魔道具開発・①
魔導師長の報告を受けた国王陛下が、先ずは、と他国からの核購入費用の余剰分から、ホーク子爵領に支払い、それで買える分を買い上げた。結果的に他国から購入する分量の半分以下しか買えなかった。
魔導師長による報告では、ホーク子爵領に生えている核の量も核が保有している魔力量も、他国から買う核より、質も量も良いものらしい。
核にも関税は掛けられているし、輸送コストも掛かるから購入費用の予算は、割と多く取っている。
だが、購入した核の量と質は、魔導師長が言うには、ホーク子爵領の核の三分の一程度らしい。それなら他国から購入せず、ホーク子爵領で買い上げた方が断然良いだろうし、逆に他国へ輸出出来るのなら、そうしたい限りだ。
ラオツァル・ミルヒェンスからの報告と魔導師長からの報告に差異は無いので、宰相や財務大臣に外交大臣と王太子と会議を開くことを国王は決めた。
国王は元より、ウルフェ国の政を与る要の者たちや高位貴族の間では、ラオツァルと魔導師長が親戚であることも、その仲が悪いことも有名だった。
仲が悪いというか、魔導師長が一方的にラオツァルを含めた身内に敵対意識を持っていて、地味な嫌がらせを繰り返し、身内に後始末をさせることを繰り返している。それにキレているラオツァルを含めた身内、という悪循環の関係。有名だからこそ、ラオツァルと魔導師長の見解が一致していることに、国王陛下を中心に政を与る要の者たちは、信用した。
これで見解が食い違うのなら、更に調査員を派遣するなり、政の要である誰かが直に見に行っただろう。その手間が省けただけ、会議開催は日程が早まったのだから。ただ、のらりくらりと調査を先延ばしにしていた魔導師長に、それなりのペナルティーは与える必要はあるが。それはまぁ国王が考えることで、今はホーク子爵領に生えている核について、だった。
結論から言うと、先ずは国内でどれほどの核を確保するか、という点を確認。魔術師の魔力は不要であるため、魔術を掛けてもらうだけで良いとも聞いているので、魔道具師たちの意見を聞いた上で、残りを他国へ売るという方針が決まった。
その後、魔道具師たちに聞き取り調査を行い、国が取り敢えずで買い付けた核の半分を国の魔道具に役立てたい、ということに。
その取り敢えずで買い付けた核の半分を見た魔道具師たちが、事情を知っていたルーノ以外の全員、顎が外れる程驚いていた。ルーノから話を聞いていたというのに、全員半信半疑だったことがよく分かる。
その魔道具師の中には元貴族子息も居る。元貴族令嬢も二人居る。お分かりだろうか。紳士淑女の教育を施され、心を落ち着けて優雅に冷静に社交界を渡り歩くために感情を表に出さないよう育てられた、元貴族子息と元貴族令嬢が、顎が外れる程驚いたのだ。平民に身分を移し、貴族時代より感情表現が豊かになったとはいえ、である。
ホーク子爵領に生えていた核がどれだけ凄いか、想像が付くというもの。
その量と質に魔道具師たちは狂喜乱舞したとか、しないとか。
扨措。
王都の魔道具師たちが核の量と質に顎を落とす程驚いている頃。ホーク子爵領の領主邸には、魔術師のダンが未だに滞在していて、サイと魔道具製作の意見交換をしていた。先触れの連絡にて、そのうちルーノも合流することになっているが、一足先に、である。
「核に番号を振って風音具を作るのは良いとして、どう番号を振るのかが問題なんだよな」
「核は固いから彫る形ですか。それとも書き込みますか」
ダンの問題にサイが取り敢えずの案を出す。
「番号を彫るのも一苦労だし、番号が克明じゃないと使用するのにトラブルを起こしそうだ。書き込むのは無理だろ。サイ君は核を触ってないんだっけ? ツルツルし過ぎてインクが付かない」
そういえば、そうだ。物凄いツルツルした表面だからペンのインクが付かない。訳の分からない素材なんだよな、核。
それに他国は知らないけどこの国ってアラビア数字じゃなくてローマ数字なんだよなぁ……。間違いやすい。うーん。どっかの国でアラビア数字使用していないかなぁ。そうしたらどこそこの国で使用している数字を彫りましょうとか言えるのに。日本の漢数字でも間違いが起こりそうだよな。いや、古い漢数字なら大丈夫か?
一、二、三じゃなくて、壱、弐、参の方なら。
でも、アラビア数字を使用してないこの国だし、漢数字も無い可能性がありそうだよなぁ。
というか。
「魔術で番号って付けられないんですか?」
サイは素朴な疑問をダンに投げかけた。
「魔術で番号?」
ダンが考え込む。魔術の構築がどうとかこうとか、ハッキリ言ってサイには分からないけど、それこそ魔術師のダンなら何か思い浮かぶのではないだろうか。
そうこうしているときに、サイは母・ローゼリアがお茶とお菓子を持って来たことを聞いて、受け取るついでに、母は元は王城の図書館勤務だったことを思い出し、何気なく尋ねてみた。
「母さま、知らないかもしれないけど、ウルフェ国で使われている数字以外に数字って見たことは無いでしょうか」
ローゼリアはサイの質問にあっさりと答えた。
「あるわよ。数字を他に表すのでしょう?」
あまりにもあっさり肯定されて一瞬言葉が詰まる。
「あるんですか?」
辿々しく尋ねれば、あるわ、とコックリ頷いた。
「それはどんな?」
「ああ、ごめんなさい、サイ。私、そういう本があることは知っていたのだけど、興味が無くて読んでないのよ。ただ、ウルフェ国で使われている数字とは違う数字の表し方が他国ではあるのね、と思ったわ」
サイが期待に満ちた目でローゼリアを見るが、ローゼリアは申し訳なさそうな表情で首を振る。サイがあからさまに気落ちした姿を見たローゼリアは慌てて、「ブランティス先生ならご存知かもしれないわ。数字に関することだから、教える立場の先生なら、もしかしてね」と示唆する。サイも、確かにエーリッヒならば、日々教える立場として勉強に関する情報を更新している、と言っていたから可能性はある、と思った。
「ダンさん、今の母さまの話を聞きましたか?」
「ああ、他国で使用している数字か! 間違わないようなものならそれで番号を割り振れるかもしれない。番号間違いが無いなら、さっきサイ君に言われて思い付いたが、核に番号を焼き付ける、という形を取ってみることにしよう!」
サイがダンに話を振ると、ダンもかなり前のめり気味で答える。彫るとか書くとかではなく、番号を焼き付ける方法は、魔術師のダンだから思い浮かんだ方法だろう。焼き付けるのであれば、ウルフェ国で使用するローマ数字でも間違いは低くなりそうだが、他国で使用している数字がアラビア数字なら、もっと間違いは低くなるだろう。
「それで? その先生は次、いつ来るんだ?」
ダンに尋ねられて、サイは今日これから、ということに気づく。
「あ、今日、あと二時間ほど後に」
気まずそうな顔をするサイ。
ダンは目を瞬かせて「え、今日?」呆然とした。
それから我に返り
「そ、それなら話が早いなっ。終わるまで待ってるからさ、聞いておいてくれないか。知っていたら教えてもらいたいし」
前向きに言う。サイも頷き、取り敢えずエーリッヒが来るまでに本日勉強予定の予習をしておくことに。尚、ウルフェ国の貴族家を覚える講義で本日から、子爵家と男爵家を行うことになっていた。つまり、自分の家と子爵領も、である。もちろん他家のことも勉強するわけだが。
「あー、そっか。もしかしたらブランティス先生に、ホーク子爵領の森に核が生えていることを話す方がいいのかも。領地勉強の一環だろうし、国が買い上げてくれたこととか、これから話題になるだろうし」
それこそ、ホーク子爵領の領地収入の一端、ではなく中心になるだろうし。ホーク子爵領の話が出たら、伝えればいいか、とサイも呑気に考えていた。
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