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遊びっていったはず②

「はい、汗拭いて」

 エレンに手巾を渡すと、「感謝する」と言ってから手巾を受け取って額の汗をぬぐった。そして、私を通り越して上に視線を向ける。


「これは、凄いな」

 エレンの視線の先には大きな建造物があった。


「これが今日の目的地、エルデン大講堂だよ」


 エルデン大講堂。商街道を抜けた先、魔本師が集うおろしの聖地。


 首を限界まで上に向けてぎりぎり視界に収めることができる時計塔。


 東部ストリートでは一定の間隔で鳴る鐘でおおよその時間帯を把握していた。しかし、ここでは正確な時刻を知ることができるのである。


 ちなみに、エルデンの他には王宮と中央教会ぐらいにしか時計は存在しない。それほどまでに貴重なものだ。


 そして、時計塔に付随する大講堂。


 建材は石。私たちが今いるこの場所に鎮座していた巨石を切り出して、大講堂を作ったのだと師匠から聞かされている。


 その影響だろうか、今はただの建材になっているはずなのに、大講堂は荘厳な雰囲気をまとわせ、私に圧をかけてきているように思う。


 巨石のオーラ、ここに来るたびに圧倒されてしまうのだ。


 次に目につくのはやはり扉。


 私たちの家と同じくらいの高さをした扉は開け放たれており、度々人が出入りをしていた。扉の横には同じくらいの高さをしたガラス。これほどのガラスを用意、設置するのにどれくらいの労力、財力がいるのか。考えるだけでぞっとする。


 エンバー魔本書店の売上、何年分だろう。いや、何十年・何百年の規模だ。


「さて、エレンさん。今日はここで《《競り》》に参加します」

 大講堂を背にし、両手を上げて大きく開く。バンザイの形。


「競り? そんなにお金がかかりそうなこと、いいのか?」

 エレンは私の言葉を聞いて、怪訝そうに眉を寄せた。そして自分の財布を取り出すと、急にお金を数えだした。


「大丈夫大丈夫。魔本の競りだから、そんなに金額はいかないって。身の丈に合うものだけ参加するよ」

 お金を数えるのをやめないエレン。私は財布を取り上げる形で無理矢理ストップさせる。


 エレンは財布を取り戻そうとしてくるので、財布を持った手を上げたり下げたりする。しかし、すぐに取り返されてしまった。考えてみれば、エレンの方が身長があってリーチは長いのである。


 ただ、この攻防で私の話を聞く余裕が生まれたようだ。「魔本の競り……」とつぶやいて、先ほどの言葉を反芻しだす。


「それはつまり、仕入れではないか?」

 エレンは一度何かを言いかけ、口をパクパクとさせる。そして深呼吸を何度か行い、なぜか意を決したような口ぶりで問いかけてきた。


「エレンさぁんっ」

 謎に真面目な顔をしたエレンの背中を、私は笑いながらバンバンと叩いた。


「い、いたっ。ちょ、やめ……サリー殿!?」


「エレンさんって冗談言うような人だったっけ? おもしろいけどさ!」

 今度は驚いたような顔。表情が豊かになったとは思っていたけど、まさかこれほどだったとは。


 まぁ、何しろいい兆候だね。


「ほら、行こっ。エレンさん」

 表情がころころ変わりっぱなしのエレンの手を取って引っ張った。今度はジトッとこちらを見ている。


 まったく、今から遊びに行くというのに。


「まぁ、サリー殿だからな」


「え、なんか言った?」


 私の問いかけに、エレンは目をつむって首を振る。


「いや、何でもない。それよりも早く行くとしよう」

 エレンはそう言って笑うと、私の手を握り返してきてくれた。


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