遊びっていったはず①
「お疲れさま、エレンさん」
「あ、あぁ。本当に疲れたぞ……」
エレンはふらついた足取りで私の隣まで来ると、大きく息をついて両手をだらんとさせた。額には汗が浮かんでおり、目はしぼみ気味。商街道での人波に酔ってしまったのだろう。
私たちは中央区エルデン商街道を抜け、その中心地にたどり着いていた。
商街道と比べると明らかに舗装が整っている石畳、見渡す限り真っ白で汚れの見つからない壁面、そして住宅街では見かけることができないような大きな窓ガラスがはめ込まれた建造物。
明らかにここが上流に位置するとわかるような街並みである。
「もう大丈夫だよ。ここからはさっきまでと違って余裕があるからね。ゆっくり行こうか」
エレンは私の言葉にうなづいて周りを見回す。そして「確かに、さっきよりは……」とつぶやいた。
エレンが感じた通り、商街道と比べてここは人が少ない。フリーマーケターは一切見当たらず、観光客らしき人だかりも少なくまばらであった。
商街道がお祭り騒ぎだったのと比べると、明らかに静かである。遠くにいる人の会話だって風に乗って聞こえてくるくらいだ。
――転移した? と勘違いしてもおかしくない落差である。
それもそのはず。商街道を抜けたここは観光地ではない。
ここは魔本師の商売場。この国に存在する魔本の大多数が一旦、ここに集まってから全国各地に広がっていくのだ。旅行客向けの場所やモノなどは一切なく、そもそも立ち入れる場所が今いる広場しかないのである。
「ここはエルデン。商街道の終着点で、王都魔本産業の始まりの場所だよ」
「ほう、ここが……」
エレンは興味深そうに周りを見渡した。
「そう。ここから、私たちの住む東部ストリートや西部魔本街に魔本が流れていくの。魔本師なら人生で一度は来てみたい場所なんだ」
まぁ、私は王都住みだから何回も来れるんだけどね。
魔本師が魔本を手に入れる方法は主に四つ。遺跡からの直接入手、中古買い取り、エルデンから組合を経由して魔本を入手、エルデンでの直接入手である。
後半の二つは分かれている必要がないと思う人もいるかもしれないが、そうでもないのだ。
組合経由の魔本はお店側が委託を受け、販売を行っている。よって、売れなかったものは返品が可能。
しかし、エルデンでの直接入手だとお店側が購入をすることになるので返品ができない。
もちろんエルデンでの直接入手にもいい部分がある。
それは店の特色を出せる魔本や、自分が置きたいジャンルの魔本を仕入れられる点だ。
組合経由だと店の規模、売上によって卸される魔本の数や級がある程度決まっているのである。
ちなみに、遺跡からの直接入手には遺跡探索者からの購入も含まれている。
魔本で稼ぎたいという人々がこの国には溢れているのだ。莫大な需要・供給とはいえ、限られたそれらを多くの人々が奪い合っている。
また、エルデンや組合が産業を独占していないのにも関わらず、ここまでの商街を維持していることからも、組織として強さを感じ取れた。




