魔道具師全体の課題三つ目・②
「話を戻すが」
話が脱線したことに気づいたのか、咳払いをしてルーノが口調を改める。
サイとダンもハッとした後で神妙な顔つきに。
風音具の改良案や結界を維持する魔道具など、楽しい話題は尽きないが、元々はどうやって
核に魔術を施すことを嫌がる魔術師を説得するか
というのが、本日の話し合いである。本題そっちのけで盛り上がっている場合じゃない。
「核に魔術を施すことを嫌がる魔術師が多い。それをどうするか、だな」
ルーノが溜め息と同時に頭をガシガシ掻く。
「核に魔術を施してもらわないとその魔道具がつくれないからなぁ」
ダンもお手上げのようだ。
「ダンさん一人だと核に魔術を施すのが難しいんですか」
サイの疑問は尤も。
ダンは腕のいい魔術師。それは貴族出身の魔術師であるライナージンスも嫌々だが、認めるところ。
そのダンが核に魔術を施してくれればいいのではないか、という疑問。
「んー、一人で魔術を施せるのは、楽なものでも一日魔道具十個くらいかな」
それが多いのか少ないのか分からない。
「ちなみに、ダンだからそれくらい。ダンと同じくらいのことが出来るのは、魔導師長とあと二人か三人くらいだろうな。他の魔術師なら五個から七個くらい。魔力量が多いから魔術師になれる。それでもそんなものだ。俺が魔術師になっていたとしたら、おそらく核に魔術を施せるのは核が二個くらい。魔力量が少ないからな。一日でそれ。大量に魔道具が必要となるのであれば、間に合わないこともある」
ルーノの説明に、サイは一つ頷く。
ダンの魔力量が多く、凄い魔術師ということは具体例で分かった。
そこでふと気づく。
「仮に私が魔術師を目指していたら、どうだったのだろう」
それは純粋な疑問。
魔力量が多いから、と言われてダンとライナージンスから散々勧誘された。魔術師になる気は全く無い。でも魔力量が多い、と言われ続けてきたからには、それがどれくらいなのか、と興味が湧く。ダンは十個くらいだと言っていたが、それは突出しているようだから、平均的な魔術師と同じくらいには、核に魔術が施せただろうか。そうすると、確かにルーノより魔力量は多そうだ。
「サイ君は俺やライナージンスより魔力量が多い、と魔導師長から聞いているから、おそらく十五個前後じゃないか? 実際は分からないが、近年では珍しいくらい魔力量が多い、と魔導師長が褒めていた」
ダンが疑問に答える。
ルーノが、「は?」とサイを見るが、サイ自身も、「えっ」と言ったきりである。
「いやいや、なんでそこで驚く。サイ君は魔力量が多いって散々言われてきただろ。あの、貴族主義で自分こそ魔導師長の座に相応しい、と自己肯定感最高値のライナージンスが、嫌々とはいえ、君を弟子にしたいって再三訪問したでしょ。まぁ俺もだけどさ」
ダンが苦笑する。
「いえ、確かに公爵家の人間だ、とかなんとか、物凄く偉そうにふんぞり返りながら、嫌々だと分かる表情で顔全体で引き攣らせながらも、勧誘してきていましたけど。ダンさんへのライバル心剥き出しで、勧誘してきているのかと思ってました。思いっきりこちらを見下しているし、父と兄二人については、元平民だから、と見下していることを隠しもしない。母についても貴族出身なのは良いとして、でも年上の行き遅れ女だから、とハッキリきっぱり言ってくるほどに、見下してましたから。ダンさんへの嫉妬かと思ってた」
サイがライナージンスのことを酷評すると、ダンとルーノが同時に吹き出す。
「いや、そこまでサイ君に嫌われているとは思わなかった。清々しいほどに貴族主義なライナージンスが、元平民と蔑むようなことを言っていたから心配していたが。サイ君に冷静に観察されて見切りを付けられていたとは。サイ君の方が人間性は上だな。七歳の子どもに見切られているライナージンスの人間性。いやぁ俺も、ライナージンスのことを見切ることにするよ。今までは、いつか見返してやるって思っていたけど、それが悪いとは思わないけど、ライナージンスそのものを見切る方が精神面で安定しそうだ」
腹を抱えて笑い飛ばすダン。
ずっと嘲笑され蔑まれてきて、いつかこちらが見返してやる、と対抗心を燃やし続けてきたが、サイがライナージンスのことをここまで客観的に見ていることで、どうでもよくなってしまった。
ライナージンスを見返してやりたい気持ちが直ぐに失われることは無い。
でもサイのようにスッパリと見切っておく方が、自分の精神面には良い。
頭では理解していても、感情はそんな風に割り切れずにいた。でも、ここまで冷静に観察する七歳の発言に、自分もかなりライナージンスに執着していたように思う。それが分かると、見返すことが出来る機会を窺いながらも、もっと自分を見失わない方が良さそうだ、とダンは切り替えた。
「まぁまた話が脱線したが、そんな感じだから魔道具によってはもっと核に施す数量は減る。だから、何人もの魔術師に頼むしか無いんだが、魔術師たちは魔道具が無いと自分たちだって困るのに、落ちこぼれたちのために貴重な魔力を消費したくないって言っているからなぁ」
ルーノが再び、強引に話を戻しつつぼやく。
「うん? 魔道具は魔術師に絶対必要なんですか?」
ルーノの言葉にサイは引っかかる。
「絶対では無いけど、あったら楽だなと思うこともあるな」
ダンが必要不可欠では無い、と言いながらも利便性が良いと口にする。
「魔力って、使い続けるだけなんですか? 次の日には回復するとか」
そういえば、そんな基本的なことを知らないな、とサイはダンに尋ねる。
「回復はするが、増えることは無いから、魔術を使いたいと思った時に、既に核に魔術を施して魔力量を減らしていて、使えないこともあるからな」
なるほど。
ここ魔術を使おう、と思っていたら既に別の魔術によって自分が持つ魔力を消費していたのなら、魔術師も断りたくなるだろう。
「でも、あれですよね。魔力を他人や植物や動物からももらえるんですよね。それならそんなに魔力量は消費しなさそうですが」
サイは魔術師という仕事はそういうものだ、と聞いている。
「あー、まぁ他から魔力をもらう、と言うけど。もしかして誤解してないか? 自分の魔力量が減ったから他者や自然などから魔力をもらう、と。正確に言えば違う。大量に魔力を消費するような大掛かりな魔術を使うから、他者や動物、植物から魔力をもらう。自分の魔力量だけじゃ足りないくらい、大きな魔術。例えば、結界だな。国の結界は元々施されていて、時間が経つと綻びが生じる。その綻びの修復が魔術師の主な仕事。綻びの修復くらい、と思うかもしれないが、仕事になるくらいには大変だ。一人じゃ出来ないくらいに。国を守るための結界なのだから、まぁ当然だ」
ここでダンが一息つく。
「でも、新たに一から結界を張るとしたら、魔導師長や俺、ライナージンスどころか、他の魔術師たち全員の魔力を合わせて魔術を構築しても、上手くいくかどうか。おそらく動物と植物の魔力も必要だろうし、魔術師以外の魔力をもらわないと難しいと思う。それくらい大掛かりだ。だから、他者から魔力をもらう、という話になる。まぁそんな裏話みたいなものを皆は知らなくて、他者から魔力をもらう、という部分が一人歩きしたんだろうけどな」
ダンの細かい説明に、サイは思い違いをしていた事実を知る。他から魔力を奪って自分たちの魔力量を減らすことが無いようにして、魔術を構築していると思い込んでいたが、実際には、自分の魔力が無くなっても出来ないくらいの魔術だから、他から魔力が必要なのだ、と。
「魔術って物凄く魔力が必要なんですね」
「だから、魔術師は核に魔術を施したくないんだ」
サイが感心したように呟くと、ルーノがすかさず、課題である一言を口にした。
「うーん。でも、核に魔力はあるわけで。今までは核の魔力量が少ないから魔術師の魔力が必要でした。でも、我がホーク子爵領に生えてた核だと、魔術師の魔力が不要となるほど魔力量が多い、という可能性は無いですかね」
サイは王城から遣わされた政務官のラオツァルによる推察も含めて、二人に話す。二人共、確かに、と頷いている。
「あれだけデカい核だからな。保有されている魔力量は確かに多そうだ。実際に魔力量測定器で測ってもらわないと分からないが、可能性として、魔術師の魔力を消費しないで魔術を施せる可能性はある」
ルーノがその推察に賛成、と言いながらそんなことを言う。
「ちょっと、魔導師長をせっついてみるよ。魔力量測定器で早く測定してもらって、予想通りだったら、他の魔術師たちを説得しやすい」
ダンも力強く頷く。
まだクリアとは言えないが、核に魔術を施してもらう道が見えた気がした。
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