魔力量豊富と判定。そうでしょうとも。
魔導師長たちの訪問日。ダンがウンザリした顔を隠さずに、子爵邸を訪れた。その後ろで、矢鱈と踏ん反り返る年配の男と無表情のダンより少し年上そうな男が立っていた。分かり易い人だなぁ、とサイは思う。そしてダンがウンザリした顔をしているのは、間違いなく踏ん反り返る男の所為だろう。それが魔導師長だろうな、と思いながらギィとラオツァルを見遣る。ギィは、なるほど、と何かを納得したように深く頷き、ラオツァルは冷ややかな笑みを浮かべている。
「ようこそいらっしゃいました、魔導師長殿」
ギィが迎えの挨拶を向けると、踏ん反り返った男が鼻で嗤う。やっぱり貴族主義なのだろう、ギィを元平民のくせに、と言いたそうな目つきで見ている。ライナージンスがサイによく見せた顔だ。ギィは年を重ねているだけあって、その目つきに気づいているはずなのに何も言わない。
「わしが魔導師長だ」
フンと鼻を鳴らして踏ん反り返る年配の男が言う。役職のみで名乗る気はないらしいが、別に名を知りたいとも思わないのでギィはスルーした。
「お疲れのところ恐縮ですが、早速領地の森へ案内させていただきたいと思います」
ギィが丁重に、且つ迅速に提案する。茶の一つも出さないで、と嫌味を言おうとした魔導師長は、ようやくギィの隣に居る甥っ子の姿を視界に捉えた。なぜ、お前がここに、という驚愕の表情が、いっそのことマンガみたいだなとサイは思う。ニヤリと笑ったラオツァルは、言葉を呑み込む魔導師長とは反対に、吐き出した。
「魔導師長サマ、随分と調査に時間を掛けていらっしゃいましたね。どこで寄り道をしていたのか」
寄り道、を言葉通りに受け取ったら自分が痛い目を見ることが分かっている魔導師長は、グゥと低く唸った。まるで獣みたいだなぁ、とはサイの感想だ。実際のところ、ダンの手紙が届いてから予定通りの日に到着しているため、寄り道などはしていない。寄り道というのは比喩表現で、調査に取り掛かるまでの時間が長かったことに嫌味を言っているわけである。
魔導師長も国王陛下からの話で無ければ、こんな辺鄙なところに来る気は無かった。のらりくらりとしらばっくれて、有耶無耶にしていただろう。いや、有耶無耶にした。仕方なく、本当に仕方なく、ホーク子爵領に行った、と国王陛下に報告出来るように、実績だけ作ろうとホーク子爵領にやって来た。で。そのまま帰るつもりだった。蓋を開けてみれば、甥がいるなんて思ってもみなかった。
「左遷でもされたか」
虚勢を張るとはこういうことを言うのか、と見本のような態度を取っている魔導師長を眺めるサイ。間近で見るというより遠くから眺めるような気持ちだ。それくらい、ライナージンスと同じ人種に思える魔導師長に嫌悪しかない。
「おや、魔導師長とも有ろう方が、王城の人事異動にご興味が無いのですね。私は、国王陛下に任命されてこの領地におりますが」
呆れた表情を隠さない辺り、相手をおちょくっているようである。
そして、魔導師長は煽られ耐性が無いのか、顔を真っ赤にしてラオツァルを睨め付けている。甥に良いように遇らわれている伯父という図式を見るに、短気な性格なのだろう。
正直、こんなにも感情表現が豊かなのであれば、そりゃあ貴族家当主に向いてないな、と第三者でも納得する。そして、魔導師長なんてかなり高い地位に就いているのに、こんなに感情表現が豊かでは、その地位も足元を掬われると思われる。というか、既に地位が揺らいでいるのではないかという疑念も浮かびあがる。まぁその辺りのことは、サイもその家族にも関係ないこと。
そして甥のラオツァルに笑顔で追い立てられながら、魔導師長と魔導師とダンは一息吐く暇も無く、森へと向かうことになった。
「あんな魔導師長、見たの初めて。いやぁ、いっつも貴族主義で踏ん反り返ってる姿ばかり見せられてたからさ、ちょっとスカッとしたよね」
コソコソとサイに内緒話をしてくるダンは、すっかりサイに対しての気後れした感情は無さそうである。まぁサイもいつまでも拘るつもりも無いので、良かったのかもしれない。
あと、ラオツァルは本当に森まで着いて来て、魔導師長は相当嫌な顔をしている。甥にここまで苦手意識が強い伯父。よっぽど身内の中で何かやらかしているのかもしれないが、その辺りはまぁどうでもいいことである。ギィとダンと共に魔導師長と魔導師の道案内を恙無く務めておく。
そうして森の入り口でトバと待ち合わせ、ここからはトバの案内に頼って森の奥へ進む。
尚、魔導師は背中に荷物を背負っていて、それが魔力量測定器であるので、どうやら森の中で測定するんだな、とサイは思う。
「核って削れるんでしたっけ」
隣を歩くダンに尋ねる。
「固いから削れない。植物みたいに生えてるけど、鉱物みたいに固いから無理だよね。どっちかというと割る方かな」
スコップなどで掘り出したり、ナイフなどで削り取ったり、という形では無く、金槌で割って欠片を魔力量測定器に乗せるらしい。せめて、ノコギリ辺りで切れれば、まだ測定値に信頼が置けそうなのに、とサイは思う。削っても割ってもその破片の分だけ、魔力量も不確かなものになりそうだ、と思うのはサイだけだろうか。
まぁ、魔導師長も魔導師も、そんなに大きい核が大量に生えてるなんて話を信用してなさそうだし、一応国王陛下の顔を立てておくか、という気持ちなのだろう。何しろ、魔導師長の顔に面倒くさい、とデカデカと書かれているし。
だが、その顔が森の奥が明るくなって不審な表情を見せ、近づいて全容が分かった途端に、顔色を真っ青に変えた。
「な、なんだ、これは」
「なんだって核ですが」
魔導師長の焦った声音に、ギィが淡々と返す。
「なぜこんなに大きく、そして大量に、核が生えているんだ!」
驚きなのか、怒りなのか、その両方なのか。それとも自分の見ている物を信じたくない気持ちなのか、混乱したような声で核が生えていることに声を荒げる魔導師長。魔導師の方は絶句している。
「だから王城に報告したでしょうに」
静かに、事実のみを突き付けるラオツァル。
甥の声を聞いて我に返った魔導師長。
「なぜ、こんなに」
先程よりやや小さな声で、但し今度は最後まで質問が出来ず。
「ホーク子爵領の半分ほどは、この森です。核は日が差さない場所に生える。条件はそれしか知られていませんが、核そのものが謎多き物体。それこそ魔道具に使用出来る、くらいしか後は分かってませんね。それを解明するのはそれこそ魔術師の役割だと思っていたのですが、誰も解明する気が無いようですからね。なぜこんなに大量に、大きな核が生えているのかなんて知りません」
ラオツァルは知らないな、と冷たく突き放す。どころか核という物の性質を解明しないのは魔術師の怠慢だろう、と突き付けている。
「魔術師は、わ、我がウルフェ国だけにいるわけではない」
「それは知ってます。他国の魔術師も含めて、誰も核の性質を解明していないのは確かでしょう。それこそ古代の魔術師ですら。いえ、古代の魔術師は解明したかもしれませんが、文献が見つかっていないので分かりませんがね」
魔導師長の虚勢を張った言葉を一刀両断するがごとく、ラオツァルがスッパリ魔術師の怠慢だ、という姿勢を崩さない。他国にも魔術師や魔導師が居る。その上で核の性質など何一つ解明しなかったのは、あなた方だと言い切る。魔導師長はモゴモゴと何やら口籠もって、部下の魔導師に魔力量測定器で魔力量を測る準備をしろ、と命じた。
多分、おそらく、甥に正論をぶつけられることに耐えられなかったのだろう。
黙々と魔力量測定器に乗せられるだけの大きさに、核を割って魔力量を測る。
「この大きさの核で、こんな豊富な魔力量なんて初めて見ました。魔力量豊富です」
魔導師がやや呆然とした口調で報告をあげる。
「魔力量豊富? そうでしょうとも」
ラオツァルが得意げに笑う。
だが、そうなってもおかしくないくらいの、核の大きさと量。咎め立てすることも出来ないくらい、目の前の核の群生は説得力を持つ。
「魔道具を作るのに必要な魔力量が、核にはどれくらいあるんだ」
魔導師長は、ラオツァルの得意げな表情に何か言ってやりたいが、嫌味の二つ三つが返ってくることも分かっているので、全く別のことを尋ねた。
「結界の綻びを見つける探索魔道具を作るとして、魔術師の魔力を使用しなくても、作れるくらいには」
魔導師の端的な報告に、魔導師長は今度こそ絶句した。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




