中央区エルデン商街道①
喧騒。どこを見ても、どこにいっても、人の声が騒がしく私たちを包み込む。
辺り一帯人しかいない。誰も見ておらず、静かで休めるようなところはないに等しいだろう。
現実的ではないと思うかもしれないが、そう思わせてくれるほどの人の圧が目の前に存在していた。静謐で穏やかな郊外とはえらい違いである。
東部ストリートも人は多い。しかし、ここまでではないだろう。こんな場所、ずっといたら気が狂ってしまう。
馬車から降りた私たちは、人の波に乗って大通りを進んでいた。この大通りは今の時間帯、馬車が走れないようになっている。私から見て道の左側が中心地へ、右側は私たちがいた馬車乗り場へ向かう人の流れができていた。
一度立ち止まってしまえば、あれよあれよともみくちゃにされてしまう。かといって、早く歩こうにも前が詰まってそうはいかない。周りと合わせながら、ゆっくりと進むしかないのだ。
コケたりしたら一大事。私はエレンにも十分気を付けるように言っておいた。
そんな危険地帯と言ってもおかしくない場所で、エレンとはぐれてしまうのは避けたかった。再会できた時には日が暮れているだろう。ということで、私はエレンの手を取って歩いていた。エレンには「ちょ、お、おぉ」と、大分嫌がられてしまったが、無理矢理である。
というか、都の中央区が危険地帯って感じられるの変すぎる。犯罪者が多いとか、ギャングの根城だとか、そういう危険ではないのは幸いだけども。
「はぁ」
この道を通るのは初めてではない。すでに数えきれないほど通っているだが、この喧騒には慣れることができていなかった。それに今日はエレンも連れての行動。普段よりも気を引き締めていかなければならない。
「……よしっ」
気持ち新たに、「エレンさん、進むよ」と声をかけた。
「セール中だよ!」
「ほら、買った買った!」
「これ以上はまけられねぇ、勘弁してや」
「泥棒! 万引きがそっちに逃げたぞ、だれか捕まえてくれ!」
人、人、人、たまに猫。様々な人々の声が響き渡るここは中央区エルデン商街道。魔本産業、卸の中心地である。ここから東部ストリート、西部魔本街、そして王国全土、さらには他国にまで魔本が広がっていくのだ。
ここに来て揃わないものはない。魔本師ならば一生に一度は必ず来ることになる場所であると言えよう。
「そこの嬢ちゃんたち、見てかないかい? 掘り出し物が眠ってるぜぇ」
人の熱気でのぼせてきたころ、真横からの声が私の耳に届いた。そちらに振り向けば、大きな布を地面に敷いて座っているお爺さんがいた。
そしてお爺さんが座っているシートには、彼を囲むようにして様々な小物類が並べられている。
謎の人形に謎のお守り、なぜか団扇に金色の剣のおもちゃ。正直に言ってそそられないものばかりである。
「ごめん、お爺さん。また今度!」
私はお爺さんに軽く手を上げてそう返すと、彼は「待ってるぞ!」と手を上げ返してくれた。




