魔道具色々?
その後は速やかに魔導師長と魔導師は王城へ報告に向かった。ダンだけが残っている状態。
「それにしても、本当にこんなに生えてるとは思いませんでした」
ラオツァルが嘆息する。それからトバに案内料だ、と銀貨を一枚握らせた。トバが驚いているが、これくらいの価値はあるとラオツァルが淡々と説明する。銀貨一枚で平民の食費一ヶ月分くらいになるのだから、トバが驚くのも無理は無い。今まで森を管理してくれてありがとう、という言葉付きで森の入り口でトバと別れた。
「あれだけ生えているとなると、既存の魔道具だけでなく新しい魔道具開発も出来そうですね」
ラオツァルが誰に、というわけでもなく独り言のように呟く。思わず言葉に出た、というところか。
「新しい魔道具かぁ。そういや、サイ君は魔道具作りたいって言っていたけど、風音具の改良を考えていたわけ?」
ラオツァルの言葉を受けてダンがサイに尋ねる。
「そうですね。前も話した通り、安価な風音具を作って平民も使えるようになればいいかな、とか」
魔術師勧誘を一切しなくなったダンに、サイの苦手意識は無くなり普通に会話をするようになった。
「ああ、あの核に番号を割り振ってというやつね。あれは本当に画期的だよ。それなら掛ける魔術が少なくていいから、風音具もだいぶ安価になるだろう」
ダンが思い出したように風音具の改良案について口にすると、ラオツァルが「は?」と口を挟んできた。
「ちょっと待ってください。なんですか、その話」
政務官のラオツァルには関係ない話なのに、なんか食いついて来たなぁ。サイは内心で首を傾げる。その間にダンが簡単に風音具の改良案を話した。
「えっ、その改良案、サイ君の発案なんですか?」
ラオツァルが驚く。
「そんなに驚くことですか?」
サイが内心ではなく首を捻る。
「七歳にしては驚きの案ですよ」
ちょっと興奮しているラオツァル。
「えー。だって、一人一人に合わせて風音具を作っていたら、必要な人の分だけ風音具が必要だから、それなら番号を付けちゃえばいいんじゃないかなって」
あ、やっぱり七歳なのに。って思われるのか。じゃあちょっと子どもっぽい発想だと思ってもらえる言い方をしておこう。という浅い考えで、こんな発言をしたが、興奮気味のラオツァルはあまり深く考えていないみたいであった。
でも、懐中時計を持参しているラオツァルが、無意識に懐中時計を確認したら休憩時間になっていたことで、スンと音を立てるかのごとく、興奮から冷め、座れそうな切り株に腰を下ろした。さすが、ブレない男である。
「えっ、なんでいきなり座った?」
その変わり身の早さにダンが驚くを通り越して慄く。
「あー、ミルヒェンス様、仕事の時間はきっちり仕事をするんですけど、休憩時間もきっちり取るのがモットーで。仕事開始一分前まで席に着かないし、仕事終了一分後には、席を離れて帰る人だって、王城では有名だったそうです。父の補佐官を務めていても、全く同じみたいですけど、仕事が出来るんだから、その辺りはきっちりしていても父は文句が無いみたいです。というか、優秀な方なので、好きなようにしてくださいって両親が言ってましたね」
サイが隣に黙ったまま立つ父親のギィを見ながら説明すると、ダンが感心したように声を上げる。
「いやぁ、お貴族様でも、そういうきっちりした人って居るもんなんだな。魔導師長とか貴族の魔術師とか見てると、やりたくない仕事は押し付けるし、ダラダラと仕事して、いつ始まるのか、いつ終わるのか。って人が多いのに、、みんなミルヒェンスさんみたいな人だったら仕事し易いのになぁ」
あー、いつの時代も、どこの国でも、いや、どこの世界でも、そういうタイプっているんだな。やりたくない仕事は人に押し付け、気分で仕事するやつ。周りが非常に迷惑被るやつな。
「色んな人が居るんですね。仕事をしない人は、座っているイスとか何かに雷でも落ちる。みたいなお仕置き魔道具でも作ったら仕事するようになりますか」
サイの思いつきは、寧ろ前世で欲しかった物だ。よく罰ゲームで静電気がビリビリくる、みたいなテレビ番組があったが、アレを見て、仕事しないヤツは、イスにでも静電気を仕掛けて、仕事するまでビリビリを体感していればいいのに、と思っていたものだ。
「なにそれ、面白いな! なるほど。仕事しないヤツにはお仕置き魔道具か! 雷を落とす、うーん、それだと扱う魔術が複雑になるかな。それよりは、仕事しないと全身水浸しになる、なんていう方が魔道具として作り易そうだ」
サイの思いつきにダンがノリノリで便乗する。コレは作るかもしれないなぁ。なんてサイが思っていると、再び懐中時計を確認したラオツァルが、億劫そうに立ち上がる。どうやら休憩時間は終わったらしい。
「仕事をしない者にお仕置きを与える魔道具は面白い発想ですね。試作品が出来たら教えてください」
どうやら休憩していても、サイとダンの会話はきちんと聞いていたらしい。
試作品を強請っている。
ダンもダンで「はいはーい」と軽いノリで返事をしている。「核さえなんとかなれば作るのは簡単だし」などと言っているが、その核は、直ぐに直ぐ、採取許可や使用許可が貰えるとは言えないはずである。
サイがその辺りを指摘すれば、イイ笑顔でラオツァルが「大丈夫。直ぐに許可が出るから」と口にした。なんとなく深く食いつかない方が良さそうだな、とスルーしておく。
それよりも、とサイは他のことを考えた。
「アレですね。切り株に座るより、持ち運び出来るイスみたいなのがあるといいですよね」
「あ、それはあるぞ」
サイが言うとダンがあっさり答える。
「あるんですか?」
「ある。だが、アレは意外と邪魔なんだ」
持ち運び出来るイスなのに? 疑問が表情に出ていたのか、ダンが付け加える。
「持ち運び出来るイスは、背もたれ部分の無いイスだと思えばいい。邪魔だろう?」
なるほど、背もたれ部分が無いだけ持ち運べると言えば、持ち運べるのだろうが、折り畳めるタイプでは無いのなら、そりゃあ邪魔である。
「じゃあイスの足を短くすればいいんじゃないかな」
折り畳み式、と言おうとして止めた。こちらの世界にその概念が無ければ、また七歳なのに云々とか言われそうだからである。
「それだと大人は座り難いだろう」
ご尤もな指摘をダンにされて、うーん、と考える。折り畳み式って言ってしまえば楽だが、概念があるのか分からないし。
「ホラ行きますよ」
ラオツァルは、イスの話など、どうでもいいとばかりに、サクサク歩き出す。サイとダンは、ずっと黙り切って存在そのものを忘れかけていたギィに視線を向けた。
「父さま、ずっと黙ったままですけど、どうかしましたか?」
「あー、いや、なんて言うか。サイは魔術師であるダン殿のことを敬遠していたから、そんなに話が弾むとも思っていなかった。それに、私自身が、心のどこかで、サイは本当は魔道具師じゃなく魔術師の道を進んだ方が良いのではないか、と未だに、勝手に思っていた。サイの気持ちを聞いていたのにな。新しい魔道具なんてサイが考えているなんて思ってもいなかったから、以前、魔道具師になって領地を潤すようなことを言っていたとき、気持ちは嬉しいが、魔道具で領地が潤うくらい稼げるのか、と疑問があった。だが、今の会話を聞いていると、サイは本当に色々考えていて、魔道具作りをやりたいのだな、と理解したら、父親なのに恥ずかしいな、と思っていたんだ」
ギィが長く黙っていたのは、そんなことを考えていたからのようで、サイは驚いた。
「父さまに心配をかけていたんですか」
「いや、私が魔道具にあまり可能性を持っていなかったんだ。だが、サイが風音具の改良案を考えた、と話しているのを聞いて、既存の物を改良するだけでも、かなり魔道具の未来は可能性が大きいなって思った。他にも改良出来る物があるのかもしれないだろう。それが分かったら、サイは本当に人の生活の向上について考えているのだなぁと思ったんだ。七歳なのに、という視点がもう、固定観念だな。子どもの方が固定観念が無い分、色んな発想が出来るのだろう」
ギィは、つくづく大人とは厄介だな、と笑い。
「改めて言おう。好きな道を進みなさい。様々な魔道具を作りたいのなら作って、たくさん試作品を作って完成させるといい。ミルヒェンス殿もこんなに、と驚くほど、領地に核が生えていたんだからな。試作品をたくさん作っても困らないだろう。失敗だって恐れずに。そうして完成した魔道具を父さまに見せてくれると、父さまは嬉しいぞ」
ギィは、父として、人として、サイを導くような言葉を言い、時として自分の欠点を反省しながら、息子の背中を押す。良い父親の元に生まれたなぁ、とサイは照れ臭い気持ちになりつつ、素直に嬉しかった。
「ホラ、置いて行きますよ!」
結構先の方で一人だけ進んでいるラオツァルの声が聞こえて、ダンとサイとギィは笑いながら、待っているラオツァルの元へ早足で進んだ。
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