、魔道具に貯める。魔術を使用するに辺り、その魔道具から魔力を使って魔術を構築する。自分の魔力は当然使うけれど、足りないのなら補充する形にすれば良いのではないか。サイはそう説明した。


「いやぁ……発想力が凄いヤツとは思っていたけど、その発想は本当に凄いな。確かに魔力であるならば、自然でも他人でも魔術を使用するのに問題無い。構築して使用する魔術そのものは、魔術師が決めるもので魔力には関係ない。そうであるなら、確かに魔力を貯める魔道具作ってそこに魔力を貯めておけば、魔力が少ないから魔術師になるのを諦めたヤツも希望があるよなぁ」


 ダンは、サイの発想に脱帽した。ここまで来るとルーノと二人でちょっと賢い坊主、なんて言っている場合では無くなる。


「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、抑々その発想が無かったことにビックリします」


 サイが胡乱げにダンに視線を向ける。


「あー、魔術師として面目ない。でも魔導師長も誰も考えたことは無かったと思うぞ。自然や他者から魔力をもらうことは出来るが、元々そんなに魔力が必要な魔術を構築することが無いから、最初から他の魔力を宛にしない。だから魔力を貯めるって考えにならなかったんじゃないかな」


 ダンは頭を掻いて、バツが悪そうな顔をしつつ説明した。


「あとは古語の問題ですけどね」


 サイはそうですか、そういうことにしておきます、と流しながら、ボヤく。


「古語の問題?」


 エーリッヒが尋ねる。勉強に関する単語は聞き逃さない辺り、職業病の域に達している。


「はい。古語が綺麗に発音出来ないとか、覚えられないとか、そういう人が多くて魔術師になることを諦めるみたいですね」


「ああ、女性の魔術師が居ないのは、古語は男女だと発音に変化がある所為でしょうし」


 サイが言うとエーリッヒがサラリとそんなことを口にする。そういえば、サイは母のローゼリアから古語を教えてもらっていたことで、エーリッヒに改めて教えてもらった際、発音が違うことに違和感を覚えたことを思い出した。その点をエーリッヒに確認したら、男女で発音が変わるとか言っていたっけ。


 ん?


「あれ、そういえば、つい最近、それが分かったとか言ってなかったでしたっけ。女性と男性では発音が違うとかなんとか」


 サイはこの前のエーリッヒとの勉強時間に言われたことを思い出しながら、確認を取る。


「そうです。サイ君のお母様は王城の図書室勤務だったから、その辺りを知っている可能性は高いですねってお話をしました」


 エーリッヒはよく覚えていましたね、と褒めながら肯定するが。


「そうだとすると、例えば、今まで女性でも魔術師になりたい人が居たとして、でも覚えたのは男性版の発音だったから、古語で魔術が発動しなかった、という可能性がありますか?」


 え、まさか、そんなことで? とは思いながらも、サイはダンとエーリッヒを交互に見る。


「は? そんなの初耳だぞ? なんだ、男女で発音が違うとか!」


 というダン。


「可能性で考えれば、無いとは言えません、かね」


 エーリッヒは、その可能性が有るかもしれない、と驚くように肯定する。


 ダンは絶句した。


「じ、じゃあ、例えば……なんです、けど」


 サイは恐る恐るだが、自分の考えが当たっていなければいいなぁ……と思いながらも、どうしても、その考えに至ってしまったので確認したくなる。


「ブランティス先生、その、古語を習った方が、発音を間違って覚えていた場合、魔術が発動しないって有りますか?」


「それは、あると思います」


 だよね。そうだよね!


 前世日本人が英語を習うとき、水を英語でウォーターって発音していたら、英語圏の人には通じなくて、江戸末期の人とかが耳にした、ワーターの方が、英語圏の人には「水」って聞こえて通じたって話を聞いたことがあるけど、そういうのと同じってことだよね!


 つまり、耳で聞いていた「水」は「ワーター」に聞こえてそう発音していたけど、きちんと勉強するにあたり、Waterという単語を見てしまったら、「水」は「ウォーター」だと覚えてしまって 発音していたってヤツと同じだよね!


 まさかの、そういうことかぁ……。


「そうだとすると、きちんと発音出来る人に教えてもらった人と、中途半端に発音を覚えた人から教えてもらって古語を覚えた人が居たとしたのなら、前者は古語をきちんと発音出来るから魔術が発動出来るけど、後者は古語をきちんと発音出来てないから魔術が発動出来ないってことになるのでは?」


 サイはダンに考えを伝える。


「あー……そうかも。俺が古語を覚えたのって、平民だからさ、古語についての本なんて見られないわけ。だから古語を話せる人から教えてもらったんだよな。その人がきちんと発音出来る人だったから魔術が発動したのかもしれない。でも全員が全員、そうやってきちんとした発音の人から教えてもらったとは言えないから、間違った発音で覚えたら魔術は発動しないな」


 ダンは、サイの考えに思い当たったようで、納得している。


「ということは、例えば、ですが。ブランティス先生や母さまみたいに、きちんと古語を発音出来る人の声を魔道具で集めて、それを古語を覚えたい人に聞かせてみたら、正しい発音で覚えられないですかね?」


 つまりまぁ、前世で言うところの録音機器を魔道具で作って、それを再生して覚える、という方式。


 ダンがそれを聞いて


「それだ! それなら、もしかしたら間違った発音で覚えたヤツが正しく覚えることで、魔術師として、活躍出来るかもしれない! 先生、あんた、協力してもらえるか!」


 興奮して叫び、エーリッヒの肩をバンっと叩いた。エーリッヒは痛みに顔を顰めつつも、そういうことでしたら、と協力を引き受ける。男女別の発音を両方、エーリッヒが受け持つこととなり、ダンは協力の確約をもらった途端に、ルーノと共に魔道具の試作品ってみる、と騒々しく帰って行った。


「ブランティス先生、急な頼みごとの上に騒がしくなってすみません」


 嵐のように去って行ったダンを見送り、サイはエーリッヒに頭を下げる。エーリッヒは「気にしていませんし、協力出来ることは楽しそうなので構いません」と大人な対応で微笑んだ。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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